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19.生徒会役員選挙準備④

「差し出がましいお願いだと分かっています。

 ですが……、私にも、エイミス様の強さの秘訣を教えていただけませんか」


 そう言ったシンシア様の言葉を反芻する。


「強さの秘訣……」

「私の目には、エイミス様が魔法だけではなく、真に強い女性だと思うのです。

 たとえ誰に何を言われようと、自分の意思を貫く。それくらい強い意志があったら、私も、自分の夢を叶えられる。

 そんな気がするのです」


 ギュッと、胸の前で握った手が微かに震えている。


(……何か、事情があるのね)


 私は少し考えた後、言葉を発する。


「あなたの気持ちは分かったわ」

「!」


 彼女が顔を上げる。

 私は笑みを浮かべ、口を開いた。


「あなたの求める“強さの秘訣”というのがどういうものか、私には分からないけれど……、協力するわ」

「本当ですか!?」

「えぇ」

「っ、ありがとうございます……!」


 笑みを浮かべる彼女に、私は頷くと、「では」とにこりと笑みを浮かべて言った。


「まず手始めに、明朝から私に付き合ってもらうわ」

「付き合う……?」

「えぇ。詳細は明日お伝えするから、今日はゆっくり休んで。待ち合わせ場所は寮の前、時間は……そうね、朝5時に集合しましょう」

「わ、分かりました」


 戸惑う彼女に笑みを浮かべ、踵を返す。


(……さて、彼女はどこまでついてこられるかしら?)


 そう小さく笑みを浮かべ、早速準備に取り掛かるのだった。





 翌朝。


(……来たわね)


 時間ピッタリ、と笑みを浮かべる。


「ご、ごきげんよう」


 そう言って礼をするシンシア様に、私も言葉を返す。


「ごきげんよう。早速なんだけど、こちらの服に着替えてきてくれる?」

「え……?」


 驚いたように目を見開く彼女に、私は笑みを浮かべる。


「その服では動きにくいでしょう?

 これから、走り込みをするのだもの」

「走り込み……!?」

「えぇ。手始めに学園の塀に沿って3周、走りましょうか」

「さ、3周!?」

「私一人なら10周は軽く走れるわよ」

「じゅ、10周……」


 早くも青ざめた顔をする彼女に、若干心配になりつつも彼女の背中を押す。


「はい、着替えてきて。あまり時間はないわよ」

「は、はい……!」


 彼女は私が渡した体操着をギュッと持ち、駆けていく。


(そう、これも制服と共に頼んだ私の私物)


 体操着は基本、男子生徒のみが購入または支給されるものであり、女子生徒に購入義務はない。

 私の場合、辺境伯領にいた頃から毎日身体を鍛えているから、体操着は必須。

 そのため、入学当時から数着持っていたのだ。


(良かったわ、替えがあって。多分私の方が身長が高いから、オーバーサイズだけど、ウエストは出来る限り私の方で締めたから裾を折って履けば、十分着ることが出来るでしょう)


 そうして待つこと十分、彼女は走って現れる。

 その姿を見て笑みを浮かべて頷いた。


「似合っているわ」

「! あ、ありがとうございます。体操着まで……」


 ぺこぺことお辞儀をする彼女は、本当に素直な良い子だと思いながら、用意していた髪を縛る紐をポケットから取り出し、彼女の髪を軽く結ぶ。


「これも差し上げるわ。髪、運動する時は邪魔だからこれで縛ってきて」

「! は、はい!」

「良い返事ね。では、走る前にまずは準備運動をしましょう。

 いきなり走ると、怪我をする恐れがあるから」


 そう言って、軽くストレッチをしてから走り始める。

 学園を塀に沿って走ると、およそ2キロほどになる。

 だから、3周すれば6キロ弱となる。


「いきなり頑張りすぎると心臓や身体に負荷がかかってしまうから、キツかったら歩く、息が整ってきたらまた走る。あなたのペースでいきましょう。

 私もそれに合わせるわ」

「は、はい……!」


 そう言って、一緒に走り出す。

 すると、早くも彼女の息が上がった。


(……やはり、シンシア様は体力が不足しているわね)


