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65.国家革命①

 国王陛下の挨拶から始まり、次は聖女である私と王子殿下お二人が話をする。

 その時が、革命の時。


 国王陛下が私を紹介する。

 私は事前に打ち合わせした通りに国民の前に姿を現すと、集まった大勢の人々から歓声が上がった。


「聖女様〜!」

「救ってくれてありがとう〜!」

「聖女様万歳!!」


 それに笑顔で手を振るのがゲームのスチル絵だったけれど、私は微笑みを浮かべてから息を吸い、言葉を発した。


「国王陛下からご紹介に預かりました、私が聖女のマリーと申します。

 本日は、皆様にお話があって参上いたしました。

 少し長くなってしまうかもしれまんせんが、どうか最後までお聞きいただきたく存じます」


 私達が話している様子は、魔法を使って遠方にまで映像と声が届くようになっているらしい。

 上手く説明出来るか不安だけど、意を決して静かに口を開いた。


「……今日こうして私が皆様の前でお話し出来ているのは、青空が見られているのは、“百年に一度の災厄”が幕を閉じたのは、私が聖女だったからでも聖女の力のおかげでもありません」


 私の言葉に人々がどよめく。

 そのどよめきを受け止めながらも伝えたくて、言葉を続けた。


「“百年に一度の災厄”が起きた時、私はただ、何もする事ができず傍観していただけなのですから」


 私の説明でさらにどよめきが増す中で、後ろから足音が近付いてくる。

 その足音の正体は。


「私も同じだ」

「僕もです」


 王子殿下二人だけでなく、カーティス様にレイ様、そして皆様から見えないところにはヴィンス先生の姿があって。

 エディ殿下は私と目を合わせて頷いてくれたことで落ち着きを取り戻し、もう一度私達の言葉に混乱しているバルコニーの外に目を向けて告げた。


「なぜ“百年に一度の災厄”が終息したのか。

 それは、たった一人の女性のおかげです」


 その一言で、皆がシンと静まり返る。

 何となくそれだけで分かる方もいるのだろう。

 私は丁度良いと、よく聞こえるように声を上げた。


「皆様は、“百年に一度の災厄”の際、生贄を差し出していたのをご存知ですよね。

 百年に一人選ばれ、地下世界に送る。

 そうすることで、瘴気から国を守ってきました。

 本来ならば感謝されるべき存在がなぜか、国の中では“悪魔堕ち”と呼ばれ、忌み嫌われる対象であることもご存知のはずです」


 観衆の皆様は静まり返ったままだったけれど、その顔には動揺や息を呑んだのも分かり、私は訴える。


「今回も例に漏れず、ある一人の女性が自ら名乗りを上げました。その方こそが」


 私の隣から、グレアム殿下が前に進み出てその名を紡いだ。


「我が婚約者であったルビー・エイミス。エイミス辺境伯家の長女である彼女だ」


 今度こそ観衆はどよめき、まさか、という声も聞こえる。

 ルビー様と言ったら王太子殿下の婚約者であることは周知の事実。

 ルビー様があまり表舞台に立つことを控えていたとしても、名前だけは皆に知られているはずなのだ。

 そして、王太子殿下も認めているというならば、皆が驚くのも無理はない。

 私はもう一度、声を上げる。


「ではなぜ、ルビー様が“生贄”を自ら志願したのか。

 真実は、十年前の流行病……誰もが大切な人を失ったあの悲劇まで遡ります」


 私の言葉を引き継ぐように口を開いたのは、エディ殿下で。


「流行病は、十年前の秋から春にかけて流行し、原因は不明、死者は当時の国民の4分の1にまで及んだ。

 医者まで罹患し為す術もなく絶望に陥った最中、突如として特効薬が見つかり、たった一晩で流行病は終息を迎えた。

 薬の開発者は今まで幼いがために伏せられていたが、その開発者こそが当時八歳だったルビー・エイミス。彼女だった。

 ……つまり彼女は、自分が“生贄”になることと引き換えに、皆を救ったんだ」

「「「!?」」」


 皆が動揺し、狼狽える。

 十年前の流行病といったら、それこそ知らぬ者はいない。

 そして今度は、グレアム殿下が静かに口を開いた。


「……私が知ったのは、彼女が“生贄”として命を失った後だった。

 何も知らぬ者達から“悪魔堕ち”と忌み嫌われていた者こそが、皆を救った救世主であり、自らを陥れるために緘口令さえも破り、守るために皆に武器を与えた。

 彼女こそが、勝利の女神と称えられるべき女性だった……っ」


 グレアム殿下が耐えきれず涙をこぼす。

 エディ殿下はその背中にそっと手を添えてから皆に向かって告げた。


「僕は、十年前から全てを知っていた。彼女が“生贄”となったことも、ずっと孤独の中で戦い続けていたことも。

 事実として残ったのは、救えなかったことだけだった……」


 その後に私も続く。


「城下で魔物が出た時。私の力が目覚めた時も、最初にそばにいて身を挺して守ってくださったのはルビー様でした。

 ルビー様がいなければ、私がここにいることはなかった。

 聖女の力が目覚めたのも、彼女のおかげでした」


 声が震える。目からはやるせない思いが涙となってこぼれ落ちる。

 呼吸も上手く出来ないけれど、皆の前で話せるのは、訴えられるのは今しかない。


(お姉ちゃんを……、ルビー様を助けたい)


 その一心で、懸命に訴える。


「こうしてルビー様によって“百年に一度の災厄”から守られたスワン王国ですが、再び国には危機が訪れようとしています」


 皆が驚いているけれど、これは本当の話。


(ただしこの事実は転生者……ゲームで未来を知っている私だけ)


 ヴィンスルートが4人の攻略対象者達を完璧にクリアした後に解放される理由は、ヴィンスルートでは彼が精霊であることを前提として世界観設定の情報が組み込まれている……つまりネタバレ防止のためと、それから。


(全てのエンドをクリアした後にしか発生しない、その後のストーリーがある)


 それが私の言う“国の危機”なのだ。


「……“百年に一度の災厄”は地下世界から発生する“瘴気”を生贄が百年単位で交代し、浄化することで地上の平和を保ってきました。

 ですが、その“災厄”が訪れたのは千年前……、ある事件が起きたせいだということが()()()()()で判明いたしました」

「ここから先は、私が説明いたしましょう」

「! ヴィンス先生!?」


 突然のヴィンス先生の登場に、観衆がざわつく。

 これには私も驚いていた。


(だってヴィンス先生は、精霊だからあまり表向きには姿を現さないって……)


 驚く私の心を読んだように、ヴィンス先生が微笑む。


「私も、彼女を救いたいんだ」

「!」


 そういうと、ヴィンス先生は皆に対し静かに、それでいて凛とした澄んだ声で口を開いたのだった。


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