目覚めの予兆
とりあえずここまで書きましたが細かい部分とかって書けてますかね?
自分的には初めての小説をそれなりに頑張ってるつもりなんですがちゃんと書けてるか不安です
そしてサブタイがもう
目覚めの予兆
あまりに早すぎる気がします
ですがやっちゃいます
ごめんなさい
アニメとかでも1話から主人公が覚醒しちゃうのとかありますからそんな感じで暖かく見守っててください
「あの時...何でいきなり消えたんだ?」
光の問いかけに俺は呆然とする
「歌があったからだろ」
「何それ?歌なんて聞こえなかったし」
光は何を言っているのか...
俺は一瞬そう思ったが昔を思い出してみれば茜の能力付加した歌は俺しか聞こえない
今まで皆が他の事に夢中で気づかないだけだと思っていたがどうやらそういう訳でも無いらしい
結局俺は歌の事は
気のせいだ
知らない
聞き間違いだった
など意味の分からない言い訳でごまかした(光だからごまかせた)
「痛い」
俺がそうもらしたら茜は食いついてきた
「またなの?平気?歌聞くと雪緋はいつも頭痛起こすから心配だったけどやっぱり出ちゃったか...」
いつも...
そういつもだ
茜の歌を聞くと頭痛がする
何故かは分からない
だがはっきりとしてる事は茜の歌の頭痛ではなく昨日の頭痛だということ
何が違うのかは自分でも分からない
だが違う
「大丈夫。茜のせいじゃないから」
俺はそう言って教室を後にし、逃げるように屋上へ向かった
「雪緋...」
後ろで悲しげな声を上げる茜にも気付かずに
今まで何度同じ事を考えただろう
何故茜の歌で頭痛がするのか
俺の何がいけないのか
そして、本当に傷ついてるのは俺よりも茜じゃないのか
「傷は俺には無いな。。。今まで痛いが傷だって思ってたのに..」
そう
傷なんて無かった
傷つけてるのは俺の方だ
いつも...いつも...
そして昼休み終了のチャイムで俺は次の授業場所である武闘場へ向かった
舞踏場へつくとトーナメント表が作ってあった
下に書いてある人数はクラス全員分だ
計28人
そして俺は一番最初に名前がある.....................................これってやっぱ戦うのか??
「先生!!今日の授業は戦うだけですか?」
「はい。優勝者には景品もありますよ」
茜の質問への返答に生徒はやる気を増す
景品は何か
という問に先生は教えませんと答え、トーナメントについて説明を始めた
「勝敗に関してはルールが3つあります。
一つ目はK.O.です。
相手を気絶にさせれば勝ちです。でも今回はK.O.ポイントというのをつけます。これは相手の体勢を崩せば1ポイント.さらにダウンを奪えばプラス1ポイントで計2ポイント入り、11ポイント溜まれば自動的に勝ち。というもの
2つ目は降参
まぁ、細かい事は説明しなくても分かりますよね。でも私が見てやる気が無い子は勝手に降参にしちゃいますんで気をつけてね。
3つ目は再起不能
これは無いと思いますが一応説明しときます。
相手を動けなくすれば勝ち
ただしK.O.と違い相手の意識がある場合のみこの判定をだします。それでは1開戦を始めますので不知火雪緋君と日野龍馬君以外は観客席に
2人はここにいてください」
他の生徒は皆指示通りに観客席に上がっていく
この武闘場はドーム型になっていて真ん中にそれなりの広さを持った戦闘場。そしてそれを囲むように観客席があり、戦闘場から離れるほど高くなっている
(作者のイメージではプロレスの会場のリングを5周り近く広げた所)
