第9話 風雲急を告げる
俺はこの雑貨屋を出ようとした。すると、店のお姉さんに止められた。
「ねえ君、ちょっと待って」
「はい、何でしょう?」
「せっかく買ったんだから、着替えて行ったら?・・盗賊連中も手配が回っていなければ、冒険者の格好をしてこの街をうろつくことが出来るのよ。その格好じゃ・・下民か浮浪者に間違われて奴隷用に捕縛されちゃうわよ」
「ええ?!・・奴隷ですか?」
「そうよ、奴隷よ。定住地を持たない下民やランクの低い獣人は奴隷狩りの餌食にされることが多いのよ。その格好じゃちょっと危ないかな~・・」
「この街に奴隷とか・・居るんですか?」
「居ると言えば・・居るわね!でも、冒険者チームの荷物持ちが多いわね・・冒険者は、自分たちが下民出身だったりするから、獣人の奴隷さんとは結構仲がいいのよ。獣人さんも、毛むくじゃらだけど気は優しくて力持ちって感じかな・・」
「あー・・あのチューバッカみたいな人たちか・・」
「チューばか??」
「あ、いえ・・僕の国ではそう呼んでいるんです・・はは」
「なーんだ、そういう事・・ところで、早く着替えてらっしゃい。
部屋の奥に着替えるところがあるから、そこで着替えると良いわ。きっと似合うわよ!」
「はい」
俺はさっそく部屋の奥で着替えた。
このライダースジャケットは、俺が20歳前後の時に着ていたものだ。
カフェレーサータイプのバイクよりマッチョタイプが好きだった俺は、幾つもバイトを掛け持って、やっとV-MAXを買った。
日本仕様は北米仕様よりパワーが低い。日本が本家なのに、なんで本家の方が劣るんだ!
いくらでも工作機械を使える環境にあった俺は、ポン付けのターボを改造して取り付けた。
タンクの両脇にあるカッコいいダミーのエアインテークは本物のエアインテークに改造。
そして・・いつの間にかとんでもない怪物を造ってしまった・・
今は実家の俺の部屋で、このスーツと一緒に眠っている・・はずなんだが・・
俺は懐かしの革パンとジャケットに身を包んだ。
サイズが縮んだのか?・・今の俺の体格にピッタリだ・・
刀を腰に刺し腰にポシェットを下げ、売り場に出ていった。
「まぁ~!!見違えったじゃないのー!! 何だか寒気がするようなカッコ良さよ・・」
「え・・そうですか?」
「うーん!とっても似合ってるわ!!あなたの黒髪と黒い瞳、黒のジャケットと革パン、その剣もそうやって腰に刺すと様になるわねー!!長さも丁度良いじゃない!・・ただの棒なのが玉にキズだけど・・イケてるはずなんだけど・・ちょっと怖いかな・・」
「は、はい・・」
「後はその伸びた髪の毛ね!もっとスッキリしましょう!・・私が床屋代を出してあげるから、そこの床屋さんでスッキリしましょう、さ、早く行くわよ!」
「こんにちわー!」
「おう、どうした?お前が床屋に来るなんて久しぶりじゃねーか!」
「何を言ってるのよ、私じゃないわ、この子の頭を刈ってやって欲しいの」
「バカヤロー、冗談じゃねーか、分かってるよ!で、どんな風にしたいんだ?」
床屋の店主が俺を見た途端、少し怯えたような素振りを見せた。
「き、君が・・髪を切りたいんだな?・・で、どんな風にしたいんだ?」
「カッコよく!とにかく、かっこよく!この黒髪に黒い瞳、そして、獲物を捉えたら絶対に逃さない!ってカンジの・・このこの目に似合う・・そうねー例えば『殺し屋』かな?」
「おいおいおい、物騒な事は言いうな!・・ま、まぁ・・言いてー事は分かるがな・・はは」
「あのー・・普通でいいです」
「だめよ!」
「ダメだ!」
「あひ!!・・なんでハモってんの?」
「良いから、俺に任せてくれ!!お前が睨んだものは即死するような、カッコいい頭にしてやるからな!!・・お前に触れる者は、皆殺しだ!!」
「そうよ!!それで私を睨みつけるのよ!!・・そしたら・・死んじゃうかも~」
「あの~・・僕は未だ13歳で・・眼力で悩殺する力はまだ早いかと・・」
「違うな・・ぼうず。お前さんからは、殺気というより『死の闇』が漂ってる感じだ。俺はな、何千人もの冒険者に会ってるから分かるんだ・・殺し屋風情とは桁が違う・・死の恐怖じゃない。死を覚悟させるような・・そんな闇のオーラが漂ってる。どうしたらその歳で・・」
「ええ?そうなんですか?!」
「だけど変よね・・下民のボロ服を着てたときは全然そんな感じじゃ無かったのに・・」
「大体イメージは掴んだぞ!俺に任せておけ!」
床屋のオヤジは急に張りきり始め、間もなくして散髪が終わった。
「よし!!どうだ!!出来たぞ!!これでお前は立派な『殺し屋』だ!!」
「さっすが!!冒険者御用達の床屋はワイルドさが違うわねー!!本当に殺し屋風ね!
