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第十六話『不便な魔法』


「まずね、魔法を使うのには色んな制限があるんだよ」

「制限?」




 ルミナが告げた一言に、セリカが首を傾げた。




「そう、まず魔法石がないと魔法が使えなくて、使える魔法にも上限があるの」




 それを皮切りに、ルミナは続けてセリカに説明を始める。

 まずルミナは、両手の指を七つ立ててセリカに見せていた。




「まず魔法のことから、魔法っていうのは第一魔法から第七魔法まであるんだ。それで魔法石で使えるのは、その魔法に合った魔法石がないと使えないんだって」

「第一から第七って?」




 よく分からない言葉が出てきたことに、セリカが思わず訊き返す。

 ルミナはセリカの質問に少し悩むような表情を見せるが、頭の中で記憶を思い出しながら答えていた。




「魔法の強さ、かな? 第一が一番弱くて、第七がすごく強いって感じだよ」

「へぇ……それなら第一魔法を使うには、その第一魔法石ってのが必要ってことか?」

「そう! セリカ、頭良い!」

「……馬鹿にしてんのか?」

 



 ルミナの過度な反応に、セリカが眉を寄せる。

 しかし不満そうなセリカを意に介しさずに、ルミナは両手を彼女に見せると左右の手の人差し指を立てていた。




「セリカの言う通り、第一魔法を使う為に必要なのが第一魔法石になるの。だけど、それ以上の魔法石でも第一魔法は使えるんだよ」

「……第一魔法を使うには、第一魔法石が必要じゃないのかよ?」




 セリカがそう訊くと、ルミナは右手の立てていた人差し指に加えて、中指を立てていた。

 右手の二本の指と、左手の一本の指をセリカに見せながらルミナはセリカの疑問に答えた。




「例えると……第二魔法石は第二魔法を一回、または第一魔法を二回だけ使えるってこと」




 話の前半部分は右手の二本の指を強調して、そして後半部分を左手の一本の指を大きく二回振って強調しながらルミナが話す。

 だが、その説明にセリカは顔を顰めてルミナの話を聞いていた。

 ルミナがセリカの顔を見るなり、彼女が自分の話を理解できていないことをなんとなく察する。

 どうやって理解してもらおうかと、ルミナは頭を悩ませながら過去に自身も受けた説明の内容を唸りながら思い出して、それを口にしていた。





「うーん。簡単に言うと、例えるなら水が入った容器が魔法石で容器から水を掬うコップが魔法。魔法石の容器が大きいほどたくさん魔法が使えて、強い魔法を使う為には大きいコップで掬えるだけの容器が必要ってこと」