「よろしくな。まぁCランクのお前がBランクの俺に勝てる訳もないんだけどねぇ。。。」
いろんな意味でイラッときた
なので俺は無視して武器であるダガーを2本両手逆手持ちで構える
それに呼応するように日野もハンマーを腰の位置で構える
「頑張ってくださいね。レディファイト!!」
先生の合図と共に日野は左へ走り出す
それに対抗すべくこちらも右へ走り出す
だがここで不思議な事が一つ
明らかにBランクの日野よりもCランクの俺の方が早いのだ
「なっ...なかなか早いな。だが力は!!」
日野はそう言ってこちらに突っ込みながらハンマーを振りかぶる
そしてそれを振り下ろす
ハンマーは俺にはあたらずに俺の少し後ろへ落ちた
いくらハンマーが重量武器とはいえ、スピードが速い方では無い俺に当たらないのは不自然
なら答えは一つ
日野はふざけてる
「遊んでるなんて余裕だな」
ダガーを振り下ろし攻撃すると大津はハンマーでそれを防ぐ
だが重量武器を相手に軽量武器で、しかも1ランク上の相手を力押し...つまりガードしたにも関わらず日野はバランスを崩したのだ
「まだ遊ぶのかよ!」
ガードで上以外が空いた日野に回し蹴りを入れ
さらに、そのまま逆回し蹴りで大津を少し吹き飛ばす
「氷針」
これ以上遊ばれても気分が悪いので魔法で追い討ち
これで少しは真面目にやってくれるだろう
雪緋の目に映ったのは誰もが予期せぬ光景
日野がボロボロになって息を荒げている
「お前ぇぇぇ」
そう言って走りよってきた日野に雪緋は対処できずに棒立ちになってしまっていた
そして日野の手から放たれる白い粉
「何をして....目が..いた..」
目が痛くて開けられない
日野の耳障りな笑い声ばかりが今の雪緋を支配する
他の情報が何も入ってこない
あるのは目の痛みと笑い声だけ
「目痛いだろ。ハハハハハ」
「しょっぱい」
目を押さえながら痛みに耐えるがやはり痛みは消えない
味覚がやっとの事で感じとった情報を口にした
おそらく塩を蒔かれたのだろう
頭に鈍痛
腹に鈍痛
胸に鈍痛
足に鈍痛
鈍痛....鈍痛.....鈍痛
目を開けられない雪緋を日野は殴り続ける
教師の制止を聞かずに
卑怯だ....しかもこんな奴に負けるなんて...........
「 」
声が聞こえた気がした
女性の声
聞き覚えがあるが誰かは分からない
「少し使え」
意味不明
言ってる意味が分からない
「やられすぎだ」
男みたいな口調だ...
雪緋を殴る日野の手は止まらなかった
日野が吹っ飛ぶ今さっきまでは...
「弱いくせに」
そう言って雪緋は日野を睨む
体が重い
だるい
殴られすぎたせいだろう
「銀髪...」
日野の言っている意味が分からない
だが今はそんな事どうでもいい
「実力で言えばEランク程度..身の程も知らずに私を攻撃したこと........何を示すか教えてやる」
日野と雪緋との距離は一瞬で詰まった
だがまた一瞬で開く
(おそらく俺が吹っ飛ばしたんだ)
だが何も感じない
攻撃した感触さえも
今.....俺は誰なんだ???
気付いたら観客席の一番後ろで眠っていた
先生がリングの上でマイクを握って
優勝は夕乃だとか言っている
やはり強いらしい
「あっ起きた」
茜の嬉しそうな声...昼は傷つけたのに
「痛っ....痛くない。怪我は??
誰か治してくれたのか?」
雪緋の質問に茜は変な顔をする
謝れ...という事か
「昼はご
「覚えてないの?日野を倒してる時にハンマーで殴られて裂けた皮膚とか全部直っちゃったんだよ??」(俺の謝罪を遮ってこいつは何て意味の分からないことを...)