で、いつダンジョンに入るの?」
「いえ・・僕は・・薬草採取専門ですよ・・」
「えええー!!・・・お金返して!!」
「いやです」
「あはは!でも、本当に見違えったわ!今日から同年代の女の子にモテモテよ!・・たぶん・・」
「ど、同年代ですか・・それはちょっと・・いけない気がします」
だがしかし・・「たぶん」ってなんだよ「たぶん」って?
「つべこべ言わずに、さっさと街に出る!!」
俺は、強制的に床屋されて、強制的に追い出された。
それは兎も角、俺の腰に宗近が刺さっているなんて・・胸熱だ・・
何気に鞘を握り、刀の柄を握り締めた。すると・・鞘に血管が走ったような幾筋もの赤い光が走った!今までこんな事は無かったが・・まるで宗近に意思が有るように感じた。
さて、床屋を出た俺は、出店で串焼きを食べながら街をふらついていた。
すると、通りを歩いている人たちから・・何故か目線を感じる。
同い年位の女の子のグループは、立ち止まって俺を見ながらあからさまに耳打ちしている。
な、ええ?・・俺の顔に何か付いてる?皆んな、なんで俺を見てる?
そこ!耳打ちしてヒソヒソ話をするの、止めないか!!
「あれ?!・・お前・・ジンか?」
「ああ!クレスさんにサラさん!」
「ええ?!・・じ、ジン君なの?」
「そ、そうですよ!」
「ヒュー!!どうしたの?!カッコよくなっちゃって!!」
「おう、まったくだ!見間違えるところだったぞ!随分と冒険者らしくなったじゃねーか!」
「そうね!・・ってか、ちょっと見『ヤバイ』感じだよね!・・近寄り難いっていうかさ、めっちゃクールでカッコイイんだけど・・近づくと切られちゃいそうな雰囲気が出てるよ!」
「いや・・そんな・・」
「うむ・・確かにやばいオーラを感じるな・・これは・・なんつーか『暗殺者』のオーラに近いな・・うん!」
「え?!・・本当ですか?」
「ああ、間違いない。俺は王都の『アサシン』と付き合いがあるんだが、近いオーラを感じるな・・だが、もっと深いというか、重い感じだな。お前・・以前、人をたくさん殺してないか?」
「ああ!・・こ、これか?・・む、宗近!!」
「ムネチカ?・・なんだそりゃ?」
「あ、いえ・・」
宗近の鞘に赤い稲妻の線が!・・
落ち着け!宗近!!・・殺気を抑えるんだ!!
そう宗近に念ずると、赤い線がスーッと消えていった
「あれ?!・・背中のゾクゾクが消えたな?・・・」
「ほ、本当ね!・・ジン君も・・いつもの可愛いジン君に戻ったね!」
「いったいどういう事だ、ジン?」
「原因は・・この剣です」
「その剣がどうした?」
「この剣は・・僕が国で失くしてしまった剣なんです。・・それが、古道具屋で偶然見つけて、僕の手に戻ったんですが・・この剣自体は千年以上引き継がれていて・・その間に多くの武人を斬り殺した剣なのです。つまり・・殺斬剣として有名な剣で、殺人の魂を宿しています」
「そ、それでか!!・・って事は・・お前、本当はアサシンなのか?」
「いえ、違いますよ!・・幼い頃から剣術は習っていましたが、殺し屋ではないです」
「幼い頃からって・・ジン君・・本当は貴族なんだよね?!でなきゃ、幼い頃から剣術なんて習えないから・・」
ピッ!
