その74 浮かれて・・・いられません。お父さん達はショックです
■その74 浮かれて・・・いられません。お父さん達はショックです ■
主、怒濤のファッションショーを無事に終えて、ホッと一息です。
エスコート役の先生達も含めて、舞台上で記念写真を撮りました。
ランウェイはその後のプログラムでも使えるという事で、そのままです。
13時前には、教室が展示室になりました。
皆で作った衣装や小物は、2年B組に陳列です。
教室の壁には作業工程の写真が所狭しと貼られて、設置されたTVには今までの過程の動画が流れています。
予定では、今日中に撮影係が昨日のリハーサルと今日の本番を編集したデーターを作って、明日、文化祭の2日目には教室で流す手筈です。
松橋さんと他の部活に入っていない数人は、教室の案内係です。
主と桃華ちゃんは、メイクを落として、髪は飾りだけ外して、制服に着替えて美術部に行くはずでした。
「「・・・どうしたの?」」
三島先生に呼ばれて、剣道部と柔道部が合同で催している武道場の『お茶所』に行ってみると・・・
白川家・東条家の家族が、揃って畳の上に座って、お抹茶を楽しんでいました。
もちろん、秋君も一緒です。
けれど、主のお父さんの修二さんは、畳の上に膝を抱えて寝っ転がり・・・
桃華ちゃんのお父さんの勇一さんは、お抹茶の入った茶碗を手にしたまま、猫背の姿勢でピクリとも動かず・・・
いつの間にか家族に合流した梅吉さんは、体育座りをして、抱っこしている秋君を背中から吸っています。
秋君、イヤそうな顔をしていますが、梅吉さんのために我慢しているみたいです。
「お父さん達、お姉ちゃんと桃ちゃんのドレス姿見た後から、こうなの」
主によく似た双子君達は、お抹茶の苦みを楽しみながら、修二さんと勇一さんの分のお茶菓子も、容赦なく食べています。
「お疲れ様~。
ファッションショー、素敵だったわ~。
お父さん達、二人の花嫁姿、想像しちゃったのよ。
すごく似合ってて、お母さんは2人の花嫁姿が楽しみになっちゃった」
笑いながら、主のお母さんの美和さんが座布団を進めてくれました。
「あー・・・なるほどね。
父さんや修二叔父さんならともかく、兄さんはリハーサル見てるじゃない」
桃華ちゃんは呆れながら、主とその座布団に座りました。
「だって・・・昨日はエスコート役いなかったもん。
三鷹、ブラックフォーマルなんか着ちゃって、まんま結婚式じゃん。
ってか、桃華のエスコート、俺じゃないの?
おかしくない?俺じゃないなんて・・・」
梅吉さん、顔を秋君の背中に埋めたまま、ブチブチブチ・・・
「「もん」とか言ってるし・・・
兄さん、大きな体してるんだから、みっともないわよ。
ウジウジしないで」
桃華ちゃん、すんごく嫌な顔です。
「梅吉兄さん、キノコ生えちゃうよ~。
畳とか、秋君の背中とか?」
主の一言に、双子君達は、慌てて梅吉さんから秋君を回収しました。
「良かった、キノコ生えてない」
「明日の朝、生えてくるかも!
秋君、今日、お風呂だ」
「ワン」
秋君の背中を確認して、安心する冬龍君。
まだちょっと心配な夏虎君。
ウジウジした梅吉さんから解放されて、ご機嫌な秋君です。
「三鷹君、カッコよかったわね~。
修二君の気持ちも、分からないでもないわ。
でも、桃華のエスコート役、誰なの?」
桃華ちゃんのお母さんの美世さんが、パウチされた可愛いメニューを主に手渡してくれました。
「私、全然余裕がなくって・・・
歩くので精一杯だったから。
ランウェイ歩き終わっても、三鷹さんしか見えてなかったし」
主、最後の一言は修二さんへのトドメですよー。
ほら、修二さん、なんか、痙攣してますよ?
「抹茶ソイラテください。
私も、分からないのよね。
見覚えなさ過ぎて、舞台出る前に
「誰?」
って、聞いちゃったし。
集合写真撮り終わったら、いつの間にか居なくなってたし」
桃華ちゃん、ちょっと俯いて、髪に挿した簪にそっと触れました。
そんな桃華ちゃんを、主はそっと見ていました。
「私も、抹茶ソイラテお願いします。
そう言えば、皆探してたね」
主と桃華ちゃんのオーダーを、柔道着の上からエプロンを付けた1年生にお願いしました。
「てっきり、笠原君がエスコートするのかと思ってたから、ビックリしたわ。
あのエスコート役の先生、モテるでしょう?」
「だからー、皆、誰だか分らなかったの」
待つことなく、抹茶ソイラテが出て来ました。
お抹茶用のお茶碗で。
「美味しそうですね」
大きなお茶碗を、グイっとあおろうとした桃華ちゃんの後ろから、笠原先生が覗き込みました。
今日は、白衣の下に厚めのパーカーを着て、そのフードを深く被っています。
深すぎて、眼鏡にもかかってますよ。
「朝一番での大仕事、お疲れさまでした」
笠原先生は桃華ちゃんの隣に、座りました。
主が振り返ると、三鷹さんも居て、スルっと主の隣に胡坐をかきました。
三鷹さん、白のYシャツの袖をまくって、黒のベストにスラックスと、いつもの格好です。
いつもの格好で、主はホッとしています。
あんなカッコいいままだったら、主の心臓、止まっちゃいますもんね。
「水島先生、まだ仕事中ですよ」
笠原先生、抜け目なしです。
三鷹さん、主を膝の上に置こうとして、釘を刺されて少し不服そうです。
代わりに、双子君達が三鷹さんの両膝に座りました。
「校内、だいぶ回りましたか?」
「まだだよー」
「お父さん達、こんなんだから」
双子君達の返答に、主と桃華ちゃんは苦笑いです。
「ここ、三鷹が副顧問を務める剣道部も一緒ですから、三人ぐらい端っこに転がして置いても大丈夫ですよ。
手作りジェットコースターや、お化け屋敷、カジノ、お約束の射的もありましたよ。
もちろん、ちゃんと景品がありましたね。
科学部では、水ロケット競争、スライム作りとか、ちょっとした実験ができますよ」
「笠原先生、今まで、見回りですか?」
笠原先生のお勧め一覧を聞いて、双子君達は目がキラキラしています。
「ファッションショーは、梅吉とは逆側の会場警備をしながら、ちゃんと見ていましたよ」
主の質問に笠原先生が答えると、桃華ちゃん・・・
「ふーん・・・」
って、ちょっと怒ってます?
拗ねてます?
なんだか、お顔が・・・
「龍虎、私と桜雨、美術部のブース・・・」
「第2体育館の2階ね」
「そうそう、そこ。
そこに居るからね。
私達、交代しなきゃいけないから、もう行くわ。
先生方、お仕事頑張ってください」
桃華ちゃん、声もちょっとツンケンしてます。
お茶碗に残っていた抹茶ソイラテをグイっと飲み干して、桃華ちゃんは立ち上がりました。
「また、後でね~」
三鷹さんと離れがたい主は、桃華ちゃんに手を引っ張られて、名残惜しそうに皆に手を振って退場しました。




