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その5 B組手芸部誕生?


■その5 B組手芸部誕生?■


 皆さんおはようございます。

(おう)()ちゃんの傘の『カエル』です。

そろそろ、中庭の藤棚が満開になりそうで、僕の主の桜雨ちゃんもウキウキしています。

ウキウキしながら、今朝は教室の窓際の一番後ろの席で、従姉妹の桃華ちゃんと、クラスメートのお下げの子と、三人で机を囲んで会話を楽しみながら、何やら編み物をしています。

『鍵編み』という編み方らしいです。

小さなお鼻に大きな眼鏡と、ほっぺに薄っすらソバカスのあるお友達の、松橋(まつはし)有紀(ゆき)ちゃんが一番初めに教えてくれました。


「おはよう、白川さん、東条さん・・・あら、松橋さんも一緒なのね。

って、編み物?クリスマスプレゼントには早くない?」

「おはよ~、朝から頑張るねェ~。

あれ、でもこれ、毛糸じゃないね」


登校してきた他のクラスメート達が、主と桃華ちゃんの傍に来て手元を覗くと、けげんな顔をしました。

それもそのはずで、3人の囲む机の真ん中にあるのは色とりどりの毛糸ではなくて、スズランテープ。

ペットボトルの空き容器を利用して作られたテープカッターのようなものに入れられて、注ぎ口から出ているスズランテープは、編み針で綺麗に編み込まれていきます。

ちなみに、主の編み針が一番太いそうです。


「おはよう、田中さん、大森さん。

これね、私のお父さんが発注を間違えちゃったの」


軽く下がった愛らしい目元を細めて、主はクラスメート達に挨拶をしながらも、手は止めません。

止めませんが、スピードはゆっくりで・・・確実に黄色のスズランテープが編み込まれていきます。


「おはよ~。

昨日、帰ったら、玄関に段ボール3箱分。

桜雨のおじ様、たまにやらかすのよね」


桃華ちゃんの編み針は主の半分の太さで、編んでいくスピードも主より早いです。

しかも、桃華ちゃんは白い花らしきものを作っています。

桃華ちゃん、主より器用なんです。

それでも、松橋さんには敵いません。

松橋さんは一番細い編み針で、スルスルと編み上げていきます。


「まぁ、今回は腐らないものだから、助かったけれどね」

「え?腐る物って何?」


桃華ちゃんの言葉に、田中さんと大森さんはビックリしたようです。


「あ、私の家、花屋なの。

だから、たまに仕入れの量を間違えることがあって・・・」


主は恥ずかしそうに笑いながらも、手は動かしています。

遅いですが、確実・・・


「あら?・・・間違えちゃった?」


たまには、間違えもあります。


「あ、ここは2個ほどいて、こっちに・・・ああ、そうです」


すると、素早く松橋さんが間違えた所を教えてくれました。

松橋さんは、普段はクラス内では目立たないそうです。

まだ新しいクラスに馴染めないのか、集団の中に入るのが苦手なのか、いつも背中を丸めて、肩を中に入れて、存在を消すように小さく小さくなっています。

けれど、主と桃華ちゃんと3人で編み物をしている今は、そんなことはありませんでした。

クラスメートの田中さんと、大森さんが来るまではですが・・・。


「松橋さん、ありがとう」


ニコニコとお礼を言って、主は編むのを再開しました。


「凄いのね、松橋さん。

あ~でも、白川さんに似合う、お花屋さん。

でも、確かにお花は生ものだわ。

そんな時、どうするの?」


主にお礼を言われて、クラスメートに褒められて、松橋さんの耳は一気に赤くなっていましたが、下を向きっぱなしなので、顔は分かりませんでした。


「セールしちゃいます。

枯らしてしまうのは、可哀そうだから。

それに、お客様も喜んでいただけるし」

「うちも、お裾分け頂けて、ラッキーだけどね」

「へぇ~、いいなぁ~」


そうなんです。

主のお父さん意外とおっちょこちょいで、お花屋さんのセールはちょいちょい、あったりするんです。

そんな話をしている間にも、桃華ちゃんの作っていた白い花のモチーフが1つ出来ました。

そして、すぐに次のモチーフ作りに取りかかります。


「あ、うちって言っても、お店の方ね。

私の家、桜雨のご両親のお店の隣で喫茶店だから、いつもお店の雰囲気に合うものをお願いしているの」

「あ、なるほど~」

「で、前に兄さんが視ていた動画で、スズランテープで籠を作っているのがあったのを思い出して、作ってみようと思ったの。