その後、茜や夕乃に全部聞いた
雪緋が銀髪になり目は赤とエメラルドグリーンのオッドアイ
さらには無数の白い刀と魔力で出来た半透明な翼
女性の声で話し、気付いたら傷が完治していた
日野は実力的にはEランク程で、Bランクというのは今日みたいに塩などの卑怯な事をして得た物
おかげで日野のランクはBからEに降格された
そして全治1ヶ月の怪我だ
この魔法が発達し、治療の効率が上がった世界で全治1ヶ月というのは実は植物状態寸前レベル
後少しで訴えられたら確実に負け
という所まできていた
危なかった...
そんな気持ちばかりこみ上げてくる
その日の授業が終わり下校中に雪緋は考えごとをしていた
顎に手をあて、俯きながら
銀髪に紅とエメラルドグリーンのオッドアイ
さらに女性の声
女性の声で思い当たるのは殴られてる時に聞いた声だ
しかし姿を見ていないし、そもそも確証が無い
ゴンッ!!
俯きながら考えごとをし、歩く人のお約束は雪緋にもあった
「痛い.....今日は痛いことだらけだな」
自傷的に笑う雪緋が見上げる先には電柱
そしてその先には烏が飛んでいる
心なしか
阿呆
阿呆と鳴いているように聞こえる
だが、烏は急に止まる
まるで時が止まったように...
「どうやら目覚め始めたようだね。僕のたてたシナリオよりも早いのが残念だけどまぁいい」
烏から目を離し目の前を見ると見覚えのある少年
〃時をとめた〃と思われる少年だ
「お前は俺の何を知っているんだ??」
「君が知るにはまだ早い。でも何も分からないまま完全に覚醒したら教えてあげないことも無い。今教えてあげる事はただ一つ。
君は誰よりも異端だと言うこと」
「何を.」
何を言いたいのかはっきり言え!
そう言おうと思ったが遮られた
あいつが指を上げただけなのに何故か言葉を失ってしまった
「君が喋る必要は無い。それに君はもう僕の能力が利かないほど魔法耐性がついている」
楽しみだ
言い残し少年は消えてしまった
「能力って何のことを?」
家についたら少しノートにまとめてみた
―――――――――――――――
遅刻した為急いで学校へ
↓
途中で少年に会う
↓
少し話し、気がついたら昼食時
↓
さっき(下校時)会った時には能力が利かないと言っていた
↓
俺の何かが変わった??
―――――――――――――――
「ノートのまとめ方習った方がいいかな...」
雪緋のノートは汚い訳ではないのだが本人からすれば見づらいようだ
「あっ!そういえば..」
雪緋は昼食時の次の行に試合で容姿・声共に変化
姿の見えない女性の声を聞いた
そして最後の行をシャーペンで乱雑に消し、その横に
何かが目覚め始めている
と書き加えた
雪緋はそこまで書くとベッドに入り眠りについた
深い深い夢の中
時の流れに流されない夢の中
「あなたには悪夢かもね」
そんな夕乃の声が聞こえた気がした
――まただ
また俺を封印しようとしてる
「ごめんなさい...」
女の人の声だ
ヴァルキュリアがどうのとか言っていたあの人
この人は俺の一体何なんだろう??
そんな考えばかりが溢れる中で聞こえた声
その声は聞き覚えがある
姿は分からない。声は女性だけど喋り方は男
そんなよく分からない声を聞き、何故か安心した
「目覚めるときは終焉の間近だ」
終焉が何なのかは分からない
ただ分かることは一つ
目覚め始めたのだから終焉が近いという事
起きるとそこには夕乃がいた
「俺の部屋で何を...??」
その問いに、さも当たり前のように夕乃は答える
「あなたが目覚め始めたから迎えに来たのよ。元々この時の為にずっと一緒にいたんだから。」
「はっ?」
「とりあえず明日組織に来てもらうから覚悟しといてね」
それだけ言い残して夕乃は部屋を出て行く
「あっ夕乃!」
雪緋の呼び掛けを無視して夕乃は歩く
ゴンッ!!
