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28.学園革命①

 季節も段々と寒さを迎える今日この頃、夕日に染まる空の下は活気にあふれていた。


「……はい、5周ね! 皆さんお疲れ様!」

「「「はい!」」」

「走り終わったばかりだからそう畏まらなくて良いわよ、疲れたでしょう?」

「「「は、はいぃ……」」」


 途端に床に座り込みそうになる女子生徒五十名ほどに向かって声をかける。


「疲れても息が整うまでは歩いて。あ、水分補給も忘れずにね。

 この後10分ほど休憩したら筋トレを行う予定だから!」

「「「はい」」」


 良い返事ね、と笑みを浮かべてから私も水分を摂りつつ、思い思いに休憩をとる彼女達の姿を見つめた。


 生徒会が始動して一ヶ月。

 この一ヶ月間は目まぐるしく慌ただしく日々が過ぎて行った。

 まず第一に優先したのが、私と王子二人の発言によって不安を抱えてしまった生徒達への対応。

 そちらは相談の場を設け、生徒会五人で今も持ち回りで担当している。

 平民出身の生徒には、シンシア様の手も借りて。

 ……それからたまにではあるけれど、生徒会の男性陣を目当てにいらっしゃる方々も少なからずおり、喜んでいるのはカーティス様だけなので、そういう生徒は次回からはお断りし、代わりに訓練への参加を促すようにしている。


 次に、志望した生徒の魔法の強化。

 こちらは生徒会で役回りを決め、朝と放課後、それぞれグループに分けて男女も別メニューでこなしている。

 その訓練メニューについては、私とカーティスで協力して考案している。

 なお、女子生徒の訓練については、私が全て監督しなければならない。

 ……理由は言わずもがな、男性陣では女子生徒の気が散って仕方がないからだ。


 この他の仕事としては、女子の授業に体育を追加する旨は署名活動を行なっている段階、それから。


「孤児院や病院、平民への魔法指導!?」

「えぇ」


 会長の席に座っているグレアム様に向かって頷くと、彼は頭を抱えた。


「それはまた……、大きく出たな」

「私達のせいで緘口令を破ってしまったのだもの、これくらいは当然だと思うの」


 この一ヶ月の間に、国王陛下も重大な決断をした。

 生徒の口から国民に“百年に一度の災厄”の話が広まるのは時間の問題。

 そのため、王子二人が国王陛下を説得し、国王陛下自ら緘口令を破り国民全体に説明がなされた。


(対策として、騎士団からの夜間の見回りを人員を増やし、強化する旨は伝えられたけど、国民は未だに怯え、夜も眠れない日々を送っている方もいるという。

 無理もない、私達が現状を知らせてしまったのだから)


 でも、皆に知られるのも時間の問題だった。

 それも、ゲーム中では被害が広範囲に及んでから、という記載があったのだから。


(犠牲者が出てからでは遅い)


 なんとしても、この学園の生徒だけではなく、国民の命を守らないと。

 そう思う私に、グレアム様は尋ねる。


「魔法指導となると、どうやって行うんだ?

 人員は何とか力を貸してもらうとしても、国民の魔力は極めて少ないから、対魔物には不向きだぞ」


 魔物。それは、瘴気から生み出される化け物で、瘴気が濃くなればなるほど強さを増すといわれている。


(確かに、グレアム様の言う通り、国民の魔力はここにいる学園の生徒とは比べ物にならないほど極めて少ない。でも)


「大丈夫。たとえ生活魔法レベルしか魔法が出せなくても、少し力を引き出せば、魔物への目眩し程度にはなる」

「……!」


 グレアム様は大きく目を見開く。知らなかった、というようなところだろう。


(これは、ゲームで得た知識。弱くても一度魔法をぶつければ、魔物は一瞬だけど怯んでくれる)


 その隙に逃げながら、騎士団を呼ぶ手段があれば、救える命もあるはずだ。


「魔物は光に弱い。だけど、光属性でなくても、怯むものはある。

 特に光の次に効果があると言われているのが火。火ならば、属性関係なく、生活魔法として日常的に料理をするために使っているでしょう?」

「っ、本当なのか!?」

「えぇ」

「……君は、どうしてそんなことを知っているんだ?」


 その質問は予測していたことだったから、用意していた言葉を並べる。


「火属性の我が家の文献に載っていたの」

「なるほど……」


 まあ、嘘なんだけど。これは前世のゲームの知識だなんて言えないものね。


「とにかく、国王陛下にあなたから掛け合ってみてほしい。

 それか、私が謁見する形でも構わない。

 私に出来ることは、全力で尽力させてもらうつもりよ」

「……どうして」


 グレアム様はそこまで言って、ハッとしたように口を抑えた。

 あまり質問責めされると、私の堪忍袋の緒が切れることを分かっているのだろう。

 だけど、それには答えてあげた。


「人の命には、何にも代えられないでしょう?」

「!」

「私はお母様を失っている。身内がいなくなることの痛みや悲しみは、分かっているつもり。

 だから、瘴気に怯えて暮らし、命を落とすような最悪の事態を誰にも迎えてほしくない」


 そこで言葉を切ると、グレアム様をじっと見つめて言った。


「これは、あなたにしか頼めない。お願いね」


 グレアム様に念を押すと、彼は暫し固まった後はーっと息を吐く。


「……本当、君の言葉にはいつも説得力があるというか、敵わないというか。

 正直学園でも手一杯の状態でこんな策を打ち出すとは無謀なことではあるが、君のいうことも一理ある。

 どちらにせよ俺達の力だけで何とかなる問題ではないから、国王陛下に掛け合ってみる」

「っ、ありがとう、グレアム様!」


 ガシッと勢い余って手を握れば、彼は顔を赤く染める。

 その顔を見てこれ以上はまずいと判断し、一瞬でパッと手を離すと、手を挙げて言った。


「では、よろしくお願いね!」


 そう言って踵を返すと、生徒会室を後にする。

 生徒会室の扉を閉じ、息を吐く。


(そうね、やるべきことが多くて大変だけど、やる価値はある)


 少なくとも、緘口令を破ることなく仲間や民から犠牲者が出ることを、ただ指を咥えて見ている自分にはなりたくない。


「未来を知るのは、私ただ一人なのだから」


 そう呟き、自分を叱咤するように両頬を手のひらで叩くと、前だけを見据えて薄暗くなった長い廊下を歩き出したのだった。


 そうして始まった革命だけど、この時既に魔の手は着実に忍び寄っていることを、私達はまだ知らずにいたのだった。

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