 妙な例え方だったが、ようやくセリカは理解した。

 魔法石の数字に対応して、その数字に対応した魔法が一度使える。そしてその数字の数に応じて、その分だけ魔法が使えるという話だった。

 しかしルミナの説明を聞く分では、セリカは疑問に思ったことがあった。




「……じゃあその容器の水が無くなったらどうすんだよ? もう魔法使えないのか?」




 容器である魔法石に魔法という水があり、それを使い果たした時――容器は空になる。つまりそれはもう魔法が使えないということになる。

 ルミナの説明だけだと空になった魔法石はもう使えないことになってしまう。




「時間が経てば使えるようになるよ。でも魔法石の数字が高いとまた魔法が使えるまで時間が掛かるって」




 そこでセリカは納得した。

 一度使った魔法石は、時間が経てば元に戻る。その時間は魔法石の数字が大きいほど、時間を必要とする。

 今までのルミナの説明を聞いたセリカは、初めに彼女が言っていた言葉の意味を理解した。

 魔法には制限がある。確かに、ルミナの話が本当ならば言葉通り、制限しかない。




「意外と不便だな。魔法って」




 魔法について理解したセリカは、しみじみと呟いた。

 噂だけの話なら、自由に魔法が使えると思っていた。

 貴重な魔法石を持つ者は、魔法が使える。そしてそれを使う者は、強い力を得る。それ故に、強い権力を持つ。そんな噂を聞いたことがあった。

 だが、噂の蓋を開ければ、そんなことはなかった。思っていたよりも、制限で縛り付けられた不便なモノだった。




「ノワール達も同じこと言ってた。だからこそ、魔法石を持ってる人間と持ってない人間には、それが“大きな差”にもなるんだって」

「なんだそれ? どんな意味だよ?」




 意味深な言葉だった。セリカが思わず訊き返した。

 しかしルミナはセリカの言葉に肩を竦めていた。




「よくわからない。だってそれ以上はノワール達も教えてくれなかったんだもん」

「そこまで教わったのに、なんでそこは教えてくれなかったんだ?」

「さぁ? なんか魔石使いになったら自然と分かるんだって?」

「ふーん……魔石使いになったら、ねぇ……」




 自分には到底関係のない話だった。いや、それを言ってしまうと魔法石の話自体が関係のない話だった。

 しかしルミナがそれ以上のことを知らないのなら聞ける話ではなかった。




「どう? 楽しかった?」

「まぁ……暇潰しにはなった」

「ほんと! えへへ、それなら良かった!」 




 セリカの淡白な反応でも、ルミナはとても喜んでいた。

 満面な笑みを浮かべるルミナに、調子が狂うセリカが肩を落とす。


 そんな時――ふと、セリカの目にルミナの手が映った。


 ルミナの左手にずっと履いたままの皮の黒い手袋。

 セリカが思い出してみれば、確かシャワーの時ですらルミナはその手袋を付けたままだった。

 本来なら服を脱いで身体を洗うなら、手袋は外すはずである。しかしルミナはずっと手袋を付けていることに、セリカは今更ながら疑問を抱いた。




「そう言えば、お前……なんでずっと手袋付けたままなんだ?」




 そう思っていたら、自然とセリカは訊いていた。




「あっ……確かに……そうだよね。普通は、手袋は外すよね」




 しかしセリカに訊かれたルミナは、彼女の思っていなかった反応を見せていた。

 手袋を付けていない右手で手袋を付けた左手を覆うと、ルミナは自分のお腹に隠すように両手を添えていた。




「ちょっとね。あんまり人に見せたくないモノが左手にあって……」




 珍しい反応だった。どこかいたたまれない雰囲気を醸し出すルミナに、セリカは意表を突かれた。

 それ故に少し気になったセリカだったが、ルミナの反応を見る限り、必要以上に訊こうとも思えなかった。

 誰にでも秘密にしたいことはある。それはセリカも理解はしている。孤児で生きてきた中で、自分と同じ孤児の子供にもルミナと同じように秘密を隠す人間もいた。

 しかし正直になんでも話すルミナがそんな反応をするとは思っていなかった故に、セリカは驚きながらも不用意に訊いてしまったことをほんの少しだけ後悔していた。




「……悪かった。もう聞かねぇ」

「別に大丈夫だよ。言わなかった私が悪いし」




 セリカの謝罪に、ルミナが申し訳なさそうに小さく頭を下げる。

 そして二人は無言になり、互いに言葉を発しない。

 気まずい雰囲気になってしまうが――それは扉が開かれる音ですぐに消え失せた。




「……なんだ? 二人とも、馬鹿みたいな呆けた顔して?」




 浴室から頭にタオルを雑にかけたノワールが出てきた。

 そしてベッドで顔を見合わせていたルミナとセリカを見るなり、小馬鹿にしたように苦笑する。

 その顔が気に食わなかったのか、ルミナは頬を膨らませるとノワールからプンとそっぽを向いていた。




「ノワール、嫌い」

「私も、アンタが嫌いだわ」

「……二人揃ってどうしたんだ?」




 状況が理解できないノワールに、二人が揃って口を尖らせる。

 何故か二人の機嫌を損ねてしまったことに怪訝な顔を作るノワールだったが、彼は溜息を吐くと渋々と自分のベッドに置いていた大きな鞄を漁っていた。

 そして目当ての物を見つけるとノワールは面倒そうな顔をしながら、それをルミナに投げ渡していた。




「たまには遊び相手になってやるよ。機嫌治せ」

「わわっ――!」




 慌てた様子でルミナがノワールから投げ渡された物を受け取る。

 急に物を投げ渡されたことにルミナがムッと顔を顰めるが、渡された物を見ると彼女はすぐに目を輝かせていた。




「あっ! カードだ!」




 ノワールがルミナに渡したのは、小さな箱だった。手の平に乗る程度の小さな箱。それを彼女は目を輝かせて見ていた。




「なんだ? それ?」

「カードだよ! たまにノワール達が遊んでるの!」

「遊び道具か? なんでそれお前も持ってないんだよ?」

「ノワール達が私に持たせてくれないの」

「なんでだ?」

「これで遊んでるとノワール達、すぐに喧嘩するから。大変なんだよ? セシアとノワールがダリアお姉さんに向かって怒って、それをみんなで毎回止めるの」




 ルミナが箱を開けると、そこには小さなカードが多く入っていた。

 セリカがルミナの隣でそれを見た瞬間、彼女はそれに見覚えがあったことを思い出した。

 確か、街にいる傭兵達がテーブルで似たようなものを使っていた。そして金のやり取りをしているのも覚えている。

 ふと、ルミナの先程の言葉がセリカの脳裏を過ぎる。そしてそれを繋ぎ合わせると、セリカはノワールを呆れた目で見つめていた。




「良い歳した大人が賭けで喧嘩すんなよ……」

「違う。イカサマするのが悪い」




 セリカの呆れた視線に、ノワールは鼻を鳴らしながら答えていた。

読了、ありがとうございます。


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