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17.生徒会役員選挙準備②

 昼休み。

 待ち合わせ場所に向かうと、二人は既にそこにいて。

 互いに反対の方向を向いているのを見て、自然とため息が漏れる。

 そうして近付いていくと、やはり同時に私に気付いた。


(……同じ顔をしているわ)


 申し訳なさそうにしているけれど、反省の色が全く見えないので、せっかくのこの機会に思っていたことを全てぶちまけたいと思う。

 そして二人の前に立った私は、まずは、と話を切り出す。


「これから申し上げること全て、無礼を承知で言わせてください」


 そう一言断りを入れ……、息を吸うと。


「良い加減にしなさいっ!!!!」

「「!?」」


 私の大声に、二人が驚き固まる。

 それを良いことに、私は言葉を続けた。


「王子ともあろう方々が、食事の席で兄弟喧嘩なんて恥ずかしいと思わないの!? 

 子供でももっとお行儀良く食事が出来るわ!」


 二人が不仲なことは、周りは周知の事実。

 だから、王族の集まり以外で彼らが顔を合わせているところを見たことがない。


(ルビーの記憶では、昔はそんなことがなかったはずだけど)


 昔のように仲良くしろとは言わない。二人の確執なんて心底どうでも良い。けれど。


「私や周りが迷惑を被るようなことはやめて!

 喧嘩なら家でやってちょうだい!

 ……それに、二人の喧嘩の引き金が私になるのはもっとごめん被るわ。

 そんなことになるくらいなら、やはり私はあなた方と金輪際関わり合いにならない方が良いのではなくて?」

「「良くない!」」


 またしても二人同時にハモる。

 それにはさすがに気がついたらしく、二人は顔を見合わせた後、気まずげに顔を逸らした。

 私ははーっと長く息を吐くと、諭すように口にする。


「あなた方の喧嘩は、あなた方だけの問題ではない。

 周りが気を遣って、結果皆に迷惑をかけることになるのよ。

 たとえ互いのことが気に食わなくても、人前で見せるべきではない。

 見せられて良い心地はしないもの。ましてや王族なのだし、周りの皆が無視してくれるならまだ良いけれど、少なからず事情を探ってやろうとする暇人はいるでしょうね」

「「……」」


 王族のゴシップネタなんて民衆や下衆な貴族の肴になるでしょうから、と付け足すと、彼らは何も反論しなかった。

 そして、今度は一人ずつ説教をする。


「グレアム様」

「!」


 私が名前を呼んだことで、俯いていた彼が驚いたように顔を上げる。

 そんな彼に、にっこりと笑って口を開いた。


「エディ様の言う通りよ。はっきり言って、あなたはしつこいしウザい」

「う、うざっ……」


 私の言葉によほどショックを受けたらしい。

 はーっとため息を吐き、言葉を続ける。


「食堂では既に私の隣にエディ様がいらっしゃったのだから、あなたは身を引くべきだったのよ。

 ただでさえ、私とあなたは婚約解消した仲なのだから、噂の的なの。

 行動には十分注意して。

 本来ならば一切付き合いたくないところを、私が譲歩しているのだから」

「ぐっ……」


 容赦ない言葉に相当深手を負ったらしい。

 それでも私の側にいたいというのだから本当におかしな人ね、と白い目を向けてから、今度はもう一人の殿下と向き合う。


「エディ様」

「っ、はい……」


 エディ様はギュッと拳を握り、私を見る。

 そんな彼を見据えて口を開いた。


「私はあなたに、庇ってほしいとも心情を代弁してほしいとも頼んでいない。

 それによって発展した喧嘩なんて、迷惑以外の何者でもない」

「! 本当にごめんなさい……」


 グレアム様より、素直に謝るエディ様は偉いわ、と心の中で思いながら、でもと口にする。


「グレアム様が言ったこと……、私のせいで生徒会役員に立候補しないというのは本当?」


 本題を切り出した私に、彼は大きく目を見開く。

 口にせずともそれは肯定の意味だと捉え、私は静かに言葉を発する。


「……では、私が立候補者から降りれば、あなたは立候補したと?」

「っ、それは」

「なんて、この私が降りるわけがないでしょう?」

「!」


 私はキッと彼を睨みつけると言い放った。


「私が立候補するなら諦めるというその根性に腹が立っているのよ!

 あなたの意気地のなさに、私を言い訳に使わないで!」

「!!」


 そう、私は何よりエディ様が私を言い訳にして生徒会役員に立候補することをやめた、というのが一番腹立たしかったのだ。


(彼は、昔からルビー……私の後をついてくるような子だった)


 私を慕っているのは良い。

 だけど、その度合いが行き過ぎている。


「……それとも何か? あなたが立候補したくらいでこの私が負けるとでも?

 そうだとしたら、考え方がそこにいるグレアム様と同じで虫唾が走るわ」

「違う! 僕は……っ」


 知っている。彼はただ、弱いだけだということを。

 第二王子という立場をコンプレックスに感じ、自信を喪失してしまっているのは他でもない彼なのだと。

 それは、まるで。


(以前のルビーを見ているかのよう)


 境遇は違えど、弟が生まれ、何もかも彼に取られてしまったような感覚に囚われた彼女と。


(だけど、私はもう違う)


 あの臆病だった自分とはおさらばした。

 代わりに自らの意志で、自らの足で、ここに立っている。

 自分の殻を破れるのは、自分だけ。

 だから。


「……甘ったれるのも良い加減にして」


 自分でも驚くほど、乾いた声が飛び出た。

 グレアム様は目を見開き、エディ様も同じような顔をした後、静かに涙が頬を伝った。

 でも、そこに手を差し伸べるような真似はせず、踵を返し、無視してその場を後にする。


(……これは、誰の手も借りることなく、彼自身が越えなければいけない壁)


 そうして強くならなければ、何も守ることが出来ない。

 それに。


「……良い加減気付きなさい。一度人生を諦めた私とは違って、あなたはとっくに一人で飛び立てる強さがあるのだから」

いつもお読みいただきありがとうございます。

突然で申し訳ございませんが、タイトル名を、

『一度人生を諦めた悪役令嬢ですが、気弱な自分とおさらばいたします!』

から

『一度人生を諦めた悪役令嬢ですが、目が覚めたので婚約解消して自由に…ってしつこいです、元婚約者殿下。』

に変更させていただきました。

把握のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

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