 時間はたっぷりあるけれど、果たして今日のノルマを達成出来るかしら。

 そう思っていたけれど、その心配は杞憂だった。


「……はい、これで3周。お疲れ様」

「は、はいぃ……」

「あ、ダメ、いきなり座ってしまうと筋肉痛になったり心臓に負荷がかかってしまったりするから、ゆっくり歩いて呼吸を整えて」

「わ、分かり、ました……」


 シンシア様は肩で息をしながら、汗を拭う。


「今日はこれくらいにしておきましょう。

 これから一週間、走り込みをしてもらうから」

「い、一週間……!?」

「えぇ」


 私の言葉に、彼女は悲鳴に近い声を上げたけれど、グッと呑み込み「分かりました」と返事をする。

 私は頷き、時計を見て口にする。


「今寮に帰れば、身体や髪を洗う時間は十分にあるから。間違えても寝ないようにね」

「だ、大丈夫です……!」


 彼女はそう言うと、深呼吸をした後お辞儀をして言った。


「ありがとうございました!」


 それに少し驚いてしまったけれど、私は微笑み返す。


「お疲れ様。明日も一緒に頑張りましょう」

「はい!」


 シンシア様に笑みが戻る。


(……この子なら大丈夫ね)


 そう予感しながら、踵を返したのだった。




 それから丁度一週間が経った日には。


「はい、お疲れ様。三周完走おめでとう」

「は、はぃぃぃ」


 徐々にスピードを上げ、歩くこともなくなり、ついに6キロという道のりを全て走り切ったのだ。

 彼女は息を荒くしながらも、私の教えを守り、走り終わってからも歩き回る。

 その姿を見て、笑みを浮かべて言った。


「今日で約束の一週間ね。よくここまで耐えられたと思うわ」

「え……?」


 シンシア様が息を整え、立ち止まる。

 私は苦笑しながら言った。


「これ、実は我が家の騎士団で課す最初の入団試験なの」

「入団試験!? エイミス辺境伯騎士団の、ですか?」

「えぇ。といっても、男性陣にはもっと距離を課しているし、これに加えて一日中腹筋や背筋を鍛える運動をしてもらうのだけどね」

「ひ、ひぇ……」


 彼女は絶句する。

 それにクスッと笑いを溢してから、「でも」と苦笑する。


「大体皆、やめていくのよ。“思っていたのと違う”って」

「え……?」


 どういうことか分からない、という彼女に説明する。


「騎士を志望する方々は、どの方も最初から魔法や剣術、体術などを学ばせてもらえるものだと思って期待してくる。

 けれど、いつも与えられるのは体力強化ばかり」

「あ……」


 それで彼女も気が付いたらしい。

 私は笑って言った。


「皆、勘違いしているのよ。魔法を特訓すれば、魔法が強くなる。剣術も、剣を振り回してさえいれば強くなれると。

 でも、それだけでは絶対に上手くならない。たとえ上手くなったとしても限界がある。

 それは、基礎……体力作りを怠っていたり、馬鹿にしていたりする証拠よ」


 以前、入団試験の様子を見たことがある。

 一日ごとに一人減り、二人減りといなくなっていく時の捨て台詞で、『こんなことをやっていられるか!』と言って出て行った方々がいた。


「そんな一朝一夕で強くなれる方法があったら、逆に教えて欲しいものだわ。

 ……少なくとも、私達辺境伯家や騎士団は違う。

 皆地道な努力も弱音を吐かずに頑張った結果がその後に繋がっているの」


 そこで言葉を切ってから、シンシア様に向かって言った。


「だから『強くなりたい』と言ったあなたにも同じような試験を課したの。試すような真似をしてごめんなさい」

「そんな! こちらこそ、エイミス様の貴重なお時間を割いていただいてしまってすみません……!」

「謝らないで。私も、そんなあなたの強さを近くで見ることが出来て、騎士を志した初心に帰れた気がしたから」

「え……」


 私の言葉に息を呑む彼女に向かって、微笑みを浮かべ告げる。


「合格よ。一度も弱音を吐かず、この特訓について来られた時点で、あなたには十分強い心が備わっているわ」


 そう言って笑みを浮かべると。


「っ……」

「え!?」


 彼女は突然、泣き出してしまった。


一度区切ります!

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