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67.国家革命③

(ルビー視点)


 地下世界に一人取り残された私は、あるものを目の前に格闘していた。

 それは、ベリンダさんから渡されたもの……、地上世界の様子を見ることが出来る腕で抱えるくらいの大きさの水晶玉だった。

 なぜそんな水晶玉と格闘しているかというと。


(……気になる、けどようやく未練を断ち切ったのに、また様子を窺うのはちょっと……)


 自分がいない世界で皆がどうしているのかが気になるけれど、複雑な心境だった。

 私がいなくても、皆は元気に過ごせているだろうか。悲しんでいないだろうか。

 笑っていられているだろうか……。

 その姿を確認して安心したい反面、こうも思ってしまう自分がいる。


(私がいなくても、変わらない生活を送っているのかしら……)


 前の自分だったらそれが本望だと割り切れた。

 けれど。


(それはそれで、自分が最初からいなかったようで悲しい……)


 こんな気持ち、矛盾しているしどうかしている。

 皆の幸せが私の幸せ。それが良いはずなのに。


(〜〜〜やっぱり気になるわ!)


 葛藤するだけ無駄だと……、とりあえず試しに一瞬だけ見てみようと腹を括り、水晶玉に手を翳す。

 それによって水晶玉が淡い光を放ち、次に映し出されたのは。


「これは、王城……?」


 呟いてからピンときた。

 それは、乙女ゲームのスチルにもあった光景だから。


(マリー様にグレアム様、エディ殿下、国王陛下……、後カーティスとシールド様もいるわ。ということは、やはりこれは“百年に一度の災厄”が終わりを迎えた記念の式典ね)


 ゲームを知る私にとってはある意味特等席ね、なんて思っていると、丁度マリー様が何かを口にしているところだった。


「〜〜〜あぁ、もう! こんなに映像が綺麗なのに声が聞こえないなんて!」


 ベリンダさんから事前に説明されていたけれど、水晶玉には一つ難点がある。

 それは、声までは聞こえないこと。

 あくまで映像……何が起きているかの把握だけが出来るようになっているらしく、唯一聞こえる声といったら、“生贄”に相応しくある者だけ、なのだそうだ。


(……でも、これで良いのかもしれない)


 声まで聞いてしまったら、私はきっと、欲張りになってしまうから。

 断ち切ったはずの未練が、また再燃しかねないから。


(……グレアム様)


 水晶玉に映し出されたのは、何やら涙を流すグレアム様の姿で。

 その涙のわけが私であったらと思うと、心が苦しくなる。


(いつか、彼が泣き虫で弱々しいからいやだと言ったけれどあれも嘘)


 あなたは人のためにも泣いていた。私のためにも泣いてくれていた。

 弱々しいのではなく、情に厚いからこそ彼は涙を流す。

 それは弱さではなく、他人の痛みが分かる彼の尊重されるべき個性。


「……ごめんね」


 私のせいで、皆を振り回してしまった。

 傷つけてしまった。

 私は私なりに考えたけれど、これが最善だと思ったの。


 映像の中にヴィンス先生が出てきたところで、見ていられなくなり映像を消す。

 そうして、水晶玉を抱えるようにして枯れたはずの涙を流したのだった。





(マリー視点)


「……随分早く学園に着いてしまったわ」


 そう呟き、長くため息を吐く。

 今日は長い夏休みが明けた二学期最初の登校日。

 お城のバルコニーで演説をしてからは半月が過ぎようとしていた。


 あの日、記念式典にて演説を行った内容は、すぐに王国中に知れ渡り、新聞にも掲載されたという。

 話を聞いていた観衆の皆様……大体は平民出身の方々は、その後賛成して下さったけれど、貴族の方々に関しての支持を集めるのには難航していた。


(やはり皆、今まで当たり前のように使えていた“魔法”が使えなくなることを、一番恐れている)


 その次の言い訳は、ルビー様が本当に災厄の生贄になったのか、信じられない方々もいるようだ。

 それに対し、グレアム殿下が激昂しそうになったのを全員で止めるのは、大変だったけれど。


(でも、グレアム殿下のお怒りはよく分かる。私だって、酷いと思った)