「それはただの絵なのに...フフッ」
笑いをこらえる雪緋
少し声が出てしまっているが
夕乃が出て行こうとした扉は昔雪緋が悪戯心で書いた扉
つまり押しても引いてもぶつかっても壁だ
本物の扉はその横にあるが、上手く落書きで扉と気づかせないような芸術に仕上がっている
それを知らない夕乃は困惑気味だ
「扉はその左」
さらにダサッという雪緋の言葉に夕乃は顔を赤くしながら出て行った
「さてと.......いるんでしょ?出てくれば?」
その言葉をきっかけにしたかのようにテレビの隣の何も無い空間から少し年老いた感じの男性が現れた
「気づいていましたか..まぁそんな事よりも貴方には私達と来てもらいます」
「何で?夕乃の所に行かなきゃならないんですけども」
雪緋の言葉には怒りが見える。
否、ここでは警戒してると言った方が適切だろう
そんな雪緋の心情に気づいているのか気づいていないのか男性は坦々と語り始める
「あの方のいる組織は法に背く存在です。使用すれば人格を崩壊させる薬やキメラ...つまり合成魔獣を作り出している。命を弄んでいるのです!!
そんな所に:生き残り:を行かせる訳には行きません!
:神歌の巫女:と共に来てもらいます」
男性の顔は憎悪とも悲哀ともとれぬ風に歪んでいる
その顔を見て雪緋は何故か悪く言われている友人を養護もせずにその言葉が真実だと分かってしまった
だがそれでもまだ引っかかる事がある
「:神歌の巫女:?」
先程の会話で納得出来なかった唯一の言葉
だが雪緋は口に出してすぐ気づいてしまう
茜の事だと...
「はい。:神歌の巫女:とは歌う事で特殊な能力を発現出来る者の事です。
心当たりがあるでしょう?」
「はい...それで茜は...:神歌の巫女:は何て?」
「引き取ってくれた家族に別れを告げるから3時間程時間が欲しいと」
貴方も別れがあるでしょう?
と言い残すと男性は消えてしまった。
ここで雪緋は2つの事に気づく
先程の老人の言葉の:生き残り:という言葉
そして拒否権が無い
(あぁ・・・今日は厄日だ)
そう言って雪緋は母に別れを告げるためリビングへと向かう
そして雪緋はリビングで驚愕の光景を見た
倒れている母
周りにはたくさんの赤
そして...
その赤を
血を・・・・・
返り血を存分に浴びた夕乃の姿
雪緋は駆けだしていた
左手に魔力を溜め、夕乃に突き出す
だが、それは簡単に消されてしまう
夕乃によって
そもそも人が使える魔法は最大4属性とされている
火・水・雷・氷・風・地・闇・光の中のどれか3つと無という誰でも使える属性4つだ
火と水
雷と氷
風と地
闇と光は相反属性と言われ、相反属性同士を持つことは出来ない。
そして闇と光は魔力の質が全く同じだと他の属性を飲み込んでしまう為、一人で最大4属性という訳だ
魔力の質とは読んで字のとおりだ
魔力の質は生まれつきの物で一人一人違う
例え一卵性双生児でも魔力は違うのだ。
だが、たまにドッペルゲンガーと呼ばれる魔力の質を相手と同じ質にしてしまう能力者がいる
それが夕乃だ
その上夕乃は光属性
水・氷属性の雪緋は簡単に消されてしまう
「アンタじゃウチの相手は無理無理!!
弱すぎるってぇ!」
魔力を飲み込んだ夕乃の魔力は増大し雪緋を襲う
「我望む 汝の加護を 我が前に集いて拒み払え 【ウォーターライン】!」
防御魔法を唱え自衛する
水属性の中級魔法で雪緋の得意とする技
そして学園の実習教師にも認められる程のレベル
それを施した上で次を詠唱する
「汝の剣 突刺にて払い・・・がぁ!」
正面から詠唱を途中で遮られた
防御魔法があるのに
何故?
