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36.二学期交流会②

 交流会。それは、毎学期末に行われる、その名の通り生徒同士の交流を図り、親睦を深めるための夜会だ。

 といっても大体は婚約者を探す、あるいは、婚約者と共に参加してお互いに婚約者だということを知らしめるためのものだと思っているけれど。


(確かに、ルビーも元婚約者様の後ろをまるで背後霊のように一歩下がってついて回っていたわ)


 もちろん、多少の会話はする。

 けれど、王太子殿下の婚約者という立場上、これが恐ろしく気を遣うし、それでも陰口を叩かれるのだからはっきり言って煩わしい以外の何ものでもなかった。


(ひたすら苦行の時間、とでも言えば良いのかしら)


 でも、今回はそうはいかない。だって。


「ようやく解放されたんだもの……!」


 婚約を解消してから、自分の身体が羽のように軽いわ、なんて鼻歌を歌ってしまいそうになるのを堪え、会場までの廊下を歩く。

 そう、今日は二学期最後の登校日であり、交流会が行われる日なのだ。


 そうしてまずは、女子生徒の控室……普段は淑女教育で使う広い教室の扉をノックすれば、ガチャリと開いた扉の先にいたのは。


「ルビー様!」

「!」


 そこには、シンシア様が笑みを浮かべて立っていた。

 私は普段とは違う彼女の装い……学園側から支給されるドレスに身を包んだ彼女の姿を見て、にこりと微笑み口を開いた。


「お似合いですよ、お嬢様」


 そう口にすれば、シンシア様だけでなく後ろにいたアデラ様方にも被弾する。

 シンシア様もまた、顔を赤らめて言った。


「あ、ありがとうございます……」

「ふふ」


 皆本当に可愛いなあなんて思いながら部屋に足を踏み入れれば、めいめいに着飾った女子生徒達のドレス姿が目に入る。


(うん、やっぱり皆様素敵ね)


 アデラ様は公爵令嬢ということもあり、縦巻きカールに見合った派手なドレス……だけど決して下品ではないドレスを身に纏っている。

 この夜会には招待客がいないため、お城や貴族の邸宅で行われる夜会とは違い、軽装でも良しとなっていて、平民出身の方々にも配慮し、学園側からドレスを貸し出し可能となっているのは手厚いと思う。

 そんな中で私は。


「ル、ルビー様はその格好で今夜のパーティーに?」

「えぇ、そうだけど。似合っていないかしら?」


 そう首を傾げただけで、周囲の女子生徒が色めき立つ。

 シンシア様も慌てたように首を横に振って言った。


「そ、そんな! とってもよくお似合いです!! ルビー様らしくて、素敵だと思います!」

「ふふ、そう? ありがとう」


 自分でも、よく大胆な発想を思いついたものだとは思う。


(予め、お父様にご許可もいただいたしね)


 私はもう、婚約者でないから違う方向性、これが一番自分らしくあれるわと胸を張って見せてから、そういえばと気にかかっていたことを尋ねる。


「私、ずっと気になっていたのだけど」

「?」


 シンシア様に向かって尋ねようとしたその時、コンコンと扉がノックされる。

 近くにいた女子生徒が扉を開けた、その時。


「やあ、お待たせ」

「「「きゃー!」」」


 周囲の黄色い歓声とは裏腹に、うげ、と顔を顰めた私に気付いた彼……カーティスは目を丸くし、ニヤッと笑って言った。


「さすがはルビー! 存在感も意外性もあって間違いなく会場中を虜にする……さすがは僕らの幼馴染だね」

「カーティス。そう言いながらさりげなく控室に入ってこようとしないで」


 そう口にしつつ、ハッとして口を開いた。


「……もしかしなくても、あなたのお相手って」


 私がシンシア様の方を振り返れば、彼女は顔をほんのり赤らめて頷く。


(……やっぱり)


