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12.ルビー・エイミスの戦略②

 学園生活が始まってから一週間。

 相変わらず一身に注目を集めるも、その視線の種類は少しずつ分かれ始めている。


 一つは好奇の視線。初日から続いている視線がまだ大多数。

 もう一つは嫌悪。明らかに私を嫌う方々の視線。無理もない、男性陣は特に女のくせにと思う方々がいらっしゃるのは分かる。女性の中にもチラホラ見受けられるのは、きっと王太子殿下に対する態度が悪いと思われているのだろう。

 そして、もう一つは。


「見て、エイミス様よ!」

「素敵ね」

「私達の救世主様だわ……!」


 ヒソヒソと聞こえてくる女子生徒達の言葉に、心の中で口角を上げる。


(ふふ、作戦通りね)


 私が狙っているのは、中性的なポジション。

 この世界にはそういう方々がいらっしゃらなかったけれど、前世ではいわゆる“男装の麗人”的な素敵な女性が人気を集めていたのを知っているから、それを参考にしているのだ。


(しかも幸いなことに、辺境伯令嬢という立場だったからお父様が男女の役割関係なく嗜みを教えてくれたのよね)


 私は六歳頃まで一人娘として育った。

 なかなか子供が出来なかった両親は、私が生まれたことを大層喜び、色々なことを教えてくれたのだけど。


(周りはそうは思わなかった)


 辺境伯という立場上、騎士をまとめ、軍を率いて国を守らなければならない人物が女性であってはいけない。

 そのため、ようやく生まれた子供が娘だということに、周りからは散々陰口を叩かれていたのをルビーは知っている。

 彼女もまだその頃は、男女関係なく勉強し鍛錬すれば、誰もが後継者として認めるはず。

 そう思って寝る間も惜しんで努力したのだ。

 しかし。


(六歳になり、弟が生まれてから彼女の生活は一変した)


 辺境伯家待望の男児が生まれたのだ。

 六歳違いの、私とは違う本物の跡取りが。

 その瞬間、ルビーは思った。

 私はもう、跡取りとして必要とされていないのだと。


 両親は弟が生まれきても、変わらず自分を可愛がってくれる。

 自分だって弟は本当に可愛かったし、嬉しかった。

 だけど、心のどこかで、自分の今までの努力が水の泡になったと虚無感を覚えていた。


(その後、お母様が流行病で亡くなって……、ルビーはとことん不運な女性なのよね)


 でも、そんな悲観的な人生ももうおしまい。

 私が転生してきたからには、黙って周りに流されるなんてことはあってはならない。


(だって何もしなければ、ゲーム通りになってしまうのだものね)


 精一杯足掻いてやるわ、と今日も女性らしからぬ足取りで教室へと向かったのだけど。


「…………」


 机の中、私の目に飛び込んできたのは、ラブレターなどではなく。


(昼、庭園で待つ……)


 たったそれだけが書かれたメモが入っていた。

 明らかに女性の字だと思われる綺麗な筆跡で書かれたそれをじっと見つめ、首を傾げる。


(庭園って言っても、この学園は広いからどこへ行けば良いのか分からないのだけど)


 学園の敷地自体が広い上、庭園といったらまた広大すぎるほど広い。

 具体的な場所が指定されていないのなら、後から何か言われたとしても行かなくても分かりはしないのではないかしら、と考えあぐねていたその時。


「なになに、“昼、庭園で待つ”?」


 不意に後ろから覗き込まれ、私はキッとその声の主を睨む。


「無粋よ」


 そう口にすると、彼……ベイン様は驚いたように目を丸くした後、やがてニヤッと笑い口にした。


「あれ、元の口調に戻っているけど?」


 そう指摘され、先ほどの発言を咄嗟に敬語を外して言ってしまったことに後悔したのを悟られないよう、代わりにはーっと長く息を吐いて言った。


「……あなたには敬語を使う価値がないと判断したの」

「うわ、辛辣」

「他人の手紙を盗み見るようなご趣味の殿方にはこれが妥当だと思うけれど」


 そう言い放つと、彼は「まあ、そうだね」と意外にも肯定し、ヘラリと笑う。


「それで? その愛の告白を受けるの?」

「これのどこを見たら愛の告白になるのか、あなたのその思考にはついていけないけれど……、そうね」


 私は手紙を丁寧に折り立ち上がると、彼に向かって口角を上げて言った。


「これが果たし状というのなら、受けて立たないわけがないでしょう?」


 そう告げると、彼は小さく目を見開いた後笑って言った。


「ふふ、面白いね。以前の君も魅力的だったけど、今の方が断然俺は好きだよ」

「!」


 思いがけない言葉に一瞬驚いたものの、これが彼の本心からの言葉ではない軽口なのだと分かっている私は、言葉を返した。


「どこをどう見たら男性のあなたから魅力的に見えるのかさっぱり分からないけれど……、これだけは言えるわ」


 私は頬に手を当て、にっこりと笑って言い放つ。


「あなたに言われても、全く嬉しくない」

「! ……ふふ、釣れない君も好きだよ」


(……駄目だ、これは)


「……どこまでも恋愛思考、常に両手に花束状態の貴方とまともに話せるわけがなかったわね」


 そう捨て台詞のように口にし、会話を強制終了するため教室を出る。

 その場で一人取り残されたカーティス・ベインは苦笑する。


「……逃げられた」


 そう口にしてから、彼女が座っていた机に目を向け、人知れず呟いた。


「両手に花束でも、唯一の花に振り向いてもらえないようでは意味がない」


 カーティスは机に触れようとした手を止め、自嘲めいた笑みを溢すと、踵を返したのだった。

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