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その59 恋愛爆弾2発目投下 1

■その59 恋愛爆弾2発目投下 1■


 桃華ちゃん、様子が変なんです。

お昼に大森さんから言われた言葉が、そうとう気になっているようで・・・

5時間目の数学は、ぼーっと窓の外を見ていました。

6時間目の体育は、主に急かされて何とか体操着とハーフパンツに着替えて、手を引かれて体育館に来ました。

主、普段から寝ぼけている双子君達の身支度を手伝っているので、とても慣れた手つきです。


今日は、男子は校庭で野球、女子は体育館でバスケットボールです。

準備運動が終わったら、チームに分かれてボールに慣れるための基本動作なんですが・・・


「桃ちゃん、怪我、しちゃうよ」


桃華ちゃんがあまりにもボンヤリしているので、主はとっても心配してます。


「見学しようか?」

「あ・・・ごめん、桜雨、聞いてなかった」


周りは、二人一組でパスの練習をしていました。

それをキョロキョロ見ながら、桃華ちゃんは溜息をつきました。


「・・・桃ちゃん、サボっちゃおうか?」

「え?」

「大丈夫。

梅吉兄さんだから、大目に見てくれるって」


主はニコッと微笑んで、桃華ちゃんの手を取りました。


「東条先生~・・・」


そして、他の子の指導をしている梅吉さんを呼びながら、桃華ちゃんを連れて行った時でした。


「事件事件!

水島先生に、女の人が訪ねて来た!!

正門で待ってる!」


遅れて来たクラスメイトが、体育館のドアを開けながら、大声で皆に報告しました。


「うそ!」

「女の人って?綺麗な人?」

「幾つぐらい?」

「何しに来たの?」


一気に、授業が中断しました。

報告した女子が、囲まれました。


「サングラスかけてたから、顔は分からないけど、スタイルすんごくいいの。

髪も茶髪サラサラロングで、パンツスーツで、足長くて、胸!胸が大きい!!」

「はいはいはいはい、今、授業中。

ウメちゃんの授業、つまらないかぁー?」


梅吉さん、手を叩きながら、輪の中心まで進みました。


「ウメちゃんの授業、つまらなくはないけれどさー・・・」

「あの、水島先生に女の人だよ?」


皆、チラチラと主を見ています。


「興味あるじゃん」

「うん、興味あるよね」


そう言って、殆んどの子は正門へと向かって行ってしまいました。

三鷹に敗けた・・・と梅吉さん、ガックリと肩を落としました。

ションボリしつつも、気になるのは主の心中ですよね。

恐る恐る、三鷹さんは主に声をかけると・・・


「・・・お、桜雨ちゃん・・・」

「梅吉兄さん、私なら大丈夫。

気にならないわけじゃないけど、帰ったら聞けば済むことだもん」

「大人なご意見」

「兄さん、皆を呼んでこないと」


大人な意見を口にしても、そうとう気になってるのは、梅吉さんも桃華ちゃんも分かっているんです。

それでも、『先生』の梅吉さんは、桃華ちゃんに言われて、皆の後を追いました。


「残った人たち、パス練、続けてて」


と、指示を出して行きました。

その指示通り、主と桃華ちゃんはパスの練習をしようとしました。


「気になってるなら、行けばいいじゃない。

余裕ぶってると、盗られるわよ」


大森さんが機嫌の悪い顔で、主達の前に立ちました。

怒っているような顔、初めて見ます。


「盗られるって・・・」


主、ドキドキしています。


「そのままよ。

どんな約束をしたって、盗られる時は一瞬なんだから。

ましてや、生徒と先生でしょう?

今だけの関係じゃないの?」

「言い過ぎ。

今日、変よ」


今にも噛みつきそうな大森さんの頭を、田中さんが大きな手でつかみました。


「何よ、本当の事よ」


大森さんは、頭の上で大きく腕を振って、田中さんの手を払いました。


「『盗る』っていう表現、こういう場面で使うのは、あんまり好きじゃないけれど・・・

盗られたら盗り返すぐらいには、私、水島先生のこと好きよ。」


主がいつもみたいにニッコリ微笑むと、周りが固まりました。


「白川さんて、意外と気が強いよね」

「水島先生、愛されてるじゃん」

「まぁ、あそこまで独占欲丸出しにされてたら、『愛されてる』自信はつくよね」


ちょっとすると、皆はざわつき始めたけれど、主は気にしません。


「さ、皆、東条先生が戻ってくるまで、練習しよう」


そう言って、主は桃華ちゃん相手にパスの練習を始めようとしました。


「そこまで言うなら、行こう!!」


大森さんは、主の手を取ると、強引に引っ張って体育館を出ました。

上履きにも外履きにも履き替えることなく、大森さんは主を引っ張って正門まで走りました。

それを、桃華ちゃんや他のクラスメイトも追いかけたので、体育館はもぬけの殻になりました。



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