雪緋の頭の中ではそればかりが流れる
まるで壊れた音響機器のように
雪緋は里親とはいえ母を殺され頭に血が上っていた
信頼シテタ友達
それなりの関係の人間に攻撃され雪緋は動揺している
もしかしたら初めてかもしれない
信頼している者から攻撃を受けるのは
元々人と関わりをあまり持たない―――人と接するのが苦手で持てないのかもしれない―――雪緋だからこそ初めてなのだ
それらの情報は雪緋を焦らせるには十分だった
「【ウォーターライン】」
再び防御魔法を施した雪緋は先程よりも早口で詠唱に入る
「汝の剣 突刺にて払いを生み 退けろ【アイスレイズ】」
雪緋が生み出した氷針は夕乃まで到達すると右側に刃が生まれ回転を始めた
「【レイ】」
夕乃は表情一つ変えずに光の楕円球を生み出す
それは氷針に触れると氷針を砕きながら雪緋へ飛来する
それが防御魔法に触れた瞬間雪緋は双剣を召喚し夕乃に走る
だが雪緋が夕乃へたどり着くことは無かった
防御魔法へすらたどり着けなかった
夕乃が先程放った【レイ】が防御魔法を突き抜けてきたのだ
それによって雪緋はまた吹っ飛ばされる
「さっきから...何が?」
雪緋はまだ分からなかった
相手の魔法どころか、ただの魔力の固まりすら防げなかった理由が
「ん...」
目に何か液体が入った
目を擦ってみると手の上半分が赤く染まっている
続けてもう少し上も擦ってみる
「痛っ」
どうやら吹っ飛ばされた時に額を切ったようだ
そこから血が流れている
「まだ分かんないのぉ?」
挑発的な言葉が室内に木霊する
だがその言葉の意味とは裏腹に雪緋の頭は落ち着いていく
「何で気づかなかったんだろうな.....こんな簡単な事。やっぱり便利な能力だな……ドッペルゲンガー」
そう
雪緋の防御魔法も【アイスレイズ】も意味を成さないのは夕乃がドッペルゲンガーだから
つまり夕乃の魔力の質が雪緋の魔力の質と同じだからだ
「ようやく気づいたか~」
楽しそうに、嬉しそうにクルクルと夕乃は回る
この状況じゃなければ可愛いと言えただろう
だがその行動は雪緋の怒りに油を注いだだけ
「ふざけるな!」
手にした双剣を握りしめ全速力で夕乃目掛けて走る
「【レイ】!」
「【ウォーターライン】」
「無駄無駄無駄ぁ!」
雪緋の生み出した細く円盤型の水の塊は【レイ】に飲み込まれて力を与えていき、簡単に雪緋まで到達
と思われたが雪緋は【ウォーターライン】を唱えると同時に左に大きく旋回したようで、夕乃の真横まで左手の剣を振り上げていた
「これで!」
振り降ろされた剣は無駄な動きを一切せずに対象に向かい鮮血を撒き散らす
「外したか...でも!」
剣は夕乃の右手を掠めただけで致命傷は与えられていない
すかさず雪緋は振り降ろした剣を振り上げて、さらに右の剣で突く
夕乃はそれをバックステップで軽く回避すると詠唱を始めた
「我に従い我を崇めよ 全ての罪を引き裂き正せ【ホワイトゲイン】」
夕乃は雪緋に向けて左手を伸ばす
そしてそこから現れた小さな光球は7つ
それは雪緋の周りに散らばると細長い刃に姿を変えて雪緋を狙う
雪緋は半身傾けて一つ
さらに飛び上がり2つ
上から落ちてくる3つを雪緋は夕乃へ駆け出す事で避け、夕乃に切りかかる
夕乃はのばしていた左手を自分に引き寄せる
「今度こそ!!」
鮮血が舞う
雪緋から
「それは避けたからって消えないのよ。ウチの思うがままに動く」
避けた筈の光6つのうち4本が雪緋の両肘と両膝を貫いている
「きゃあぁぁぁぁああ!!」
突然
部屋に鳴り響いた悲鳴
それは雪緋の物でなければ夕乃の物でもない
そして当然血を流して果てている母の物でもない
なら誰の悲鳴か??
