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6.決闘と革命①

 始業式が終わり、下校の合図である鐘が塔の上で鳴る。

 そんな鐘の音などお構いなしに、私と元婚約者様……王太子殿下は対峙していた。

 王太子殿下は、いつもの王子然とした他所行きの顔はどこへやら、苛立ったように呟いた。


「……見世物になるつもりはないんだが」


 彼の言う通り、私達の周りには見物人という名の野次馬が大勢いる。


(やはり噂というのはどこで広まるか分からないものね)


 そんなことを考えながら、クスッと笑って口にした。


「良いではありませんか。私と王太子殿下が正々堂々戦うところを皆様に見ていただけるせっかくの機会ですし」

「……まさか、噂の出所は君か?」


 その返答には答えず、代わりに視線をもう一人の人物に向けて言う。


「ベイン様が審判だとは思いませんでしたわ」

「あれ? 言ってなかったっけ?」

「聞いておりませんわ」

「これは失礼」


 全く失礼だと思っていないその態度に神経を逆撫でられたものの、まあ今はそんなことはどうでも良いと頭を切り替え、意識を集中する。


(魔法決闘は、数年前……彼に勝って以来ね)


 魔法決闘。

 その名の通り、自身の魔法のみで戦う決闘のこと。

 そもそも決闘とは、剣や魔法、馬術、槍、総力戦といった種類があり、私が得意なのは剣と魔法と総力戦だ。

 ちなみに、勝敗を決めるのはどちらかが負けを認めるか、先に地面に手をついてしまった方の負けとなる。


(それを分かっていて、魔法決闘を選んでくるあたりやはり策士ね)


 今朝王太子殿下に怒りをぶちまけた通り、魔法は血筋において得意な属性の系統というものがある。

 辺境伯家である私の場合は火、今目の前にいる王太子殿下は水、といった具合に。


(つまり、属性的に私の方が圧倒的に不利だと分かっていてなお、魔法決闘を申し込んだ)


 そんな王太子殿下の意図からするに絶対に勝とうとしているのだと思うのだけど、そんなのは知ったことではない。


(まあ、こちらとしても都合が良いわ)


 圧倒的不利な状況で私が勝つ。

 それほど痛快で愉快な話はない。


「両者、位置に」


 審判の言葉で私と王太子殿下は互いに見合う。

 視線を逸らすことなく真っ直ぐと見つめ合ったのは、いつぶりだろうか。

 思わずそんなことを考えてしまうほど、ルビーの記憶の中に彼を真っ向から見た記憶はなかった。


(それくらい、ルビーは彼のことを……)


 思考が一瞬違う方向に行きかけたのを慌てて切り替え、気を引き締める。


(他のことに気を取られては駄目。この勝負、何としても勝つのは私でなければならないのだから)


「始めっ!」


 鋭い合図が飛ぶ、と同時に彼が勢いよく地を蹴り、一気に間合いを詰めてきた。

 まさか最初から仕掛けてくるとは思わなかったけれど、彼のスピードは十分に目で追うことが出来る。


(みず)(はしら)!」


 彼が唱えた呪文により、私がいた足元から一気に水が吹き出す。

 それをすぐに躱しながら、私も呪文を小さく口にした。


()(はしら)


 刹那、彼の足元から火柱が現れる。


(それにしても、この世界の呪文ってとても簡単なのよね)


 属性と呪文の種類を少し間を置いて口にするだけで、簡単に魔法が出せる。

 ちょっと安直ではと思うところもあったけれど、すぐに唱えるくらい簡単に出来た方が効率が良いわよね、と納得しながら、私の魔法を難なく躱した彼にすぐさま次の呪文を唱える。


(ほのお)・龍」


 次に現れたのは、紛れもない龍の形をした炎。

 火の呪文より炎とつく呪文の方が火力が強いのが特徴。

 そのため、王太子殿下の頭上目掛けて現れた炎龍に、彼はすぐさま反応する。


「水・龍!」


 同じく彼の頭上に現れた水龍と炎龍が、凄まじい音を立ててその頭をぶつけ合う。

 それだけで、観衆という名の賭け事をしているだろう悪趣味な野次馬達の歓声が上がった。


(ふぅーん。意外とやるじゃない)


 高度魔法の呪文に対応できるあたり、王太子というだけあって、武の方にも心得があるのだろう。けれど。


(私は戦場でも戦えるようにと育った辺境伯家の娘なのよ?)


 この程度、なんてことはないわ。


(あまり茶番をやりすぎるのも面倒ね)


 一気に片をつけにいきましょう。

 幸い、彼も本気で挑んでいるようだし、とその心意気だけを買った私も、本気で相手をしてあげることにした。


(さあ、ここからが本番よ)


 私のとっておき、見せてあげる。

 そうして口角を上げた私に、彼の顔が強張る。


(さて、どこまでついて来れるかしら?)


 せいぜい楽しませてね、と炎龍を消した私に、今度は水龍が私目掛けて迫ってきた……刹那。


「“(えん)(じん)(えん)(そう)”」


 私の呪文に呼応し、炎を纏った魔法陣が足元に顕現する。そして。


「っ、髪の色が……!」


 それに合わせて、横目で捉えた髪の色は、毛先にかけてが青の、まるで火の温度によって変わるグラデーションの色に染まっていた。

 そう、これこそが。


(ルビー・エイミス……エイミス辺境伯家に代々伝わる、秘密の力よ!)


 その間にも水龍が近付いてくるのを感じ、私がその水龍の方を真っ直ぐと見上げた、すると。


「「「!?」」」


 悠に10メートル以上の長さがあった水龍が一瞬にして霧散する。

 正確には。


「蒸発した……?」


 先程とは打って変わり、シンと静まり返った見物人の中から誰かがポツリと呟く声が耳に届く。

 その言葉にクスッと笑った私は、小さく笑い口にした。


「火・縄」


 次の瞬間。


「きゃー!!!」


 見物人である女生徒から悲鳴が上がる。

 その視線の先を見やると、王太子殿下の身体の自由が利かないよう、腕や腰を一周するように縄で縛られていた。

 しかもその縄は、火を纏っている。

 その縄を信じられないという風に呆然と見つめる王太子殿下の姿に、自然と口角が上がった。

 そして。


「チェックメイト」


 そう呟いた私と、審判であるベルン様が勝者として私の名を呼んだのは、同時だった。



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