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死に至る罪  作者: 猫蓮
暴食編
19/61

探し人は狼ですか

 ジュースを堪能しながら町の様子を眺める。中心部に着いたのは昼下がり。レビィとの集合時間、日暮れまではあまり時間はない。探し回りたいのは山々だけど今現在それをするだけの元気はない。となるとこの広場の中で動くのが精いっぱいかな。


「エクエスさんお昼食べてないですよね? お腹空いていませんか?」


 屋台を物色しながら歩く。いい匂いが漂って、そういえばお昼は移動中だったから食べてないことに気づいて尋ねる。


「問題ありません。何か気になる物でもありましたか?」

「ああいえ、今固形物を食べても喉を通らないと思うので大丈夫です。それよりエクエスさんは飲まず食わずですよね。動いてますし休んでませんよね?」

「鍛えているので問題ありません」


 そういう問題ではないと思うけど。うーん、思えば二人っきりの時に彼が飲食している姿は見たことない。護衛とはそこまで厳しいものなのか。

 無理矢理食べさせるのは悪いし……うん、諦めよう。本人が大丈夫と言ってるし。お節介が過ぎると嫌われると言うし。


「エクエスさん、ここに来てから若い男性の方を見ましたか?」

「……いえ、男性に限らず若い年齢層は見ていません」

「そうですよね」


 町を歩いていて気になったのが若年層の方が見当たらないことだ。昨日滞在させてもらった村にも年配の方しかいなかったけど、その時点では特に疑問には思わなかった。小さな村だったのもある。けれど、中心部までもいないとなると話は違う。


「困りましたね」

「何か気掛かりなことでもありましたか?」

「昨晩宿の店主さんに聞いた話ですが、この領には夜になると人喰い狼が出るそうです」

「……末裔、ですか?」

「可能性の一つですが、探してみる価値はあると思っています」

「あてもなく探すよりかはマシですね。しかし、何故若い男性ですか?」

「狼さんだからです」


 店主に聞いてからずっと喉元に引っかかっていた。部屋で考えていたら昔、同僚に言われたことを思い出した。曰く、若い男は例外なくケダモノ(オオカミ)なのだと。容姿が良いほど手に負えなくなる。奴らの好物は若い女子(おなご)。夜は特に危険で、間違っても二人っきりにはならないようにと再三言われた。彼女の首元に歯型の痕が見えた時は血の気が引いた。

 遠い目をしながら大丈夫と言っていたけどとても大丈夫そうには見えなかった。いつか本当に食べられてしまわれないか気が気でなかった。……っと、思い出に浸っている場合ではなかった。時間は有限! 少しでも探さないと。


「……? どうしましたエクエスさん」


 なぜか温かい目で見てくるエクエス。この目は知っていますよ。お母さんがお子さんを見る目ですね。どうしてエクエスがわたしにその目を向けてくるのか分かりませんが。

 そう言えば、彼女の話だとエクエスも狼の条件に当てはまります。夜は別々の場所で寝ているからセーフでしょうか。けれども彼が狼になるイメージが全くできない。お酒を飲むと性格が変わる人がいるらしいし、記憶がなくなる人もいるらしい。もしかしてもしかしなくてもエクエスはそのタイプかもしれない。


 確か、彼女によく会いに来ていた男の方がいました。近づいちゃダメって強く言われていたので話したことはありませんが。彼の事を何と言っていただろうか。


「…………じごろ、さん? わわ、エクエスさん大丈夫ですか!?」


 突然エクエスが咳込んだ。どうしたのだろうか。やはり飲まず食わずではダメだったのだろう。こんなことなら無理を言ってでも何か口にさせたほうが良かった。後悔してももう遅い。


「何か飲み物買ってきます」

「い、いえ……大丈夫です」

「ですが」

「大丈夫です。それより巫女様、お話しがあります」

「は、はい」


 手首を掴んで拘束される。優しくけれど離さないようにしっかりと掴む。その上で、剣呑な眼差しを向けてくる。思わず姿勢を正す。怖くはないけど逆らったらダメな感じがする。


 無表情なエクエスだけど、よーく見てると感情が目に表れているのが分かった。目は口程に物を言うってあれだ。発見したときはエクエスのことを一つ知れて嬉しかったのを覚えている。


「巫女様」


 いけない。思考が逸れた。とにかく、今は目の前のエクエスに集中しよう。目つきがさらに鋭くなっています。


「先ず確認します。どうして若い男性のことを狼だとお思いになられましたか?」

「若い男性はみんな狼さんだと教わりました」

「……では、ジゴロと言ったのは?」

「その方に彼はじごろだから近づくなと言われました。人の名前だと思っていましたけど、違いますか?」

「いえ……まあ、それでいいです」


 尋問みたいだと思いながら正直に答える。隠すことでもないし誤魔化す内容でもない。正直に答えたのに返ってきたのは深い溜息。なぜ。

 いや、そうか。エクエスはお疲れだ。護衛は気を遣うらしいしやっぱり疲労が溜まっているんだ。レビィにお願いして少し休ませてあげた方が良いだろうか。ああでも、そうしたら解任になってしまうだろうか。それは、嫌だな。


 それより、どうやらジゴロの認識は間違っていたらしい。年上の女性に養われてる男性? でもあの二人の年は同じくらいに見えたけど……。まあ、もう彼女に聞くことは出来ないし考えるのは止めにしよう。


 何だかんだと気づけば空は茜色に染まり出した。そろそろ集合場所の噴水に向かった方が良いだろう。結局、めぼしい収穫はなかった。少し落ち込みながら店仕舞いを始めている領民を見渡す。中心部でも変わらず人喰い狼を警戒している。このまま夜を待たずしてすべての店が閉店しそうだ。


「巫女様、あの者の首に」

「え、どこですか?」


 唐突にエクエスに声を掛けられた。彼が指を差している方に目を凝らしてみるがそれらしい人は見当たらない。家に帰る時間なのか通りは多くの人でごった返していた。彼が見つけた場所の周辺を探してみたけど結局見つからなかった。


「首に刻印ですか。それなら見たことがある人もいるかもしれませんね」


 レビィと合流し宿屋に向かった。夕食を食べながら情報共有をする。彼女は少し考えた後、ちょうど通り掛かった給仕に声を掛けた。


「首に模様……ベルのことですか?」

「! そのベルさんという方はどこにおられますか?」

「ベルなら町外れの牧場で羊飼いをしていますよ。お召し上がりになっている羊肉も彼女の牧場から卸したお肉なんです。美味しいでしょう?」


 レビィに視線を向けると頷いた。思いがけず末裔の手掛かりを掴んだ。明日はその牧場に行こうという話をして別れた。


「狼さんは末裔とは関係ないのでしょうか?」


 部屋で一人、考える。末裔かもしれないベルが女性という点で狼の条件から外れる。では巷を騒がす人喰い狼とは誰なのか。今日は見つからなかっただけで若い男性がいる可能性も捨てきれない。

 そもそも伝承ならば今に始まった問題ではないかもしれない。以前の末裔の中に狼がいたのだろうか。


 考えても仕方ないので早く眠ろう。人喰い狼と末裔が同一人物であるかは自ずと知ることになるのだから。

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