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死に至る罪  作者: 猫蓮
怠惰編
32/61

S 嫌な予感ほど

 スペリオル視点


 城壁に登って下を見下ろす。タイミング良く、盛大な音楽と共に馬車が列をなして進行を始めた。


「おーおー大仰だねぇ」


 欠伸を零し、目に涙が溜まる。片目を強く閉じて眠気を堪える。零れ落ちそうになった水気ごと目を擦って眠気を紛らわす。


「あ゛ー飲み過ぎた……」


 眉根を寄せて顔を顰める。昨日エクエスと酒場に行った後、部屋に戻って飲み直した。いつものようにセーブを外して気が済むまで次々と封を開けた。お陰で寝坊した。まぁそれもいつものことだがな。

 嫌味かってぐらいでっけぇ音量をかき鳴らしやがるせいで頭にガンガン響く。マジ頭(いて)え。頭を抱えるように押さえる。外部刺激加えても変わんねー。


 ちょっくらエクエスが惚れた女の面を拝みに行こうとしたらすでに馬車に乗っちまった後だしよ。ついてねー。無駄足とか一番くそったれじゃねぇか。


 つーかなんだよあれ。たかだか姫さんの旅の護衛に第一師団の精鋭部隊つけるとか馬鹿じゃねぇの? んなことすんなら第二師団(オレら)から人出す必要皆無じゃねぇか。ふざけんなよ。


 あー、やっぱエクエスにしたの失敗だったかも。あいつ馬鹿がつくほどクソ真面目ちゃんだから色々抱えやすいんだよな。んでそれがいちいち厄介。振れ幅が歪み過ぎて振り切ったら最後、元に戻らねぇ。

 惚れたってのも恐いのよなー。変に情を移さなきゃいいけど。純情優柔童貞のエクエスくんだからな~。案外コロッと落ちそー。あ、考えたらマジでその未来しか見えねぇ。


 まあでも、あの場じゃエクエス以外に適任がいないのもまた事実だ。

 第一条件の腕が立つってのはしっかり鍛え(シゴい)てるからあってないようなもの。つまり除外していい。つか精鋭部隊がいんなら別にいらなくね?


 んで第二条件の真面目。これに当てはまる候補は一応エクエスの他に数人いた。片手で数えれるほど。少ない?

 馬鹿言え。真面目な奴ほど貴重であり壊れやすくもあるんだ。正直な奴ほど生きにくい。真っ直ぐであるほど折れやすい。本気だからこそ無理をする。緩衝材が必要なんだよ。程よく怠けて程よく真剣で程よく気の許せる、そんな付かず離れずの飄々と奴がな。分かりやすく言えば機微に聡く臨機応変に動ける奴。つまりオレ!


 まあ、話を戻すとエクエスの他にも真面目な馬鹿はいる。けれどエクエス以外指名できなかった。一人は新婚休暇中、一人は怪我して休養中、一人はちょっと護衛にゃ向かない性質(タチ)だからだ。もうね、選択肢すらねぇわ。はは。乾いた笑いしか出ねー。


「あー! ここにいたんすね団長。もーぉ探したっすよ!」

「っだーうっせ、んなでっけぇ声出さんでも聞こえるわ。頭響っからマジ止めろ」

「まーた酒飲んだっすね。少しは控えたらどうっすか? いい年したカードル職が中年酒粕爺で独り身とかマジやべー」

「あ゛?」


 なんか頭の中で線が切れる音したなぁ。まあいい。取り敢えず今は目の前のクソ野郎を潰そう。大丈夫。死ななきゃ何しても許される。部下をどう扱っても文句は言われねぇ。正当な教育だからな。ああ、団長って楽だな。