あなたは東方国の王族という設定になっています。しかし、この場合は「貴族」程度に留めておいたほうが賢明です。家名は「カツラギ」実家の爵位は「伯爵」程度にしておくべきでしょう。あなたはその二男にしてください。
「実を言うと・・そうなんです。東方国で、家名は『カツラギ』、爵位は「伯爵」の出です・・
なので、剣術や武術は一通り学んでます。体術や弓術もやりました」
「なるほどな・・薬草採取にゃ勿体ねーな・・」
「いえ・・実戦はしてませんがら・・」
「ところで・・伯爵家?!・・やっぱねー・・只者ではないとは思っていたわ!で、嫡男?」
「いえ、まさか・・」
「嫡男な訳ねーだろ!嫡男がこんな自由にほっつき歩ける訳ねーよなー?」
「ですね、僕は二男です」
「ほーらな!」
「でも・・すごいな~・・伯爵家の家系かー・・」
「伯爵と言っても僕の爵位じゃありません。僕はその辺に居る『小僧』と大して変わりませんから・・」
「ジン君ってさ、貴族だよね?どういう育てられ方をすればそんなに謙虚になれる訳?」
「武士たるもの『弱きを助け強きを挫く』ですかね・・強いものは弱いものを助け、横暴な悪者を懲らしめよって教えです」
「ええー!!・・それがあなたの国の教えなの?!」
「え、まあ・・そうです・・」
「東方国に断然興味湧いてきちゃったな~!!」
「クレスも行ってみたいでしょ?」
「ああ・・確かに・・だが、大東海だぞ、アルスタミア大陸の東だぞ・・途轍もなく遠いじゃねーか!行けるわけがねーよ」
「なら、どうやってジン君はこの国に来れたの?」
「それは・・」
「おおかた魔道士か神官どもに『大転送』でも使わせたんじゃねーのか?」
「なによ、大転送って?」
「お前、知らないのか?両方の場所に描いた転送用の魔法陣で、人や物を転送させる魔術だ。だがな・・使う魔力も距離に比例しているから、東方国からこの大陸の何処かに転送させようとすると、とんでもない魔力が必要なはずだ。そこいらの魔術師なら、恐らく即死もんだぞ。だが、伯爵クラスなら・・」
「それも可能って事ね?」
「そういうこった」
勝手に想像して勝手に答えを出してくれたので、お言葉に甘えた。
「さすがクレスさん、よく分かりましたね!」
「ふん!伊達に年食ってねえからな。そのぐらいの事は想像がつくさ」
「ほえ~・・クレスって意外と物知りなんだね!見直しちゃったわ!」
「『意外』は余計なんだっつの!」
「ところでジン君はどこに行くの?」
「僕はお金をおろしに冒険者ギルドに行きます」
「なんだ、じゃあ俺たちと一緒じゃねーか。俺たちはギルドでドルフ達と落ち合うんだ」
「そうなんですか?じゃあ一緒に行きましょう」
「そうだな」
冒険者ギルドに到着すると、チームリーダーのドルフが声を掛けてきた。
「ジン君?・・だよね?」
「はい・・?ジンっです・・」
「すっかり見違えてしまって、驚いたよ! やり手の冒険者って感じじゃないか、薬草採取専門なんて誰も想像がつかないと思うよ!」
「ドルフ・・あなた・・時々サラッと失礼なこと言うわよね・・」
「え?!・・ジン君、僕はなんか失礼なこと言ったかい?」
「いえ、別になにも・・」
「ジン君は大人ね! デリカシーの無い誰かさんと大違いね!」
「あ、いえ・・そんな・・」
そんな他愛のない話を谷番のメンバーと話をしているときだった。
「た、大変だーー!!・・大型魔獣が門を破って街に出てきたぞ!!」
冒険者達が血相を変えてギルドに雪崩込んできた。
「一体なにがあった?!!」
「貴族の若造連中が・・1階層の出口付近に避難用の転送門を張りやがって・・
20階層の魔獣やモンスターが門の内側で暴れてるんだ!!破られるのは時間の問題だ!!
事を起こした貴族連中は・・ダメかも分からん・・
私兵20人を連れていたが・・たぶん、ほとんど全滅だろう・・」
「な、何てことだ!支部長に連絡だ!!・・街中の冒険者を集めるんだ!!」
「あなた方・・傷だらけじゃないの!!・・何人居るの?!」
「通用門から何とか逃げ出せたのは・・全部で3パーティーだ・・おい!お前ら!大丈夫か!!」
血だらけになってギルドに雪崩込んで来たのは14人だ。
鑑定眼で彼らを見ると、深手を負っている者が4人ほど居る。
更に、ギルドの外では「魔獣が街に出てくる!」と大騒ぎになっていた!