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21.生徒会役員選挙準備⑥

 寮へ戻り、それぞれ仕度をして登校した私とシンシア様は、ある人の元を訪れた。

 その人とは。


「やあ、ルビー。君から俺に話があるだなんて珍しいね。今度こそ愛の告白かい?」

「ベイン様はさすがの恋愛脳ね。もちろん、全く以て褒めていないわ。それに、あなたを選ぶことは死んでもあり得ないから」

「わあ、今日の君の辛辣ぶりも絶好調だね。僕のハートがズタズタだよ」


 そう、私は嫌々ながら、今日も朝から懲りずに女性を侍らせていたカーティス・ベインの耳を引っ張り、人目につかない廊下まで移動して話を切り出した。


「それと、用事があったのは私ではなく彼女のことよ」


 ベイン様は私の後ろに隠れている彼女を見て口を開く。


「確か平民のシンシア嬢、だったかな」

「さすが、女性の名前だけは覚えているのね」

「失礼な。クラスメイトの名前は全員認識しているんだけどー」

「それで彼女、あなたと同じ属性なの。だから、魔法の使い方を教えてあげて」


 その言葉に、ベイン様は目を見開いた。

 そう、私が彼女に提案したのは、同じクラスであるカーティス・ベインに魔法を教えてもらうこと。

 同じ属性且つ同じクラスなのは、不本意ながら彼しかいなかったのだ。


(本当なら私が教えてあげたいところだけど、私は彼女とは対極の火属性だから緑属性は扱えないし、彼女の悩みはきっと同じ属性の人にしか解決する糸口が見えない)


 そう思い、本当に不本意だけどベイン様に白羽の矢を立てたのだけど。


「良いよ」

「「!」」


 珍しく即答した彼に驚いた私達だったけど、彼は「ただし」と言い、私に顔を近づけて言った。


「貸し一つね♪」

「は?」

「あ、じゃあこうしよう。これからは、“カーティス”って呼んで」

「……はあ?」


 思いがけない提案に今度はこちらが目を見開くと、その間に彼はするりと私の横をすり抜け、後ろにいた彼女の手を握る。


「ということでシンシア嬢、緑属性の魔法についてなら安心して。こう見えて辺境伯家の人間だからね、僕が手取り足取り教えてあげ」

「はい、セクハラ厳禁」

「いだだだだ!」


 彼女の手を取っていた彼の手を摘んで引き剥がせば、さほど痛くないくせに大袈裟に痛がる。


「痛いよ、ルビー!」

「彼女に手を出したらただじゃおかないから。覚悟しなさい、カーティス」

「! 良いね、ルビー。強気な君も生き生きしていて見ていて楽しいよ」

「やめてくれる? 気色悪い。

 シンシア、この男に何かされたらすぐに言うのよ。私が叩きのめしてあげるから」


 そう言ってカーティスを睨みつけると。


「ふふふっ」


 笑い声が聞こえてきてカーティスと二人で見れば、シンシア様が笑っていて。

 彼女はすみません、と謝ってから口を開いた。


「改めまして、私はシンシアと申します。

 カーティス・ベイン様、そしてルビー・エイミス様。

 ご指導よろしくお願いいたします……!」


 そう言って頭を下げられ、私とカーティスは顔を見合わせると、彼女に向かって言う。


「僕に出来ることがあればいつでも言って。女の子からのお願いなら大歓迎だよ!」

「この人は、甘い言葉を吐かないと生きていけないような人だから、適当に流すのよ。

 私も、この一週間あなたと特訓するのが楽しかった。これからも一緒に頑張って続けましょうね」

「っ、はい!」


 そう言って笑い合うと、カーティスが口を挟む。


「ねえねえ、特訓ってなに?」

「あなたには教えないわ」

「えー、ケチ」


 そんなやりとりをしていると。


「エイミス嬢」


 苗字を呼ばれ振り返ると、そこにいたのは。


「ヴィンス先生!」

「あれ、ヴィンス先生どうしたの?」


 カーティスの言葉に、ヴィンス先生が私とカーティス、それからシンシア様に気付き驚いたように言った。


「これはまた、珍しい組み合わせだね。出直した方が良いかな?」

「いえ、話し合いは終わりましたから……って、あ!」

「わっ、なに?」


 ヴィンス先生の顔を見て思い出し、声を上げた私に、カーティスが驚く。

 そんな彼を無視して、ヴィンス先生に向かって言った。


「ヴィンス先生がいらっしゃったのは、あのことですよね……!?」


 ヴィンス先生は私の言葉に苦笑する。


「そう、応援演説してくれる人。そろそろ決まったかなと思って来てみたのだけど……、まだあてはなさそうだね?」

「は、はい……」


 私が項垂れたのを見て、ヴィンス先生は困ったように笑って言った。


「まあ、後数日ではあるけれど時間はあるし、もう少し探してみたらどうかな?」

「頑張ります……」


 そうだわ、私としたことが一番大事なことをすっかり忘れるなんて、と愕然としていると。


「……あの」


 今まで黙って話を聞いていたシンシア様が、おずおずと手を挙げて口にした。


「私でよければ、ルビー様の応援演説、やりましょうか……?」

「え!?」


 その言葉に驚き、彼女に詰め寄る。そんな私の鬼気迫る迫力に一瞬後退りしそうになった彼女の肩をガシッと掴んで言った。


「今の、本当に本当!?」

「ほ、本当に本当、です。私も、ルビー様にお世話になったので、この私が恩返しになるのなら……」

「もちろん! 大恩返しになるわ!!」


 そう口にしつつ、あ、と冷静になり、恐る恐る尋ねた。


「……あの、一応一つ言っておくわね」

「はい」

「私、生徒会選挙で結構な爆弾発言をするのだけど……、それでも良い?」

「「爆弾発言!?」」


 その言葉に驚いたのは、シンシア様ではなくカーティスとヴィンス先生で。

 逆に彼らに詰め寄られる。


「ちょっと!? 一体なにを言うつもりなんだ!?」

「君の爆弾発言の程度は、大分程度が大きいから私も心配だよ?」


 カーティスはともかく、普段は温厚なヴィンス先生も焦ったように声を上げられ、あはは、と苦笑いで誤魔化していると。


「それでも私、やりたいです!」

「「「え?」」」


 シンシア様は驚く私達にそう言って、笑みを浮かべる。


「ルビー様はやっぱり私の憧れです! だから、ルビー様が起こす革命という風を、私も応援したいです!」

「! シンシア様……」


 私は彼女に近寄り手を握ると、笑みを浮かべた。


「ありがとう。あなたに応援してもらえると思ったら、俄然やる気が出てきたわ。

 絶対に、生徒会役員に入ってみせるわね」

「はい!!」


 そう言って、ふふ、と笑い合う。

 そんな私達を見て、彼らは呟いた。


「……待って、今から悪寒がするんだけど。俺、自分のことよりルビーがやらかしそうで怖くなってきた」

「そうだね、私もベイン君に同感だよ。

 ……私達は何も、聞かなかったことにしよう」

「賛成」


 そんな二人のやりとりなどつゆ知らず、私とシンシア様は早速生徒会役員選挙に向けて準備を始めたのだった。

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