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その70 花火より眩しいのは君の笑顔・花火より暖かいのは貴方の体温 5

■その70 花火より眩しいのは君の笑顔・花火より暖かいのは貴方の体温 5■


 7匹の金魚と射的の景品は、型ぬきのお店のオジサンが、預かってくれていました。

それらを受け取ってから、桜雨ちゃん達は花火大会の会場に向かいました。


 神社の裏に広がる河川敷を、上流に向かって10分ほど歩くと、花火大会の会場です。

土手の上にある民家から零れてくる明かりと、月明かりを頼りに歩いていくと、お祭りで火照った体が秋風で冷まされていきます。

刈り込まれた雑草の中から、秋の虫の音。

桜雨ちゃん達の他にも、そこに向かって歩く人たちが多数います。



一同の先頭を歩くのは、梅吉さんと双子君達です。

胸元に秋君を入れて、迷子にならない様にと、梅吉さんは両手に繋がっている双子君達の手を、ギュッと握っています。

双子君達は、片手に梅吉さんと手を繋ぎ、もう片手には射的の景品の大きな水鉄砲を持って、とてもご機嫌です。


ヒュ~るるるるるる‥‥

どぉぉぉぉん・・・

パっ・・・バチバチバチバチ・・・・

チッチッチッ・・・


花火が始まりました。

大きな音と共に一発目が高く高く上がって、雲一つない夜空に、黄金のに輝く大輪の花が咲きました。

周囲の人たちは、足を止めて皆同じ方向を見上げます。


どぉぉぉぉん・・・

どどぉぉぉん・・・

パっパッパッ・・・

バチバチバチ・・・


最初の一発目が消えかけた時、今後は次々と打ちあがり、空に色とりどりの光の花が咲き乱れ始めました。


「綺麗・・・」


桜雨ちゃんの小さな口から洩れた声は、花火の打ち上げ音に消される程小さくて、少し前に居る笠原先生や桃華ちゃんには届きません。


「ああ、綺麗だ」


けれど、手を繋いで歩いていた三鷹さんには、確りと聞こえていました。

体はすっかり冷めたのに、繋いだ手だけは暖かいままです。


パンパンパン・・・

バチバチバチ・・・


 三鷹さんの視界に、花火は映っていません。

まだ幼さが残る横顔、光に透けそうな長い睫毛に、瞳に映り込んだ小さな花火。

上を向いた半開きの小さな唇が、打ち上げられる花火で色とりどりに縁どられて、キラキラ光って、三鷹さんの心臓はドキドキして・・・


「桜雨・・・」



三鷹さん、思わず、繋いでいない方の手で桜雨ちゃんの肩を抱き寄せようとして、景品の入ったエコバックを持っているのを忘れていました。

ガサ!っとエコバックの音がして、我に返った三鷹さんは、それでも桜雨ちゃんの髪に触れました。


「あまり上を向きすぎると、(かんざし)が落ちる」

「あ、さっきの騒動で、ズレちゃったのかも・・・」

「俺がやろう」


桜雨ちゃんが慌てて直そうとすると、三鷹さんがスルっと簪を抜きました。


「・・・怪我がなくてよかった。

投げるつもりだったんだろうが、無理はしないでくれ」


そして、修二さんが挿した角度とは逆に、挿しました。


パァァン!


ひときわ大きな花火が上がって、周囲が今まで以上に明るくなりました。

簪の鬼灯が光を反射して、桜雨ちゃんの髪がキラキラ光って見えます。


「じゃないと俺は・・・」


簪を挿した三鷹さんの手が、スルっと桜雨ちゃんの頬に触れました。


「はい、そこまでです。

『水島先生』、お気持ちは痛い程分かりますが、倫理観が逃げていきそうですよ。

コンプライアンス、コンプライアンス」


パンパンパンと手を叩きながら、いつの間にか、笠原先生が真横に立っていました。


「天下の往来です。

職場とプライベートを分けるのは構いませんが、今は自重(じちょう)してくださいよ。

ほら、早く合流しないと、白川のお父さんに殺されますよ」


いつもより少しきつめの口調でしたが、笠原先生は三鷹さんの腕から景品の入ったエコバックをスルンと取って歩き出しました。


「桜雨、行こう」


桃華ちゃんが桜雨ちゃんの元に駆け寄ってきて、空いている手を取って引っ張りました。


「三鷹さん、行きましょう」


桜雨ちゃんは、つないだままの手を少し引っ張りました。

その手がさっきよりも熱くなっているのに、三鷹さんは気が付きました。


「お姉ちゃーん、早くしないと、お父さんが拗ねちゃうよ」

「花火は、家族みんなで見なきゃダメなんだってー」


少し先で、双子君達が桜雨ちゃん達を急かします。

桃華ちゃんと桜雨ちゃんは顔を見合わせて、クスクス笑いながら歩くスピードを上げました。


「笠原先生、急ぎましょう」


笠原先生に追いつくと、桃華ちゃんは空いている方の手で笠原先生の手を取りました。

桃華ちゃんは自然に手を取ったつもりでも、顔が一気に熱くなったのを自覚して、そっぽを向きました。

けれど、身長差と結った髪で顔は分かりませんが、剥き出しになっっている小さな耳が赤いのは、花火のおかげで、笠原先生にもよーく見えています。


「まぁ、転ばない程度に」


そんな桃華ちゃんを可愛く思いながら、笠原先生は小さく小さく呟いていました。


「自重・・・自重・・・自重・・・」


それは三鷹さんも一緒で、やっぱり同じ言葉を呟きながら、手を繋いで前を歩く桜雨ちゃんを見つめていました。


夜空に咲く大小色とりどりの花火を見ながら、皆は仲良く手を繋ぎながら、待ち合わせ場所へと向かいました。




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