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35.二学期交流会①

「あ〜〜〜悔しい!」


 校舎裏にポツンと置かれているベンチに座り、澄み渡る空を仰ぎ見るように声を上げた私に、隣に座っているシンシア様が慌てたように言った。


「それでも凄いことではないですか。学年で2位なんて! 女子生徒では初の快挙だとお聞きしました!」


 そう、ついに試験が終わり、皆の成績が出揃ったところで上位50名の名が掲示板に発表された。

 そこに私の名前はあったものの。


「それでも! 私が目指していたのは1位だったのよ……!」


 試験順位は学年2位。転生前のルビーは大体50番台……、つまりギリギリ発表されずに目立たない、女子生徒の中では優秀な順位にいるように適度に手を抜いていた。

 だから、本来ならば喜ぶべき結果なのだろうけど。

 悔しさのあまり持っているサンドウィッチが潰れかけるのを彼女が慌てて止めてくれながら、励ますように言った。


「でも、ルビー様が“男女平等”を掲げているおかげで、最近女子生徒の皆様が生き生きしていらっしゃるように見えます!

 ほら、今まで50番以内に女子生徒の名前ってなかったではないですか。

 それが今回は、ルビー様のご指導のおかげもあって10名も! 入れたのですよ!」


 そう力説するシンシア様の姿に私は笑みを溢して言う。


「確かに、そういうあなたも実力を発揮して今回23位だものね。おめでとう、シンシア様」

「! はい!」


 彼女は心から嬉しそうに笑う。私も笑みを溢して口にする。


「……あなたの言う通り、私の努力も無駄ではなかったということだし、それに、今回の試験で悪いのは、体調管理を怠り別枠で受けた私の責任だもの」


 別枠の試験というのは、皆より後に受けた私に課せられた試験のこと。

 さすがに先に受けている生徒と同じ試験を出すのはと、先生方が考慮してくださったらしい。


「でも、次こそ一位になるわよ!」

「っ、はい! 応援しています!」

「ありがとう。だけど、あなたも一緒に頑張るのよ」

「そ、そうですね……!」


 思わず突っ込んだ私に慌てて返事をしたシンシア様を見て、二人でおかしくなり笑い合っていると。


「ルビー」

「!」


 不意に声をかけられ、顔を上げれば。


「エディ様」


 昼休みにここまで来るとは思わず首を傾げる。


「生徒会の仕事で何か?」

「い、いや、そういうわけではないんだけど……」

「?」


 まるで以前のようにしどろもどろ……というより挙動不審にもじもじとしている彼を見て、若干イラつく。


「早くしてくれる? 昼休みが終わってしまうわ」

「あっ、ご、ごめん! その……、こ、今月末の交流会、ルビーも参加するでしょう?」


 交流会。その単語に一瞬疑問符が並んだけど、あぁ、と記憶を辿って思い出す。


「そういえば、そんなイベントがあったわね」

「も、もしかして忘れていたの!?」


 驚くエディ様に頷いて言う。


「えぇ。試験のことと魔法強化のことで頭がいっぱいだったから」


 幸い魔物の出現もあれ以来被害はなく、今は着々と力を付けているところだ。


「そんなことよりもやることが沢山あるんだもの。冬休みはエイミス領に戻り新人騎士の育成を任されているから今から訓練メニューを立てなければならないし、弟の稽古をつける約束をしているから、弟にも私がいない間の分の訓練メニューを書いて渡さなければならないし、戻るために荷造りを始めなければならないし」

「さ、さすが、ルビーは忙しいね……」

「当然よ。それに、私はもうグレアム様の婚約者でも何でもないんだもの。参加義務はないはずよ」


 そう、夜会にはいちいちグレアム様の婚約者として顔を出さなければならなかった。

 彼が王族であり大抵の舞踏会には招待され、且つ断ることはあまり出来なかったし、婚約者は言わずもがなついて行かなければならないため、断る権限はなかったのだ。


(そういう煩わしいことから解放されたという面でも、婚約解消出来て良かったと思うわ)


 これで思う存分“災厄”の対策に力を入れることができるもの、と考える私に、別の声が耳に届く。


「気持ちは分かるが、それは叶わないな」

「!?」


(なぜこうも王子二人揃って仲良く現れるの!?)


 兄弟の確執はどこ行った! と思わず心の中で突っ込みながら、現れた兄の方、そして入学当時から学年トップのグレアム様に向かって挑戦的に言葉を発する。


「どういう意味?」


 彼は私が睨みつけているというのに、その視線に慣れたのか不敵に笑って言う。


「交流会は、名前の通り生徒達が交流する場であり、歴とした学園のイベント。

 つまり、生徒会役員に拒否権はなし、全員参加が義務付けられている」

「……嘘でしょう?」


 頭が痛い、とこめかみを押さえる私に、グレアム様は言葉を続ける。


「嘘じゃない。生徒会役員は、生徒の手本にならなければならないのだから、全てのイベントは必ず参加だ」


 少しの希望を込めてエディ様を見やれば、彼もまた頷く。

 それを見て一気に絶望に打ちひしがれた。


「そんな……」

「……そこまで悲しむことか?」


 そう首を傾げたグレアム様に、私は噛み付くように言う。


「はっきり言って面倒なのよ! あなたとの婚約を解消したことでやっと解放される〜って喜んでからのこれよ!?

 女子生徒にとって社交の場というのは戦争なの!」

「せ、戦争」

「そうよ! あなた方男性陣の裏で、女性はとにかく戦っているの!

 ドレスの流行を調べ尽くしオーダーして着飾って、それでも比較されるわ陰口は叩かれるわ……、あなたの婚約者だった時なんて私の発言の一言一句を後からとやかく他人に批評されるのよ!?

 終始生きた心地がしなかったわ!!」

「…………」


 グレアム様が私の剣幕に驚き固まる。

 その顔を見るに全く気が付いていなかったのだろうから言えてすっきりした、と思いつつ、ハッとする。


「……そうよね、私には婚約者がいない。だから……、自由だわ!」

「「「はい?」」」


(そうよ、その手があったわ!)


 この夜会には先生方や王族以外の大人はいないし、“交流会”は名目上婚約者がいない方々が婚約者を探す場でもある、けれど。


(私には婚約者は必要ないし、探す必要もない。よって……)


「……ふふふっ」


 思わず笑みを溢した私に、王子二人の顔が引き攣る。

 嫌な予感、と顔に描いてあるのが丸分かりだけれど、今は少しだけ気分が良いので見逃してあげることにしよう。

 そうして満面の笑みを浮かべると、グレアム様に向かって口を開いた。


「分かったわ。私も生徒会役員だもの、きちんと参加させていただくわ」

「パートナーは? どうするつもりなんだ?」


 なぜだか少し焦ったような声で尋ねられた私は、人差し指を立てて笑う。


「秘密」

「!?」

「そろそろ時間ね。シンシア様、行きましょう」

「はっ、はい!」


 ベンチから立ち上がると、その場で固まってしまっている彼らを置き去りにして、私とシンシア様は教室へと向かう。




 ルビー達が立ち去った後、第二王子が口を開いた。


「あーあーフラれちゃった。あの顔はまた何か企んでいる顔だよ? どうするの、兄上?」


 第二王子の問いかけに、王太子は静かに告げる。


「……こちらにも考えはある」


 それだけ告げると、王太子は彼女達の後を追いかけるように歩き始める。

 その背中を見て第二王子はつぶやいた。


「……二人揃って難儀な性格だな」


 そう口にした第二王子の瞳には、何とも言えない複雑な色を宿していたのだった。


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