「ヒェッ、団長?! 待ってストップたんま!」

「……」

「イーヤー無言で来ないで! 怖い怖い怖いぃ! 団長、マジそれ洒落になんないやつっす! きゃーおーたーすーげぶぇぅ!!」


 先ずは一発。


「そんな……! 親父にも()たれたことないのにシクシク。あ、これマジやべな奴だ。目がイっちゃってりゅへぼぉっ!!」


 右を殴ったら左を殴んのは当たり前だよなぁ。


「はっはっはっ喜べ。オレは今とても気分が良いんだ。お前に次に殴ってほしい場所を選らべる権利を与えてやろう。さあどこがお望みだ」

「はい! 殴らない一択で!!」

「そーかそーかよし分かった」


 腹を思いっ切り()飛ばす。殴るなって言われたら蹴るしかないよなぁ。


「ぎ、ギブ。ギブギブギブ! 無理無理死んじゃうもうやめて!」

「おー四回も殴るチャンスをくれるのか。そんじゃあ期待に応えてやらないとなぁ」


 四回なら四肢で丁度いいな。んじゃま、一発目――


「何を遊んでいるのですか団長」

「ふ、副長ー!」


 手首を掴まれて拳が止まる。止めた手の主は呆れ顔だ。さも今来ましたみたいな顔してっけどだいぶ前から見てたの知ってるからな? 正確には一発目を殴った辺り。


「いやなに、四回殴ってくださいって言われや応えてやるのが上司ってもんだろ」

「言ってないっす! そんなん一言も言ってないっすー!」

「はあ、もういいです。それは後にしてください」

「副長!?」


 裏切られたって驚愕の表情で悲鳴を上げる。つかマジでうるせぇ。殴られる瞬間に同じ方向にずれてダメージ軽減してるのも生意気でうぜぇ。


「それより団長、仕事です。アバリティア領内正教会にて司教が殺害されました。ただちに原因究明を、との命令です」

「チッ、わぁーったよ。すぐに招集かけろ。揃い次第出発する」

「すでに完了しています。残りは団長だけですので今こうしてわざわざ出迎えに来ました」

「あ、そうなの? 悪いね~」


 と、言うわけでアバリティア領に向かう。つかマジで第二師団っていいように使われ過ぎじゃね? こちとらなんでも屋じゃねぇっての。


「んで? これがそのおっちんじまった司教か」

「は、はい……。昨日、朝の祈りにいつまで経っても姿をお見せしない司教を不思議に思い、部屋を訪れたらこのような有り様で……」


 本棚の前で倒れてた、と。息はしていない。外傷もない。持病もなければ健康体だったと。一つ上げるとするならば片足が悪く、歩く時は常に杖を突いていた。その杖は執務机の近くに倒れたように落ちていた。本棚の本が落ちてたまたま頭に当たってそのままってこともないときた。


「…………うん、分からん!」

「そんな……!」

「いやいやだってオレら騎士よ? 戦闘集団。戦うのが本職なの。事件解決とか頭使うことは管轄外なの。命狙われてるから守ってくれってんならまだしも、すでに死んだ人間を見せられたって意味ないの。ね、分かる? 分かるよね? 剣を持って振り回すしか脳がない野蛮人に何期待してんの? ねえ聞いてる?」

「団長そこまでにしてください。理不尽だからと言って関係のない人間に正論並べて鬱憤はらしの的にするのは低俗だと何度言えばご理解いただけるのですか。取り敢えず表向き調査はしたことにしておかないといけないので数日は滞在です」

「へーい。宿の手配よろしく~」


 そして意味のない調査を続けること数日。最悪な報せがやってきた。


「イラ領の教会が壊滅?」

「定時連絡の手紙を出したところ文使いが発見して急いで戻ってきたとのことです。中は酷い惨状だった、とだけ言っています」

「つーことは……」


 言葉の意味を察して頷かれた。頭を前に倒して脱力する。次はイラ領に行けってさ。くそったれ。


 数人残してイラ領に向かう。教会に向かう道中でガキに会った。オレたちを見て早々怒りを露わにする。


「おまっ、お前! あいつらの仲間か!! よくもサニー姐を、サニー姐をっ!!」

「まっ、フォルティスくん落ち着いて。まだカンナギちゃんたちがやったとは決まってないわ」

「でも、あいつらが最後にサニー姐と会ってたんだよ!?」

「待て待て話が見えん。分かるように一から簡潔に説明してくれや」


 というわけで数名残して副長他は先に教会に行ってもらった。はあ、なんだこれ。


 家まで案内されてそのサニーって子を見る。息してない。外傷もない。なんというか、あの司教と同じ?


「んー魂でも抜かれちゃったんすかね?」

「まさか。どうやったらそんなことができんだよ」

「えー、悪魔とかじゃないっすか? いでっ」


 馬鹿な事をほざく奴には鉄拳制裁を食らわせる。そういやまだ四回分殴ってやってなかったな。


「んで? 心当たりがある人物がいるんだったな」

「心当たりってほどじゃないわよ。最後にカンナギちゃんたちをお見送りしただけであたしはその後に何かあったと思ってるわ。あ、カンナギちゃんは薄灰色のサラサラヘアのとっても可愛い女の子よ。ちょっと抜けてるところがあってそこがまた――」

「あんたらと同じ服を着てる騎士の兄ちゃんを連れてた」

「あ? ……っ、ちょっと待て、それって」

「エクエスくんって名前の騎士様だけど知らない?」

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