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72.浄化樹の再生③

(ルビー視点)


 暗闇の中で、水晶玉を通しても聞こえなかった大好きな人達の声が聞こえてきた。


(どうして……)


 恐る恐る目を開けた私の目に映ったのは、私が瘴気の中心にいて、皆がその周りで魔法を唱えている姿だった。


「皆……!」


 全員が魔法を手のひらに込めた瞬間、ヴィンス先生の口から飛び出た言葉で状況を理解する。


(魔法を元あった浄化樹に返して、浄化樹を復活させようとしているんだわ!)


 その間にも皆が苦悶の表情を浮かべ、ついには倒れてしまう。

 今すぐ駆け寄りたいけれど、瘴気の外には出られないようになっていた。


(っ、このままでは魔力切れで皆の命を削られてしまう……!)


 魔力切れが起こると普通ならば気絶してしまうけれど、浄化樹は魔力を欲しているようで皆が倒れた後も構わず魔力を吸収している。

 その内に、地面が複雑な紋様を描きながら金色の光を帯びるけれど、一向に芽すらも現れない。


(っ、やっぱり魔力が足りないんだ……!)


 私にも魔力さえあれば。

 ……いや、使えるかもしれない。

 あれだけ強かったはずの瘴気が小さくなったのなら……、やってみる価値はある。


(確か、皆はこう言っていたわね)


 呪文は覚えている。強く願えば、きっと。

 皆に届くかは分からないけど、届いて欲しいと願って笑みを浮かべて口にする。


「後は大丈夫。私に任せて」


 そう呟くと、思い切り息を吸って……、在らん限りの声で叫んだ。


「浄化樹よ! 我が名はルビー・エイミス!!

 足りない分の魔力は私から……、魂が消え失せても良い、どうか皆を助けて‼︎

 魔力・返還‼︎‼︎」


 刹那、身体の中の魔力が暴発し、一気に力が抜けていくのが分かる。


(意識が薄れていく……)


 力が入らない。

 まるで、自分が消えていくようなそんな感覚。

 何とか最後の力を振り絞って目を開けた先に見えたのは、枝葉がどんどん私の目線の高さを超え、遙か上へ……空へと伸びていく姿で。


(あぁ、よかった……)


 これでもう、大丈夫そうね……。

 今度こそ瞼を閉じる。

 ふわふわとした心地の中に、身を委ねたその時。


「何も大丈夫じゃないわよ。本当、アンタは目を離すとすぐ無鉄砲なことするんだから」


 そんな声と共に、グイッと引っ張られていくのを最後に意識を手放したのだった。





(マリー視点)


「……リー、マリー!」

「ん……?」


 名前を呼ばれ瞼を開ければ、安堵したようにこちらを覗き込んでいる水色の瞳があって。


「……わ!?」


 その端正な顔、もとい推しの顔が近いことに気が付き思わず後退りすれば、ゴンッと頭に鈍い音が。


「いっ……!?」

「だ、大丈夫!? 驚かせるつもりはなかったんだけど……、でも、ほら後ろ」

「え……?」


 そういえば、私は何に頭をぶつけたんだろう。


(っ、もしかして!)


 思い当たってバッと振り返れば。


「…………!!」


 そこには、見上げても遙か上に枝葉が広がっている、見たことのないほど大きな大木があって。

 また、私がぶつかったのはその幹だということに気が付いた時には、感極まって涙が込み上げ……。


「……っ」

「わ!?」


 思わずエディ殿下に抱きついてしまう。

 エディ殿下が一瞬驚いたように身を捩ったことによって、自分が何をしているかに気付きハッとして慌てて身を引こうとしたけれど。

 エディ殿下は何も言わず、私の頭に手を置き撫でてくれる。


「よく頑張ったね。……マリー」

「……っ」


 いつの間にか呼び捨てにされていることに気が付き、またその声がとても優しくて。

 これではどちらが年上なのか分からないとは思いながらも、より一層声を上げて泣いてしまう。

 それでも、なんとか口にした。


「っ、これで、瘴気は、浄化されるように、なるんですよね……?」

「うん。ヴィンス先生が今確認してくれているけれど、瘴気は発生していないようだよ。

 それに、僕も魔力の流れを感じられないから、僕達は魔法が使えなくなっている。

 きっと、元あるべき場所……この木に宿っているんだね」


 エディ殿下の言葉にそっと身体を離し、二人で木を見上げながら、ポツリと呟く。


「……魔力が切れて、意識がなくなりかけた時。

 声が聞こえたんです。

 “後は大丈夫。私に任せて”って……」

「俺にも聞こえた」


 その声にそちらを見やれば、木に手を置き涙を流しながら微笑みを浮かべるグレアム殿下の姿で。

 私の隣にいるエディ殿下も、シンシア様と一緒にいるカーティス様も、レイ様も、ヴィンス先生も頷いた。

 そしてグレアム殿下は言葉を紡ぐ。


「……ルビーが、守ってくれたんだ。俺達のことを。

 浄化樹の再生を終える最後まで。

 ルビーは、本当に格好良いな……っ」


 グレアム殿下はその場で膝を突き、涙を流す。

 エディ殿下は私の手を引き、グレアム殿下の元へ行くと何も言わずにただその背中を励ますように叩いた、その時。

 パァッと不意に浄化樹に光が灯る。


「「「!?」」」


 驚く私達の元にふわふわと漂い舞い降りてきたのは。


「……ルビー?」


 グレアム殿下がふらふらとした足取りで立つ。

 グレアム殿下が腕を伸ばし、その腕に舞い降りてきたのは紛れもないルビー様……お姉ちゃんだけど。


(っ、髪が、白い……?)


 亜麻色の長い髪は白く染まり、固く目は閉じたまま。そして、身に着けている服まで真っ白のその姿は、宛ら天使のようで。

 ヴィンス先生はポツリと呟いた。


「……ルビーが、次の浄化樹の守り人……、精霊に、選ばれた……?」


 その言葉に皆の視線がグレアム殿下の腕に収まったルビー様に集まって……。


「「「えーーーーー!?!?」」」


 木漏れ日に照らされた浄化樹の下、ルビー様が再び地上世界に戻ってきたことを喜ぶよりも先に、驚きが優ってしまった私達の心からの声がこだましたのだった。

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