 それは今まさに彼女に尋ねようとしていたことで。

 尋ねなくても分かってしまった私は、額を押さえながら言う。


「まさかあなたのパートナーがシンシア様なんてね」

「嫌だなあ、ルビー。君が俺に彼女を紹介してくれたんじゃないか!」

「勘違いしないで。私が紹介したのはパートナーとしてではなく、不本意だけど魔法を教えてくれるのはあなたにしか頼めないと思ったのよ、不本意だけど!」

「わあ、二回も言った」


 そんなやりとりを繰り広げていると、なぜだか周囲の目が凄く刺さっている気がして。

 嫌な予感がして後ろを振り返れば、シンシア様以外のアデラ様を含めた女子生徒達が色めき立っていた。


「見て、あそこだけ別次元だわ!」

「確かに、薔薇が舞っているようね!」

「素敵……」


(……あ、最悪だわこの展開)


 コホンと一つ咳払いすると、シンシア様の背中を押してカーティスの前に立たせてから言った。


「とにかく! 私の大事なお友達を悲しませるようなことをしたら許さないんだから」

「! 大事なお友達……」


 シンシア様がそう呟いたのに対しにこりと笑ってみせれば、カーティスがわざとらしく身震いする。


「おぉ、怖いねえ。気を付けないと。

 というわけで麗しいお嬢さん。今宵、私にエスコートさせていただいても?」

「っ、は、はい……!」


 カーティスに恭しく手を差し伸べられ、シンシア様もおずおずと手を差し出す。

 その光景を見守りつつ、私は笑顔でシンシア様に言った。


「交流会、気張らず楽しみましょうね」

「っ、はい……!」


 シンシア様はやはり緊張気味に頷くと、カーティスのエスコートで部屋を出ていく。

 そうしてクルッと振り返れば。


「……え」


 沢山の女子生徒達が私に詰め寄っていて。

 あ、これはまずいと本能的に思ったけれど、彼女達は私を逃さないとばかりに詰め寄る。


「シンシア様がなぜカーティス様のエスコートを!?」

「二人はどういうご関係ですの!?」

「魔法を教えていただいているって本当ですか!?」


 そんな怒涛の質問の嵐に、私は思った。


(今夜はシンシア様から目を離さないでおこう)


 と。

 そんなこんなで何とか彼女達を躱し、逃れた私は、一度寮へと戻ってからもう一度会場となる大広間の扉の前までやってきた。


(な、何か先程女性陣に取り囲まれただけで大分精神がすり減った気がする……)


 と思いつつ、本番はこれからよと気合を込めて両頬を叩いてから思い出す。


(そういえば、パートナーを連れた段階で、会場入りする前に一度全員揃っているか生徒会役員に集合がかけられていたような)


 …………まあ、忘れてしまったものは仕方ない。

 この格好だし、何を言われるか分からないから会わない方が無難だわ、と自分に言い聞かせながら、意を決して大広間の扉を開けるよう促す。

 ちなみに交流会では、夜会のように名前が呼ばれたら入場、ということはなく、好きな時に入ることが出来るようになっている。


(大体楽しみにしている生徒も多くて、皆早めに入るのよね)


 だから、私はあえて一番最後を選んだ。

 全ては、自分の計画のために。

 そうして開いた扉から、眩いばかりの光が私を照らし出す。

 扉が開いたことで自然とこちらに目を向けた生徒や先生方が、絵に描いたように驚き目を見開いて固まった。


(……これも作戦通りよ)


 その視線に臆することはない。

 非難の目だろうが好奇の目だろうが、私には関係ないこと。

 その全てを惹きつけるつもりで一歩ずつ踏み締めるように歩けば、自然と人が分かれ、道が出来る。

 一歩、一歩と近付いて行った先にいたのは。


「……ルビー」


 シンと静まり返った中、彼……王太子であるグレアム様が驚いたように私の名前を呼ぶ。

 そんな彼を一瞥してから、その隣の玉座に座る国王陛下……交流会の時だけ学園に姿を現す威厳に満ちたお姿を見上げ、言葉を発した。


「エイミス辺境伯家が長女、ルビー・エイミス。ただいま参上いたしました」


 そう告げると、エイミス騎士団の真っ赤な騎士服に身を包んだ私は、淑女の礼ではなく、その装いに相応しい騎士の礼を執り、頭を垂れたのだった。


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