雪緋はこの声の持ち主を知っている
そして夕乃も
「茜…………何で……ここに?」
血を流し続けている雪緋の声は情けないという言葉では足りないほどに震えていた
「あぁ~あ。つまんないの来ちゃった。殺せばいいか」
本当につまらなそうに言う
動こうとする雪緋に目もくれず、夕乃は【レイ】を作り出す
そして雪緋はようやく気づいた
体が動かない
魔力が無くなり続けている
先程刺さった夕乃の魔法が体内の魔力まで飲み込んでいるのだ
(動け……動け動け動け)
雪緋から生まれているのは焦りという負の感情のみ
そんな中聞こえた歌
優しく包み込み癒やしを与えてくれる声
茜の歌が雪緋に刺さった夕乃の魔法と焦りを分解していった
(よしっ!動ける)
一気に夕乃に向かって駆け出す
左手に魔力を込めて
だがそれは意味を成さなかった
【レイ】が茜の喉を切り裂いた
そして喉に重傷を負ってもなお―――虫の息だが―――生きている茜に手を振り下ろした....
《眠りってさ。時に忘れちゃいけない事も忘れさせるな》
振り下ろした手は雪緋に止められている
赤い魔力をオーラのように纏った雪緋によって
「調子に…………乗るなぁぁぁああ!!」
直後突き出された腕によって夕乃は大きく後ろに吹っ飛ばされる
壁に激突した夕乃は崩れた壁と埃、それと煙によって雪緋を視認出来なくなる
(いきなり何が!?それにあの異常なまでに赤い魔力……いったい?)
徐々に煙が晴れ視界がひらけてくる
そこで夕乃の目は驚愕によって大きく開かれる
赤い魔力を纏った雪緋が茜の首に触れていて
離した時には茜には傷一つ無く、規則的に胸が上下に動いている
つまりしっかり自発呼吸をしている
確実に殺せるレベルの攻撃だったのに何事も無かったように生きている
(何故?)
しかし夕乃に考える時間は無い
雪緋がすぐ真横にいて赤い魔力によって固められた剣が自分に向けて降下してくる
それを雪緋と反対側に転がることで回避した夕乃は雪緋に向けて【レイ】を放つ
「バァカ」
やる気の無いような声で喋る雪緋は赤い魔力刀で【レイ】を切り裂く
「そんなっ!!」
雪緋はここぞとばかりに夕乃に近づき首を掴み持ち上げる
徐々に、しかし着実に力が込められる
「このっ!【レイ】」
腕に直接魔法を放ち雪緋から逃れ、せき込みながらも雪緋を見る
すると雪緋の腕は今の攻撃で完全に折れていた
「これでその腕は使えないわねぇ」
安堵感に包まれた声での挑発も次の瞬間には負け犬の遠吠えとなる
雪緋の赤い魔力が折れた辺りに集まるとみるみるうちに腕が回復していく
最終的には20秒とかからずに元通りになっている
「そんなっ!何で!こんなの有り得ない!!」
「黙ってろよウルサいな」
そんなやる気の無い声を聞いた夕乃には恐怖しか沸き上がってこない
直後雪緋は赤い魔力刀を突き出し右に振る
その動きは夕乃の動きを確実に捉えていて、突きを左に避けた夕乃の首を掠める
雪緋は追い討ちとばかりに夕乃の胸に手をあて魔力を一気に放出
それによって吹っ飛んだ夕乃の体は又も壁に激突する
すぐに立ち上がろうとする夕乃だが、足元がおぼつかない
大きく息を吸い込んで回復魔法を唱える
「集え光よ 汝らの恵みを分け与えたまへ【リィジョン】」
回復魔法をかけてようやく立ち上がった夕乃を見て雪緋は妖しく笑う
「戦闘中でも胸に触るのはダメなのよぉ!分かっ……て」
