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70.浄化樹の再生①

(マリー視点)


 危機を目の当たりにして王城へと戻った私達は、見た光景をそのまま国王陛下に伝えた。

 王城には既にヴィンス先生を始め、生徒会の面々が集まっていた。


「……私が予期していたよりも、ずっと早く危機が迫っているようです。

 私とグレアム殿下がルビー様からいただいたお守りが、危機が迫っていることを教えてくれました」


 私の言葉に皆が動揺し、その中でエディ殿下が震える声で口にした。


「じゃ、じゃあ、ルビーは僕達に危険が迫っていることを知らせようとして……?」

「はい、間違いないと思います」


 私が頷くと、カーティス様が吐き捨てるように口にする。


「くそっ! 未だに浄化樹の再生に反対者がいるなんて……!」


 そう、学園の生徒達が一丸となって呼びかけた結果、九割以上の支持を集めることが出来たけれど、後一割に満たない貴族……学園に通っている子供がいない方々からの反対を受けていた。

 それでも、今まで瘴気や魔物が出ていないかの見回りや浄化樹の再生についての計画も進めてきた。


(そして、今までに見たことのない瘴気が地下世界から上がっているのを確認した……)


 意を決して口を開こうとした私より先に言葉を発したのは。


「こうなった以上、事態は一刻を争います」


 そう口にしたのは、グレアム殿下だった。

 グレアム殿下は国王陛下の前で跪くと、言葉を続ける。


「……ルビーが身を挺して守ってくれた国を、私達が守れなかったら彼女の心を踏み躙るも同然です。

 瘴気はこうしている間にも国に蔓延する。

 十年前の流行病とは比べ物にならない犠牲者が出ます。

 そうならないようにするために、私達は今ここにおります。

 国王陛下、ご決断を」


 国王陛下が私達を見回す。

 その間に、生徒会の面々とシンシア様、私もグレアム殿下に倣って跪き、頭を垂れると。


「……そなた達の心意気、しかと受け取った」

「「「!」」」


 国王陛下のお言葉に顔を上げると、陛下は微笑んでいた。

 その笑みは、国王としてではなくまるで温かく見守るような……、父親のような目で私を見て口にした。


「我々は、心のどこかでまだそなた達を子供だと思っていた。

 だが、そんなことはなかったな」

「「父上……」」


 グレアム殿下とエディ殿下が驚いたように口にする。

 国王陛下は一度瞼を閉じてから再度瞳を開けると、一瞬で国王の顔へと戻り威厳に満ちた声で告げた。


「グレアム・スワン、エディ・スワン、カーティス・ベイン、レイ・シールド、シンシア、そしてマリー。

 そなた達に国王の名において新たに命を下す。

 今すぐヴィンスと共に瘴気が上る地へ赴き、“浄化樹の再生”を行え」

「「「……!!」」」


 名前を呼ばれ下された命……“浄化樹の再生”の言葉に、ピリッとした空気に包まれ、一気に緊張が走る。


(……いよいよだわ)


 知らず知らずのうちに拳を握った私達を見て、国王陛下はもう一度笑う。


「そんな怖い顔をしていたら、地下世界にいるルビー嬢も驚いてしまうぞ」

「「「!」」」


 まさか冗談を言われるとは思わず顔を見合わせた私達に、国王陛下は言う。


「案ずるな。反対している者達には招集をかけ、これから説得を試みる。

 民のことも私に任せて、そなた達は浄化樹の再生のことだけを考えるんだ。良いな?」

「「「はい!!」」」


 今度こそ、迷いなく返事をした私達に国王陛下は満足げに頷く。

 国王陛下も頷きを返してくださってから、今度はヴィンス先生を見て言葉を発する。


「ヴィンス、皆を頼む」

「はい、国王陛下。必ずや誰も犠牲になることなく皆を守り、“浄化樹の再生”を成功させ、そして……、ルビー嬢を助け出します」


 ヴィンス先生の言葉に私達は頷く。

 国王陛下は頷くと、もう一度私達に目を向け口にした。


「瘴気の地は戦場と同じだ。死と隣り合わせの地にそなた達を向かわせることが、果たして正解なのかは迷っているところだが……」

「ご安心を、必ずや命を果たし、皆を、ルビーを守ってみせます」


 グレアム殿下の言葉に、国王陛下は一度息を吐いてから言う。


「そなた達を信じて待つ。皆、生きて戻るように」


 私達はその言葉に頷くと、もう一度首を垂れ、迷うことなく走りだした。


「ヴィンス先生、どうしますか!? 瘴気の場所……ブレイディ地方まではここからだと半日程はかかってしまいます!

