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68.国家革命④

新年明けましておめでとうございます!

皆様にとって充実した素敵な一年となりますように。

皆様の幸せのほんの一部となれるよう、執筆という形でお届け出来ることを願って。頑張ります!

 校舎に足を踏み入れた瞬間、生徒の皆にあっという間に囲まれた私達が驚いていると。


「エイミス様が生贄となられたというのは、本当なのですよね?」


 震えるようなシンシア様の言葉にその場がシンと静まり返る中、答えたのはグレアム殿下だった。


「……あぁ、本当だ。ルビーは俺達を……皆を守ってくれたんだ」

「「「!」」」


 グレアム殿下の言葉に誰もが息を呑む。

 そして、辺りは一瞬にして悲しみに包まれた。


「エイミス様は、最初から最後まで私達の救世主でしたのに」

「私達は、尊ばれるべき大切な方を亡くしてしまったのですわ……」

「俺も、男女関係なく声を上げるエイミス様に憧れていた……」


 次々と声を上げ、涙を流す生徒まで現れて。

 それでも、悲しむだけではルビー様が喜ばないと、生徒会の面々が顔を見合わせ口を開こうとしたその時。


「皆様! 泣いても何も出ませんわよ!」

「「「!?」」」


 その声に驚き振り返ると。


(……ど、どちら様……?)


 私の記憶にはない上、制服を着ていないその姿に首を傾げる私の横で、グレアム殿下が呟く。


「……マクレナン公爵令嬢」


 マクレナン公爵令嬢。

 その名前に聞き覚えがあり、あっと声を上げた。


(確か、ルビー様からそのお名前を聞いたことがあるわ。

 名前はアデラ様と言って、今も続くルビー様の親衛隊を作ってくださった創立者だって……)


 その時のルビー様は恥ずかしそうにしていたけれど、応援してくれるからこそ頑張らなくてはと思えるのだと言っていた。

 でもアデラ様は、ご卒業されたとお聞きしたけれど……。

 そんな疑問を解消するように、アデラ様が声を張る。


「本日は、“あるもの”を持参いたしましたの」

「“あるもの”……?」 


 アデラ様はグレアム殿下の言葉に頷き、ツカツカと殿下に歩み寄ると、何か書状のようなものを渡した。

 グレアム殿下はそれを受け取り、中身を取り出して……ハッとしたような顔をする。


「……これは」

「“浄化樹の再生”に賛成する署名を、お父様に集めていただきましたの。

 中には反対なさっていた高位貴族の方々もいらっしゃるようですわ。

 ですが、この私が自らお茶会を開き、ご夫人方に説得致しましたところ、ルビー様がいかに素晴らしく聡明であり、この国に必要な方だったかを理解していただけまして、そのルビー様を助けられるのなら、と。後はご覧の通りですわ」


 アデラ様のお言葉に生徒会の面々がグレアム殿下の手元にある紙を覗き込む。

 私もそっと隙間から覗き込むと。


(っ、すごい……!)


 記憶にあった反対派であった方々のお名前まで、ズラリとそれぞれ直筆で書かれていた。

 グレアム殿下もこれにはパッと顔を上げ、アデラ様を見やる。


「ありがとう、マクレナン嬢。君のおかげでまた一歩、ルビーと共に国を守ることに近付けた」

「礼には及びませんわ。……私も、尊く誰よりも大切な方を失ったと思っておりますもの。

 それに……、私はあの方こそが、未来の王妃殿下となられるべき方だと思っておりますわ」

「……!」

「まあ、ルビー様のお気持ちは存じ上げませんけれど。そこは未来の国王陛下の手腕、ということになりますわね」


 アデラ様の言葉に、グレアム殿下が吹き出したように笑う。

 その笑顔は、ルビー様を失ってから初めて心から浮かべる笑みだと思っていると、グレアム殿下はその笑みを湛えたまま口にした。


「はは、マクレナン嬢は手厳しい」

「ルビー様にはルビー様がお選びになった殿方と幸せになってほしいだけですわ」

「肝に銘じよう」


 アデラ様もグレアム殿下の言葉に微笑んでから、今度は一度手を叩くと声高らかに告げる。


「あなた方は、ルビー様がそんなお顔をして喜ぶとでもお思いですの?