夕乃の見た雪緋を夕乃は雪緋だと思えなかった
口元は妖しく歪み突き刺して関節に与えた傷は無い
そして何より虚ろな目
吸い込まれそうな漆黒の目に再び恐怖を思い出す
(ウチを人間と思ってるかも怪しいわね……)
雪緋は再び夕乃の首を持ち上げる
しっかりと距離はあった
確かに恐怖していたが目をそらしていない
ずっと見続けていた
それにも関わらず夕乃が雪緋が動いたのを知覚したのは首を持ち上げられてからだった
夕乃はもう一度雪緋の腕に【レイ】を放つ
それはまたしても雪緋の腕を折り、夕乃の脱出口を作り出す
「2度も同じ手を!!」
舐めるな!!
そう言おうとしてやめる
すでに完治した腕が魔力を込めて襲ってきている
「そんなもの!!」
ドッペルゲンガーと光属性で雪緋の魔力を消し去る
だが魔力は消せずに雪緋の攻撃はしっかり当たった
「消せない……なんて………」
「もう飽きた」
そう言う雪緋の声は冷たく思い
夕乃の【レイ】がいくつかとんでくるが全て魔力刀で切り落とす
「甘い!」
突っ込んできた夕乃は雪緋の胸に手をあてて【レイ】を放つ
この至近距離で放たれた【レイ】によって雪緋の体は宙に浮くが着地してすぐに体制をとる
そしてさっきまでと同じように損傷した胸に魔力を集めて回復する
そして雪緋は倒れた
元々夕乃の攻撃によって魔力も血液も大幅に減っていたのだ
おそらくそのせいだろう
「やっと死んだ??」
それに気づかない夕乃は雪緋の生死を調べるために近づく
「まだ生きてる...」
首を触り生死を判定した夕乃は【レイ】を作り出す
そしてそれを雪緋に向けた
……………………
…………
……
…
またここか...
「また死にかけているのか。随分弱いんだな...」
うるさいな。顔も見たこと無いんだけど
何も見えない
聞こえるものも:アイツ:と雪緋の声だけ
そんな場違いとも言える場所で話す2つ
「顔が見たいのか?ならこれでどうだ?」
そう言っていきなり現れた顔は雪緋だった
違う場所は銀の髪と紅い瞳だってことだ
…
……
…………
……………………
作り上げられた【レイ】は一つの光剣に貫かれ消えた
そしてその光剣を作り上げた本人
銀髪の雪緋は冷ややかな目で夕乃を見ている
そして魔力の放出によって夕乃を吹っ飛ばし距離をとる
直後、夕乃の意識は小脳付近への衝撃で途絶えた
雪緋は気絶している夕乃を鋭い目つきで眺めていた
「洗脳系魔法か...【マジック・キャンセル】」
雪緋の放った【マジック・キャンセル】とは対象にかかっている魔法を強制的に解除する魔法で、上級魔法である
「こうなりましたか...」
初老くらいの男性が何も無い空間から出てきた
先程雪緋の部屋に来た男性だ
「見てたのか...まぁいい。それよりもこいつも連れていけるか?」
連れていく・・・とは男性が言っていた場所の事
場所も地名すら知らないが連れていくという事だ
「なぜ?」
「こいつにかかっていた洗脳系魔法は解除したし、いざとなれば取り押さえられる」
「素直に置いていくと心配だと言えばいいじゃないですか」
男性は呆れ顔で言うが雪緋は苦笑
「じゃあ早く行きましょうか」
男性はすぐに転移を発動させ、雪緋・茜・夕乃・男性の4人はその場から消えた
〝〟〝〟〝〟
目を覚ますと知らない天井が目に入った
暖かいしおそらくベッドの中だろう
周りを見渡すと椅子に座って本を読んでいる男性と
