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嫌がらせはスマートに

 秋がやってきて、秋の木の実を味わえる季節になった。


「んー!コック長のくるみタルト最高ね!」


 サクサクと香ばしくローストされて甘い砂糖に絡められたくるみ。下の台のタルトはドッシリとしている。甘さも程良い。紅茶と合う。私は美味しくて頬を抑える。


「うまい!ここのコック長の腕前いいよな!騎士団の寮のメシは不味いんだ」


「なんでおまえがいるんだよっ!?」


 なぜか一緒にテーブルに座ってお茶をしているエイデンにリヴィオが苛立つ。


「硬いこと言うなよぉ!ここの料理も銭湯も気に入ってるんだ!」


 クラスメイトですと言って、たまに屋敷に入り込むのはやめてほしいものだ。


「あ、そういえば、なんでジーニーに嫌われてるの?」


 とりあえず謎だったことを聞いてみる。嫌われてねーよ!と言うエイデンは無視してリヴィオが話し始める。


「それはな……こいつがしつこくジーニーに絡んたからだ。まぁ、オレにも絡んできたけど……あれは入学したばかりの頃だった……」


 リヴィオの回想が始まった。


「なんだぁ?公爵家のお坊ちゃんと学園長の息子だってー?贔屓されてるんだ!そんなもん実際は大したことないことが多い!ワーーッハハハ!うちのエイデンのほうがずーーーっと優秀だ!」


 エイデンの父が入学式にそう大声で言っていた。リヴィオの父はフッと鼻で笑い、母は横目でちらっと見ただけだったらしい。ジーニーの方にいたっては父はその場におらず、母がジーニーに『やっておしまい』と耳打ちしていたそうだ。


 ……4人の親の個性が出るなぁと私はしみじみ感じた。


 エイデンはその日からリヴィオとジーニーに度々突っかかるようになった。

 

「おい、どけよ。お坊ちゃんたち!そこの前の席は俺のもんだ」


 エイデンに前の席を譲れと言われて……。


「おー、いいぞ、オレは後ろの席が良いからな。ジーニー、行こうぜ」


「……リヴィオ、後ろの席になったら寝るだろ!?」


「前でも寝る」


「寝るなよ」


 幼いエイデンは二人のやりとりに入れず、涙目になりつつ、叫ぶ。


「無視するなああああ!」


 そういえば、リヴィオは私も記憶するところによると、授業中、よく寝ていた気がする。それをジーニーが起こしていた。


 またある時はエイデンは演習中にわざわざ対戦相手を変えて……。


「おい!ジーニー、おまえを鍛えてやる!」


 ため息をはぁ……と吐いてめんどくさそうなジーニー。


「いいけど、バカ相手はめんどくさいなぁ」


「バカとかめんどくさいとかいうなああああ!」


 もちろんジーニーが勝っていた。


「今度のテストでおまえに勝てたら土下座しろよ!?こないだバカ言ってただろ!?」


 わりと根に持つタイプだったのか、ジーニーに絡みまくる。


「勝てたら、してあげるよ」


 ニッコリと余裕の笑みでエイデンに言い返していた。もちろんジーニーが負けたことなどない。


 しかしだんだんジーニーは苛立ち、毎日、何かと突っかかるエイデンに聞いたらしい。


「なんでそんなに僕たちに突っかかるんだ?何がそこまで気になるんだ?」


 エイデンはビシッとジーニーを指差していった。


「女にモテるやつらは嫌いなんだーーー!!」


 私はそこまで話を聞いて、呆れつつ立ち上がる。


「さてと……仕事いこうっと。ジーニーに嫌がられるわけね」


「おいっ!俺のほうの話も聞いてけよ!リヴィオとジーニーはな……」


 忙しいのよ!とピシャリと私に言われて、ややしょんぼりするエイデン。


「じゃあ!リヴィオー!剣で勝負をしようぜ!」


「オレも今から仕事だ。断る!……が、良い所へ連れてってやるよ」


 ニヤリとリヴィオはした。彼は午後からナシュレの街へ行くと言っていたが……?


 後から聞いた話によるとナシュレの街で防災訓練の消火活動のバケツリレーに参加したり、防火の広告ポスターを貼ったり、火の用心の風船をサニーサンデーのマスコットキャラクターであるサニーちゃんと配ったりし、ボランティアで働くエイデンがいたとか。


 私は思うのだ。口は悪いけどエイデンはわりと単純な人で、根は悪い人ではなさそう。本当はリヴィオとジーニーが好きで、ちょっかい出していたような人だろう。好きでもない人を毎日声をかけて、かまえるだろうか?

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