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49.本編-一学期交流会-①

「交流会?」


 マリー様が首を傾げたのに対し、私は頷く。


「えぇ。生徒同士の親睦を深めるために定期的に交流会が行われるの。二、三学期末と、それから一学期だけは新入生歓迎会の意味も込めて五月に行われることになっているわ」

「交流会……」


 マリー様の不安げな表情に私は苦笑いする。


「そうね、交流会といっても以前お話ししたように小さな社交界、という感じね。

 私は生徒会という立場だし、あなたは世間から見れば聖女であり、編入生でもあるから出席しなければならないと思うの」

「そう、ですよね……」


 マリー様が不安に思うのも無理はない。

 彼女のカーテシーは大分形にはなったけれど、それ以上に聖女というプレッシャーが彼女に大きくのしかかっているだろうから。


(きっと、聖女という肩書きだけで近付いてくる方々も大勢いらっしゃるわ。だからといって逃げるわけにはいかないのも事実)


「大丈夫よ。こういう時のために特訓したんだもの。

 私もいるし、まだ時間はあるから分からないことがあったら遠慮なく聞いて。

 それに、あなたの実力を知っている方々は皆あなたを慕って下さっているから大丈夫よ」

「は、はい」

「問題は、エスコートをしてくださる男性よね」

「!」


 私が腕を組み口にしたのに対し、彼女はピシッと固まってしまう。

 その様子を見て苦笑する。


「……難しいかしら?」

「いえ、はい、いえ……」

「難しそうね」


 明らかに動揺しているマリー様に向かって言うと、彼女はギュッと胸の前で手を組み言った。


「はい……、私、あまり同じ世代の男性との接点はなくて。

 孤児院ではもちろん一緒に生活していましたが、その……、あまり仲良くは出来なかったというか」

「……まさかとは思うけれど、いじめられていたの?」

「は、はい、お恥ずかしながら」


 その言葉に私は怒る。


「なんて見る目のない男達なのかしら! こんなに可愛い女性をいじめるなんて!」

「あ、で、でも、良いんです。確かに、今でも男性が苦手だと思ってしまうことはありますが、その……、ルビー様のおかげで、生徒会の方々は皆様は優しくしてくださるので、大分克服出来るようになった、気がします」

「……マリー様」

「我儘は言っていられませんよね。私は特待生ですし、聖女としてはまだまだ未熟ですが、皆様との交流を深めたいと思うので参加いたします」


 マリー様の健気な言葉に、私はガシッとそんな彼女の肩を掴む。


「え、あ、あの」

「任せてちょうだい。私が必ず、あなたを守ってみせるわ!」


 マリー様の孤児院での生活の裏にそんな事情があったとは知らなかった。

 確かに、乙女ゲーム中での彼女は、最初ぐいぐいくる男性(特にカーティスとか)に対しどう接して良いか分からず、戸惑っていた描写があったけれど。


(もしかしたら孤児院にいた男の子達も、マリー様のことが好きでその裏返しの行動をしていたのかもしれない……、なんて、それでも本人が傷ついているんだもの、許せないわ!

 私がなんとしても守らないと)


 そう思い、意気込んだ私にマリー様は困惑したような表情を浮かべて言う。


「あ、ありがとうございます……」

「当日のことは全て私に任せて! というかプロデュースさせて!

 あなたを完璧な淑女として、聖女として紹介してみせるから!」


 これも立派なヒロイン育成! とぐっと両手を握って力説する私を見て、マリー様はようやく笑顔を見せてくれたのだった。




 そうして、マリー様にとっては初の社交界デビュー、それから、乙女ゲームでは攻略対象者との仲をより深められるイベント、一学期交流会の日を迎えた。

 マリー様の部屋をノックし、許可を得て入室する。


「マリー様、準備は出来たかしら?」

「は……、って、えぇ!?」

「どうしたの?」


 鏡を見ていたマリー様が私の方を振り返った瞬間、素っ頓狂な声を上げたのに対し首を傾げれば、マリー様は唖然とした表情で言った。


「ル、ルビー様、その格好は一体……」

「あぁ、私のことは気にしないで。それよりもよく似合っているわ!」

「!」


 マリー様は私の言葉に恥ずかしそうに顔を赤らめ、自身が着ているドレス……もとい、王家から贈られたドレスを見て口にする。


「ド、ドレスがとっても素敵すぎて、私には」

「卑屈になるのは禁止! あなたは今日一日聖女として過ごさなければならないのよ? 

 脅すわけではないけれど、顔見知り以外の方々はほぼ全て敵だと思って油断しないで」

「て、敵……」

「まあ、良からぬ輩は私が近付けさせないように努力するわ」


 そう言って彼女の後ろに回り込むと、持ってきていたペンダントを彼女の首元につける。

 彼女は自身の胸元で光る淡い紅色のネックレスを見て驚き、触れないように指し示して言った。


「こ、このペンダントは?」

「お守りよ。私がとある魔法使い様に依頼して作っていただいた物なの」

「そ、そんな大事なものを私に?」

「あら、あなたのために作っていただいたのよ?」

「え……」


 マリー様の肩に手を置くと、鏡越しに彼女の姿を見て言い聞かせるように言った。


「もしも何か困ったことがあったら私の名前を呼んで。

 そうすれば、私の元へ飛んで来れるようになっているから」

「と、飛んで来れる?」

「えぇ」


 マリー様が背負う聖女という立場は、いくら想像してもそのプレッシャーが他人に理解できるものではない。

 彼女はそれでも、逃げずにここで頑張っている。

 だから。


「たとえ私が離れていようともあなたを見守っているから。せめてこのお守りが、あなたの心の拠り所であり続けるよう祈って。

 あなたも、このペンダントを見て私が味方だということを、どうかいつまでも忘れないでいて」

「ルビー、様……?」

「さて、そろそろ時間ね。行きましょう!」

「わっ……」


 マリー様の手を取り、彼女を椅子から立ち上がらせれば、彼女が身に纏う金色の髪を薄くしたような淡い金色のドレスの裾がふわりと揺れる。

 そんな彼女を目の前に、あぁ、と思い立った私は、一度繋いだ手を離してから胸に手を当て礼をし、手を差し伸べて言葉を発した。


「夜空に浮かぶどんな星よりも眩しく輝く、聡明で麗しいマリー嬢。

 どうか、ルビー・エイミスに今宵エスコートさせていただく権利をお与えいただけますか」


 そう尋ねた私に、彼女は驚いたような表情をしたものの、やがてはにかみながら言葉を返す。


「はい、どうぞ宜しくお願い申し上げます。私の騎士様」

「……っ」


 その破壊力は、スチル絵以上に神々しく女の私でも見惚れてしまうほどで。


(っ、マリー様がこんなに可愛かったら、それは攻略対象者達も恋に落ちるわよね……!)


 でも私としては、生半可な態度の男性陣に彼女を譲る気はさらさらないけれど!

 と、せめて今日一日の間は彼女を絶対に手放すものかと決意するのだった。

マリーの設定を登場人物設定に追加いたしました。

また、奨学生→特待生に変更させていただきます。

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