もう一つのベッドで眠っている夕乃
そして何故か俺と同じベッドで、しかも真横で寝ている茜を見つけた
「目覚めましたか」
雪緋が起きた事に気付いた男性が話しかけてきた
雪緋はそれを合図に上半身をあげ、もう一度周りを見回す
なんというか凄い所だ
高そうな置物に高そうなカーテン
このベッドだって随分と高そうだ
「ここは?」
しかし雪緋の口から出た言葉は金とは無関係だった
後になって本人も不思議に思ったのは誰も知らない男の秘密である
「ここはカリッツァ大陸の中央にある:リンクタウン:ですよ。転移であなた方がいたシース大陸のヘラから一気に来ました」
この男性は笑顔で凄い事を言う
この世界は5つの大陸で構成されていて、その内一番大きいのがカリッツァ大陸
そして一番小さいのがシース大陸だ
そしてその距離約9000キロメートル
その距離を一発で4人を運んだんだから相当すごい
転移という魔法は移動距離と人数によって消費する魔力の量が変わり、距離が2倍なら2倍の魔力を。
人数が2倍なら2倍の魔力を。
という風に計算できる
普通の魔術師なら3人を5000キロメートルまで運ぶのがやっと。
腕利きの魔術師でも3人を8000キロメートルがやっとである
それを考えると顎が外れるほどの驚嘆に値する
しかし雪緋はリアクションをとらない
とったら負けな気がするから
「俺達を連れてきた:本当の:目的を聞かせてくれ。……って言ってもどうせだめなんだろ?」
「はい。残念ながら」
雪緋は「そうか」とだけ続けると少し考える素振りをした後に言う
「じゃあみんなが起きたら今後どうするかについてアンタの意見を聞かせてくれ」
雪緋は起き上がり近くにある水差しまでたどり着くとコップに移し少しずつ飲みだした
「その事なんですが.....:神歌の巫女:はおそらく起き上がりません」
衝撃的な一言に雪緋は口の中の水を盛大に吐き出してしまう
「はっ?」
「理由としては喉に多大なダメージを受けましたね。それだけなら良かったんですが光属性の攻撃でしたので、その魔力が残って体を蝕んでいるのです。この場合その光属性の魔力が無くなるまで起きあがることはありません」
悲しげに、苛立たしげに話す男性を雪緋は俯いたまま話を聞いていた
「それは本当か?」
「はい」
「ちゃんと検査したのか?」
「はい」
「やけに手が早いな」
「………………はい」
最後の言葉は少し殺気を込めて放った雪緋は返答を聞くと盛大にため息をついた。
「治す方法は?」
その言葉に男性は申し訳なさそうな顔で「本人の魔力が光属性の魔力に勝つしか無い」と告げた
それを聞いた雪緋はさらに大きいため息を一つ
「じゃあ夕乃が起きたら意見を聞かせてくれ」
「!」
男性は驚き雪緋をまじまじと見る
それもそうだろう
友が寝たきりだと聞かされ、その上本人が勝たないと一生目覚めない。裏を返せば死ぬまで目覚めない事もあると言っているのに微動だにしない
それが驚きの理由
「随分と強いんですね。私なら崩れてしまいそうです」
「強いんじゃない。信用してるんだ。それか…………俺には何も無いだけだ」
そう告げると雪緋は再びベッドに潜り、茜を抱き締めながら眠りについた
「ハァ…………それを強いと言うんですよ。。。それにしても見せつけてくれますねぇ」
男性は嫉妬の籠もった笑みを浮かべた後
部屋を出ていった。