その58 恋愛爆弾投下
■その58 恋愛爆弾投下■
色々あった夏休みですが、無事に新学期がスタートしました。
新学期初日もハプニングはありましたけど、僕の主の桜雨ちゃんや従姉妹の桃華ちゃんは、いたって平穏でした。
まぁ、一番の貧乏クジは梅吉さんでしたね。
中間テストや補習、部活の試合、文化祭の準備・・・主達は毎日忙しそうです。
最近、三鷹さんや笠原先生の食事は、桜雨ちゃんと桃華ちゃんが3食作っています。
朝と夜は、白川・東条家で皆で食べて、お昼はお弁当です。
終末だったりすると、そのまま成人男性組はお酒を飲み始めるので、三鷹さんと笠原先生はお泊り率が高いです。
成人男性5人が、ごろ寝ですが・・・
新しく仲間になった子犬の秋君は、三鷹さんと朝食を食べに来たら、三鷹さんが帰宅するまで白川・東条家でお留守番です。
お泊りの日は、双子君達と寝ています。
「それって、実質家族じゃない?」
お昼休みです。
今日は、お天気が良くて風もソヨソヨなので、中庭の大きな樹の下でランチです。
各自1品、おかずを作って持ち寄りです。
「田中さん、イヤな事言わないでよ」
桃花ちゃんが、ものすんごい嫌な顔をしながら、大森さん作『チキンロールの蒸し焼き』を頬張りました。
「やー、これ、すっごく美味しい!!」
途端に、桃花ちゃんの顔がニコニコです。
「ありがとう。
正直、頑張ったわ。
でも、家も目の前だから、部屋がちょっと遠いぐらい、むしろ別棟って感覚じゃない」
「違うわ。
うちは、大家。
水島先生と笠原先生は店子よ」
「店子って何?
あ、カボチャのグラタン、好きな味~」
田中さんの言葉に、桃華ちゃんがキッパリと言いました。
大森さんが、カップに入ったグラタンを食べながら聞きます。
「い、家を借りている人のことですよ。
そのカボチャ、大きいのを丸々一個いただいたんで、消費するのが大変で・・・
実は、あの、カボチャパイも作ったんですけど・・・」
「「「「頂きます」」」」
大森さんの質問に、松橋さんが答えながら、鞄から大きめのタッパーを出しました。
皆さん、お食事が進んでいますね。
「そこまでする大家さん、いつの時代?
もう、『マスオさん』状態じゃない」
「笠原先生が、『マスオさん』かぁ~・・・違和感ないなぁ。
笠原先生も、特に気にしなさそうだしね」
田中さんが突っ込んで、大森さんが納得しました。
主、特に気にすることなく、カボチャグラタンを味わっています。
「ん?笠原先生?なんで?」
僕も、桃花ちゃんに同意。
なんで、笠原先生?
「え?東条さん、笠原先生と付き合ってるんでしょ?」
桃花ちゃんに驚かれて、大森さんも驚きです。
「あら?桃ちゃん、そうだったの?」
「違う違う。
どこからそんな考えが出て来るのよ?」
おっとりと主に聞かれて、桃華ちゃんは慌てて訂正しました。
「水島先生って、色恋に興味なさそう」
そうですね、田中さん。
「噂話、聞きませんもんね」
松橋さん、僕も聞いたことないです。
「えー、違うの?
確かに、水島先生みたいにあからさまな独占欲は出してないけど、なんか、二人とも良い感じだと思うんだけどな」
「違うって。
今まで住んでたアパートが、老朽化で住めなくなったタイミングに、たまたまうちのアパートが空いてたから、引っ越ししてきただけよ。
それに、水島先生と笠原先生から、家賃とは別に、ちゃんと食費も貰ってるわ」
引かない大森さんに、桃華ちゃんが強く出ます。
「いや、成人していれば、同居していたら生活費払うでしょ、実の子でも。
東条先生、そこらへんはちゃんと払ってそうよ」
さすが田中さん、当たりです。
「そうかー、違うのか。
じゃあ、私が狙ってもいい?
東条先生でもいいんだけど。
あ、似てるけど、小暮先生はパスだな。
あの人、なんか・・・腹黒そうなんだもん」
ほうれん草の胡麻和えを食べながら、大森さんがサラッと言いました。
皆、目が点です。
「・・・大森さん、彼氏、いるでしょ?」
ビックリして、桃華ちゃんの味覚が飛びました。
慌ててペットボトルのお茶を飲みます。
「分かれちゃった」
「えー、あんなに仲良かったのにぃ?
ウメちゃん、ビックリ」
いつの間に来たんでしょうか?
ジャージ姿の梅吉さんが桃華ちゃんの後ろから、持ち寄ったおかずを覗き込んでいました。
「でしょでしょ~。
聞いてよウメちゃん!
彼氏ってば『僕が居なくても、君は楽しいんだね』って。
確かに、今年の夏は、なかなか会えなかったけど~。
嫌いになったわけじゃないし、春なんて、向こうの方が忙しくて、1カ月会えないの我慢してたのにさー」
「大森さんだって、忙しいのにね~」
梅吉さんがウンウンと頷きながら、桃華ちゃんのお弁当箱から出汁巻き卵を一つ、つまみ食いしました。
ボソッと、桃華ちゃんが「後で100円」と請求しました。
「そうなの!
私だって、自分のお小遣いは自分で稼いで、それでお洒落を楽しんでるんだもん!
綺麗で可愛い私が好き!って言ってたくせに、バイトばっかりでつまんないって・・・
若くても、この美貌を維持するのと、洋服やアクセサリーにいくらかかると思ってるのよ!」
「貢いでもらってなかったの?」
田中さん、梅吉さんにラップに包んだお握りをお裾分けしました。
「ありがと~。
貢がれた」
笑いながら、口を大きく開けてペロリです。
「ん~・・・何となく、そういうのは嫌だったんだよね。
ウメちゃんは、貢いだの?」
「ん~・・・二人には貢いだかなぁ?
大学の剣道部、いつも赤貧でバイト代を部費に当ててたから、貢ぐってレベルじゃなかった気もするなぁ・・・」
おまけに、カボチャパイも頂きました。
「兄さんは、貢ぐって言うより、貢がれる方だものね」
そんな梅吉さんを、桃華ちゃんは呆れながら見ています。
「梅吉兄さん、顔、いいから~」
とどめに、主の悪気のない、のほほんとした声。
「そうね、顔だけは、良いもんね」
フンと、桃華ちゃんは小馬鹿にしたように笑いました。
「そうね。
やっぱり、笠原先生にする」
ニッコリ笑うと、大森さんは美味しそうに食事を再開しました。
「「「「えー・・・」」」」
「え?何が?」
ビックリして食事が止まってしまった四人と、モリモリ食べている大森さんの温度差を見て、梅吉さんは挙動不審に5人の顔を見比べていました。




