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41.物語-序章-②

本日19時にもう一話更新します。

 と、そんなことを考えて現在に至るのだけど。


「……どうしてこうなったの!」


 今度こそ口に出してキッとグレアム様を睨めば、そんな視線には慣れたとでも言うふうに堂々と前に座り口にした。


「どうしても何も、君が視察に同行したいと願い出たんじゃないか」

「それはそうだけど! 最後に会話した時に約束したじゃない! “現地集合”って!」


 そう、確かに視察に同行したいと言い出したのは私だ。

 この目でヒロインが覚醒するのを確かめ、被害を最低限に抑えたい一心で。

 問題は、今のこの状況……、“現地集合”ではなく、なぜかグレアム様と二人きりで馬車に乗っているという異常事態だ。

 私の言葉に、グレアム様はまたも質問されると分かっていたというように息を吐きながら言った。


「仕方がないだろう? 国王陛下の命令なのだから。

 何が起こるかわからない今、きちんと君をエスコートしろと。そう仰せだ」

「だからって、わざわざ王城から遠い私を迎えにきて、その上服まで指定することはないでしょう!?」


 私達は一度、学園寮からそれぞれ屋敷と城へと戻った。

 彼は国王陛下と視察の打ち合わせがあるのだろうからまだしも、なぜ私がお父様に呼び戻され帰らなければならないのか疑問に思ったけれど、断るわけにはいかず帰った先で待っていたのは、今私が着ている服……、お忍び用の街にいる女性の服だったのだ。


(おかしいとは思っていたのよ。いつも頼んでいないのに今日だけは侍女達が待ち構えているものだから……)


 想像してみてほしい。目が覚めて、一人だと思っていた空間にギラギラとした目の侍女達が、逃さないと言わんばかりにベッドの周りにズラッと並んでいるところを……。

 思い出すだけでも悪寒が、と腕をさする私に、彼は苦笑する。


「こうでもしなければ、君はまたエイミス騎士団の制服を着てきただろう?」

「当たり前よ。何しに来ていると思っているの」


 魔物討伐よ、と口にしかけてハッとする。


(そうよね、当たり前だけど目の前の人も、この世界にいる人々も誰一人今日魔物が現れ、聖女が覚醒するのだと知らないものね……)


 当たり前だけど、当たり前ではない。 

 だからこそ、私の立ち回り次第で最悪のシナリオを回避できるかもしれないんだ……。

 自分が未来を知る立場にあることを改めて自覚したところで、そんなことを考えている私のことなどつゆ知らず、彼が笑う。


「俺よりも君の方が緊張しているようだな」

「そ、そんなことはないけれど」


 慌てて否定した私に、彼は真剣な眼差しで私を見つめて言う。


「大丈夫だ。もし万が一何かあったとしても、君を危ない目には遭わせない。必ず、俺が守る」

「……っ」


 あまりにも真剣な瞳をするものだから一瞬息を呑んでしまったけれど、冷静になり言葉を返す。


「……その言葉は、私よりも強くなってから言ってくれる?」

「うっ……」

「それに、いくら国王陛下のお言葉があったとしても、馬車で迎えに来るのはどうかと思うわ。せめて屋敷の外で待ち合わせとかにして、事前に言ってくれないと。

 屋敷の者達があらぬ誤解をして色めき立っていたわ」


 余計な噂も立つしね、と本気で眉を顰めて言えば、彼は聞き捨てならない言葉を呟く。


「……それは俺としては願ったり叶ったりなんだが」

「は?」

「さあ、もうすぐ城下に着くぞ」

「……本格的に無視してやろうかしら」


 そう口にすれば、目の前にいる彼が慌てる。

 本当馬鹿なひと、と興味を失くし、窓の外の流れる景色に目を向けた。




 今日の聖女覚醒イベントがどこで起きるかは、正直なところスチルの一枚絵のみだったため分かっていない。

 だけど、魔物が現れる直前に()()があることと時間帯だけは、何とか記憶の中から探し出せた。


(魔物が現れるのは夕方、陽が沈む頃。それまではまだ時間が十分にある)


 だけど、油断は禁物。私が転生していることでまた何かイレギュラーが発生するかもしれないし、用心しないと。


(それに、ヒロインの容姿も分かっているから、彼女も既にこの街にいるかもしれないし、探して見つけられたら事前に見つけたい)


「ルビー」

「!!」


 不意に顔を覗かれたことで、あまりの近さに一瞬息を呑んだけれど。


「って、近すぎ!」


 慌てて後ろに飛び退けば、グレアム様は「ごめん」と謝りつつ口にする。


「何か気になることでもあるのか?」

「え?」

「今日会った時から何か思い詰めた表情をしている」

「そっ……そんなことはないけれど」


 彼は気が付いて欲しくないところに限って勘が鋭い。

 今もそれを指摘され言い淀んでしまった私に、いつもだったらしつこく聞いてきたはずなのだけど。


「……君が言いたくないのなら良い。だが、今日は視察をしに来たんだから、気分転換に街を見て周るのも良いと思うぞ」

「い、いえ、私は」

「幼い頃、言っていただろう? 『街を見て周りたい』と」

「!」


 それは、私がまだ私達が婚約したばかりだった頃の話だ。

 確かに私は、彼にどこに行きたいか尋ねられ、城下へ行きたいと言ったことがあったけれど。


「……あんな昔のこと、覚えていたの?」

「もちろん」


 彼はさも当然というように頷くと、私に手を差し伸べ、笑って言った。


「あの後すぐ流行病が流行って叶うことはなかったが。思いがけないところで叶ったな」


 私はその手を見やる。記憶の中にある、幼い頃よりずっと大きな手を見て、その手を取ろうかどうしようか迷ったけれど。


(……今日は彼の視察に同行させていただいるんだものね)


 婚約者ではないけれど、互いに身バレしないよう変装している今日から、一日くらいこの手を取っても許されるかしら。

 そんな考えに行き着いた私は、クスッと笑いながらその手に自分の手を重ねて告げた。


「……そうね。本当に、思いがけずに叶ったわ」


 初めて城下に足を踏み入れる今日が、大変な日になることは間違いないけれど。

 ほんの少しなら、この人と街を見て歩いても良いかしら。

 なんて思った私に、彼が不意に私に顔を近付け……。


「……それに、こうしてデートするのは初めてだな」

「……は!?」


 聞き捨てならない言葉に顔を上げ、咄嗟に手を振り払おうとしたけれど、グレアム様は笑みを浮かべる。

 彼の後ろで輝いている太陽と同じくらい、眩しい笑みを。


(っ、本当にこの人は!)


 何を言っても聞かないだろうと諦め、睨んでみたけれど、彼は私のことなどお構いなしに見るからに上機嫌で口にする。


「君に見せたい場所は沢山あるんだ。順番に周ろう」

「……視察なんだけど」

「これも立派な視察だ」


 そう清々しいほどに言い切り、迷うことなく歩き出した彼を盗み見やると、幼い頃の彼と不意に顔が重なって。

 あなたは小さな頃から何も変わっていないのね、と気付かれないように小さく笑ってしまうのだった。

おかげさまで大体の目処が立ってきましたので、本日より連載再開いたします!

(描きたいことが多すぎて、毎日更新しても年末年始までに終わらないかもしれない…と思い始めた作者ですが)頑張ります(笑)お読みいただけましたら幸いです。

応援のほどよろしくお願いいたします。


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