 ルビー様が何のために私達のために立ち上がり、革命を起こし、学園を、国をも守って下さったのか。

 そのご恩に対し何も報いることなくただ泣き喚いても、ルビー様は戻ってきませんわよ!

 たとえ戻ってこられたとしても、呆れて学園にはいらっしゃらないかもしれませんわ!

 ……胸に手を当て、自分に出来る最善を探し実行する。

 それこそが、私達がルビー様から見習うべきお姿であり、今こそ彼女に恩返しする機会ではなくて!?」

「「「……!」」」


 アデラ様の堂々とした佇まいとそのお言葉に、誰もが息を呑む。

 その中で声を上げたのは、シンシア様だった。


「……そう、ですよね。アデラ様の仰る通りです。

 ルビー様は私達が泣いているところより、笑ったり立ち向かったりしている姿を見る方が喜んでくださると思います」


 そう呟き、今度はグレアム殿下を見やる。


「この前の演説の後、ある一人のおばあさんが私の家を訪れました。

 私が学園に通っていることを噂で聞き、もし可能だったら一人の老婆の声を届けてほしいと。

 街に魔物が出たあの日、いち早く駆け付け、怪我の確認をしてくれたのは紅の瞳をした女性だった。その瞳を見て動転し恐れてしまい、ひどい言葉を投げてしまったにも拘らずその女性は微笑み、言葉をかけてくれた後、臆することなく魔物を倒す為に真っ白い羽翼を纏い『助ける』と言って飛び立たれた。

 それがルビー・エイミス様だったと気が付いたのは、記念式典での演説だったと……、流行病からも瘴気からも民を守ってくれた彼女に謝りたい、そして、“浄化樹の再生”に私達平民も微力ながら参加させてほしいと……、そう仰っていました」


 シンシア様はギュッと胸の前で手を握ると、涙を堪えて訴えた。


「私達平民も、ルビー様に救われました。

 “浄化樹の再生”によってルビー様が守ろうとした国を守れるのなら、私達が力を惜しむことはありません。

 たとえ魔法が使えなくなろうが、花は種から芽が出てやがて花を咲かせる。

 花を咲かせる為に必要なのは、魔法ではなくこの豊かな大地そのものを守らなければ意味がないのです」

「シンシア様……」


 そうしてシンシア様の言葉を筆頭に、皆様の声が続く。


「微力ながら私も両親に説得し、無事に賛同を得ることが出来ました!」

「魔力が全てではないというお言葉をお聞きして、その通りだと思いました。私にも協力させてください!」

「“百年に一度の災厄”によって、百年に一度の“生贄”……ルビー様のような犠牲の上で成り立つ幸せなんて、本当の幸せではないと思います」

「その通りだ」


 一男子生徒の言葉に、グレアム殿下が頷き力強く言葉を発する。


「“百年に一度の災厄”を根本からなくさなければ、哀しみの連鎖は消えない。

 ルビーだって、強いように見えて彼女もまた一人の女性だ。

 死が怖くない人間なんていない。

 人の生は皆平等にあるべきなのだ。

 誰一人として私は、寿命以外で命を落としてほしくはない。

 そのためにも、皆の協力が必要だ。

 “百年に一度の災厄”という悲劇を繰り返さないために、ルビーが守ってくれた国を守ることが出来るように。

 皆も、協力してほしい」


 グレアム殿下の真っ直ぐな言葉に、その場が一瞬静まり返って……、次に声を上げたのは、エディ殿下だった。

 

「やろう。僕は、ルビーを助けたい」

「俺も。彼女がこんなところで死ぬはずがない」

「そうですね。エイミス嬢を失うわけにはまいりません」


 生徒会の皆様の言葉に、私も力強く口にする。


「ルビー様も、見守ってくれているはずです。

 私達がこの国を救うところを。

 そうしたらルビー様も、またこの国に……、この学園に戻ってきてくれるはずです!」


 私の言葉に皆が頷いてくれる。

 グレアム殿下も頷くと、口を開いた。


「私達の手で起こすんだ。この国に“革命”という名の風を。ルビーと共に!」

「「「おー!!」」」


 ルビー様……お姉ちゃんの思いを引き継ぎ、学園が一致団結した瞬間だった。


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