でも、中々上手くできなくて、手芸部の松橋さんならわかるかな?って、昨夜のうちに連絡してお願いしたのよ」

「へぇー。

確かに、上手・・・

ってか、すっごい上手。

松橋さん、プロ?」


田中さんと大森さんは、松橋さんの手元から目を放せなくなり、感嘆の声をあげました。

どんなデザインかはまだハッキリ分からないけれど、主と松橋さんが小さめの籠を作っているのは、僕にも分かります。


「ウメちゃん、そんな女子な動画見てるんだ!」

「でも、違和感ないない~。

見てるだけじゃなくって、作ってそう」


田中さんと大森さんは大ウケです。


「あ、作ってた作ってた。

その時付き合っていた、彼女さんの影響じゃない?」


桃華ちゃんも笑いながら編んでいます。


「違う違う、その時の子は、そんな家庭的な子じゃなかったよ。

大学の文化祭のバザーにだして、売り上げをうちの剣道部の部費にしたのさ。

うちの部、毎年、貧困だから」


そんな桃華ちゃんの後ろから、『ウメちゃん』こと、桃華ちゃんのお兄さんで主の従兄の(うめ)(よし)さんがニュッと覗き込んできました。


「あ、そうか・・・

って、兄さん、なんでいるのよ?」

「おはよう、東条先生」

「あ、ウメちゃん、おはよ~」


突然現れた梅吉さんに驚く桃華ちゃん。

田中さんや大森さんは、嬉しそうに小さく手を振りながら挨拶します。

梅吉さん、見た目が良く優しいので、生徒には人気があります。


「田中さん、大森さん、おはよ~。

いやさ、いつもより2本も早いバスで行くから、何があるんだろうと思ってさ。

作って、どうすんの?」

「小さいのを作って、カーネーションのプチブーケを中に入れれば・・・」

「ああ、母の日か」


梅吉さん、桃華ちゃんのヒントにピンときたようです。


「飽きたら、自分たちのバッグを作ってもいいって、お父さんが」


梅吉さんはザっと、主と桃華ちゃんと松橋さんの手元を見比べて


・・・半分も回収出来れば良し。

って、修二叔父さん割り切ったな。


そう、悟りました。

大当たりです、梅吉さん。


「面白そう、私もやってみていい?」

「あ、私もやりたい」

「もちろん、一緒にやりましょう」


主は、いそいそと編み針の入っているケースを取りだしました。


「松橋さん、私にも教えてくれる?」

「私、マフラーなら編めるよ」

「は、はい」

「好きな色、使ってね」


田中さんは近くの男子から二人分の椅子をうば・・・借りて、主たちの間に座りました。


「んじゃ、俺、ピンク~」


梅吉さんは、桃華さんの後ろからスズランテープを取ろうと手を伸ばしました。


「はい、タイムオーバー。

ホームルームの時間です。

続きは昼休みに。

東条先生、暇ならプリント配ってください。

はぁーい、ホームルームやるから、席ついてー」


その手を取ったのは、担任の笠原先生でした。

いつもと変わらない、ちょっとかったるそうな、ちょっと早口な笠原先生は、持っていたプリントの山を梅吉さんに渡しました。

クラスメートは、自分の席に着き始めました。


「昼休み、まぜてね」

「私も~」


田中さんと大森さんはそう言って、自分の席に向かいました。


「松橋さん、昼休みも教えてくれる?」

「私も、お願いします」

「・・・う、うん」


編みかけの物を鞄にしまい、自分の席に戻ろうとした松橋さんに、主と桃華ちゃんがお願いすると、松橋さんははにかみながら頷いてくれました。

 そして一カ月の間ぐらい、朝のホームルーム前、昼休み、午後のホームルーム前は、クラスの女子全員と、半分ほどの男子、それとたまに近藤先輩と三鷹さんがクラスの端っこで、スズランテープを編み編みしている姿が見られました。

主が持って来たスズランテープが終わっても、各自で買ってきていました。


「B組手芸部の顧問は、担任の私かな。

副顧問は・・・東条先生と水島先生でいいか。

部長は松橋有紀・・・っと」


そんなクラスを見て、笠原先生は部活の登録をしました。

そして、秋にはスズランテープから毛糸に変わり、編み物、縫物と、参加する人数や顔ぶれはその都度変わったけれど、卒業まで『B組手芸部』は続きました。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 私の通ってた学校にも手芸部あったら、面白そうだなぁと思いながら読ませて頂きましたଘ(੭ˊ꒳ˋ)੭✧
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