表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/434

その89 鏡の中の『私』、それは願望(前)

■その89 鏡の中の『私』、それは願望(前) ■


 やっぱり、入るんじゃなかった・・・


 主は後悔してます。


 お昼をお腹いっぱい食べて、エネルギーチャージした双子君達の勢いに押されて、その小さな手で両手を掴まれて引っぱり込まれた空間です。

初めての空間に興奮した双子君達は、少し進むと主の手をパッと放して、奥へと進んでしまいました。

 主はすぐに、折りたたみ傘の僕を取り出して、ギュって抱きしめました。


 キラキラキラキラ・・・光源が何処か分かりませんが、主の周りは反射された光が出口を失って、踊り狂っているようです。

前後左右上下・・・どこを向いても、主が居ます。

 キラキラ輝く鏡の世界。


 心臓の鼓動が早くなっていくのを、主は実感しています。

呼吸が浅く速く、僕を抱きしめている指先が、冷たく痺れていくのを感じます。


「大丈夫、大丈夫・・・

三鷹さん達、直ぐに追いつくから・・・大丈夫。

カエルちゃん、いるから大丈夫」


 僕が人間だったら・・・

小さな声で自分に言い聞かせて、落ち着こうとしている主を助けてあげられるんですけど・・・三鷹さん、早く来てください!


 自分1人しかいないのに、目の前に、横に、後ろに・・・寸分違わない、まったく同じ姿形をした自分が要る。

ここには自分しかいないのに、自分ばかりなのに、今にもどこかの鏡の隅からあの黒い影がにゅうっと・・・


 光が見えなくなって、視界が自分でいっぱいになって、こめかみに流れ込む血液の音が頭に響いて・・・


「桜雨・・・」

「はぁっ!!」


 後ろから三鷹さんに肩を掴まれて、主はビックリして反射的に大きく息を吸い込みました。


「はぁはぁはぁ・・・三鷹さん」


 体内に空気が流れ込んで、視界が戻りました。

三鷹さんの姿を確認して安心すると、色をなくした肌に、一気に汗が吹き出しました。

僕を抱きしめている手が、大きく震えています。


「どうした?

気分が悪いか?」

「三鷹さん・・・三鷹さん、三鷹さん・・・」


 怖い夢を見た子供のように、主は泣きながら三鷹さんに抱き着きました。

僕は、主と三鷹さんでサンドイッチにされました。


「桜雨、大丈夫だ。

どこにもいかないから」


 様子のおかしい主を抱きしめて、激しく泣きじゃくるその背中を、ゆっくりゆっくりと撫でてくれました。

大きな大きな手で。


「桜雨、どうしたの?」

「大丈夫か?」 


 追いついた桃華ちゃん、梅吉さん、笠原先生が、心配そうに声をかけました。


「桜雨・・・」


 桃華ちゃんは心配で心配で、そっと主の肩に手を置きました。


「桃ちゃん・・・」


 しゃくり上げて、肩を上下させながら、主は桃華ちゃんを振り返りました。


「大丈夫?」

「・・・うん」


 主の右手が、ギュッと三鷹さんのパーカーを握りしめました。


「うん・・・

鏡・・・鏡が怖くて・・・

龍虎、先に行っちゃって・・・

でも、カエルちゃんがいてくれたし、三鷹さん来てくれたから」


 良かったです。

僕、少しはお役に立っていたみたいです。

まぁ、三鷹さんには負けますけれど。


「龍虎、先に行ったの?」


 梅吉さん、聞きながら主の首で脈をとったり、呼吸の様子を見たりしています。


「うん」

「じゃぁ、二人は俺が追うからね。

三鷹、頼んだ」


最後に主の頭を優しく撫でて、双子君達を追いかけて進んで行きました。


「驚かしちゃって、ごめんね、桃ちゃん。

落ち着いてきたから、もう大丈夫。

龍虎が心配するから、先に行ってて」


 弱弱しくですけど、主は下がり気味の目尻を下げて、桃華ちゃんに笑いかけました。

主の心臓の音も呼吸も、だいぶ落ち着いたみたいです。


「・・・後で、ソフトクリーム食べようね」


 そう言って、桃華ちゃんは後ろ髪を引かれつつも、笠原先生と先に進みました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