 先ほどの瘴気の状態から推測すると、瘴気が国中に広がるのも時間の問題かと!」


 私の言葉に、ヴィンス先生は難しい顔をしてから言う。


「とりあえず王城から外に出よう!

 ……本当だったら少しでも魔力を温存するべきところだけど、事態は深刻だ。やむを得ない。転移魔法を使おう」

「「「転移魔法!?」」」


 転移魔法とは、その名の通り瞬間移動出来る魔法のこと。

 その魔法が使えるのは。


「こう見えて、私は精霊なんだ」


 ヴィンス先生の冗談に、皆に笑顔が戻る。

 ただ一人、顔が強張っている方に気が付いて。


(そうか、ブレイディって)


「シンシア様」

「!」


 私はその方の……シンシア様の名を呼ぶと、笑みを浮かべて頷く。


「大丈夫です。必ずブレイディ地方の自然を守りましょう。

 そして、ルビー様が帰ってきたら是非、私とルビー様のことをご招待してください!」

「! ……はい! もちろんです!」


 シンシア様の顔が少し明るくなったことにホッとしていると。


「良いな良いな、楽しそう俺も交ぜて! 皆でピクニックなんてどう?」


 カーティス様の言葉に、シンシア様は少し顔を赤らめて頷く。


「は、はい、是非……!」


 そう言って笑い合う二人を見て、もう心配はいらないなとそう思った。



 そして、ヴィンス先生の転移魔法で向かった瘴気が上る場所……、元浄化樹があったその場所は。


「「「つ……!!」」」


 見ているだけで苦しくなるほど、黒い瘴気が立ち込めていて。

 ヴィンス先生が信じられないという風に首を横に振る。


「っ、このままでは、元々の浄化樹の場所まで近付けない……!!」

「「「!?」」」


 ヴィンス先生の言葉にその場にいた誰もが凍りつく。

 “浄化樹の再生”には、“浄化樹”が元あった場所で行った方が条件が最適だという見解をヴィンス先生が出した。

 そして“再生”には、代表者である私達が浄化樹を芽吹かせる場所にいなければいけないとも。

 そのため、浄化樹の場所まで近付けないということは。


(“浄化樹の再生”を発動することが出来ない……!?)


 私達が呆然としている前で、瘴気はまるで私達を嘲笑うかのように、青い空へ次々と上っていきその空を覆っていくのだった。




(ルビー視点)


「っ、はぁっ、はぁ……」


 息が苦しい。

 それでも、この足を止めてはいけない。


(瘴気を、止めなくては……!)


 魔法が使えない私に何が出来るか分からない。

 何も出来ないかもしれない。

 けれど、皆を守りたい。

 ただその一心で瘴気に向かって走る。

 最初は走っているのに全然近付いている感じがしなくて、まるで永遠に走り続けなければいけないかのように感じたけれど。


「……!!」


 ついに瘴気が立ち込めるその場所まで辿り着いた。

 そこは、まるでクレーターのように瘴気の周辺が大きく窪んでいて。


(確かここは、ベリンダさんに案内された場所だわ)


『ここは、もしかしたら探し人、最悪手がかりだけでも掴めるかなと思って訪れた場所。

 根は地下世界に、幹は地上に、枝葉は天まで広がってたんだ』


 彼女が呼んでいたその名前は。


「“浄化樹”……」


 呟いてから立ち込める瘴気を見つめる。

 今の瘴気こそ、まるで大木のように空へと上っているけれど。


(……でもこれは、“浄化樹”と違って人に害を及ぼすもの。

 そして、“浄化樹”はこの瘴気を浄化するためにあったのだと……、今から千年以上前に枯れたとベリンダさんは言っていたわ)


 この瘴気は、人間にとっての悪であり敵。

 そして、私に今出来ること。それは。


(っ、やるしかない……!)


 辿り着いたら、これしか方法はないと思っていたけれど、いざやろうと思うと身がすくむ。けれど。


(迷っている暇は、もうないの……!)


 少しでも勇気を分けてもらおうと、グレアム様からいただいたお守りをギュッと握る。

 そして、大きく息を吸い込みあらんかぎりの声で叫んだ。


「瘴気は全て、私が浄化してみせる!!」


 そう叫ぶや否や、地を蹴り一目散に真っ黒な瘴気へ……、そして瘴気に指先が触れた刹那、私の身体は瘴気に呑み込まれたのだった。

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