 まるで自分のことしか考えていない……、自分さえ良ければどうでも良い、と言ったふうな口を利くのは、貴族の上の方にいる方々で。

 悔しいのは、今回の革命には、必ず全員の賛同を得ることが前提条件だということ。

 それもそのはず、魔力を返上するということは、全員分の魔力を返上しなければ“浄化樹”が再生してはくれないだろうという見解の下にあるからだ。


(しかも、たとえ賛同を得たとしても、“浄化樹”が再生するとは限らない)


 浄化樹には膨大な魔力が必要であり、千年以上が経っている今、国民全員の魔力を集めたらどれくらいの魔力量なのかは定かではないということと、浄化樹をそもそも再生出来るのかという点は、ヴィンス先生でも分からないそうだ。


(私も、浄化樹についての知識はあまりない)


 それもそのはず、全部クリアした後のその後のエピソードは、あくまでオマケのエピソード。

 つまり、とてつもなく短いストーリーで構成されていたのだ。

 簡単に言えば、“瘴気を封じ込めたらかつてない危機が迫る! 危機を回避するには、“浄化樹の再生”を試みるしかない! よし、やってみよう!”……、という感じに終わり、気になるその後は。


(次回作に持ち越し……!)


 信じられないモヤモヤ展開に私は呆然としてしまった。

 危うくお姉ちゃんにネタバレするところだったのを何とか堪え、「早くプレイして」と急かしてしまったほど。

 あまりの急な終わり方に、悪役令嬢ルビーの“生贄”としての突然の死と同様、ファンは大激怒し炎上しまくっていた。


(その後、すぐに続編が出たのだけど……、ゲームを買ってからすぐに事故に遭って、私も亡くなってしまった)


 つまり、続編以降の未来については私も履修出来ていないため、“浄化樹の再生”というのは言葉のみで、その後がどうなったのかも、浄化樹の再生に成功したのかも分からない。


(だからこれは、賭けということになる)


 失敗したら後はない。

 けれど、何もしなくても後はなく、間違いなく犠牲者が出て最悪国が滅びる。

 だったら行動するしかない、と国家を巻き込んで革命を起こしたものの。


(賛成派は現時点で五割……、逆を言えばそれだけの人が賛同してくれているというのは奇跡に近いのかもしれないけれど)


「マリー嬢」

「!」


 声をかけられ振り返ると、そこには。


「皆様……」


 生徒会の面々の姿があって。

 淑女の礼をすると、エディ殿下が口を開く。


「マリー嬢も、やはり早く登校したんだね」

「はい……、現状を思うと、居ても立っても居られなくて」


 私の言葉に、皆が頷く。

 グレアム殿下は厳しい表情を浮かべて言った。


「今のままでは、間違いなく国が滅びる。そうなんだろう? マリー嬢」


 グレアム殿下の言葉に拳を握り、慎重に頷く。


「はい、間違いありません」


 ヴィンス先生ともその後話し合い、今現在では目に見えずとも可能性は十分にあり得るだろうと……、瘴気の浄化は生贄一人では賄えておらず、その瘴気がいつ暴発してもおかしくないという見解が出された。


(それに、“浄化樹”を再生することが出来れば、もうルビー様のような生贄を出さずに済む。

 そして上手くいけば……)


 お姉ちゃんを助けられる。そうなったら、ルビー様も喜んでくれるはず。

 だから、残された私に出来ることは。


「……始業式が勝負です。何としてでも、皆様の賛同を得ましょう」


 学園には、平民出身の魔力が高い魔法使いと、貴族は全員入学している。

 そのため、同年代の学園生のいる貴族出身の方ならば、説得が可能なのだ。

 私の言葉にその場にいた皆が頷く。

 私は踵を返すと、聳え立つ学園を一度見上げてから深呼吸をし、前だけを見据えると歩き始める。


 そして私達が学園の建物に足を踏み入れた、その時。


「マリー様!」

「グレアム殿下!」

「生徒会の皆様〜!!」


 私達の名前を呼び、次々と生徒達が周りに寄ってきて、あっという間に囲まれたのだった。

ギリギリ一日二話投稿で頑張りましたが、やはり年末までには終わらなかったので年を越しても続きます…!

もうすぐ完結予定ですので、お付き合いいただけましたら幸いです。

本年も後少し、作品をお読みくださった皆様、本当にありがとうございました!

来年もどうぞよろしくお願いいたします。

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