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おまけの話97 敷かれたレールから外れて君と歩く道38

■おまけの話97 敷かれたレールから外れて君と歩く道38■


 不意に目が覚めたら、規則正しい鼓動が聞こえて、大きな腕に抱きしめられていた。

私なんかより、勇一さんの方が怪我もしているし体もしんどいはずなのに、大きな体を出来るだけ縦にしてベッドの殆どを私に使わせてくれていた。


起きたら、体中がバキバキ鳴るだろうな…

そもそも勇一様の背中まで、お布団かかってないんじゃないかな?


 そう思って、勇一さんのスペースを少しでも広げようと体を少し動かしたら、私を抱きしめている腕に力がこもった。


「寒いか?」

「起こしちゃいましたか?

私は寒くないですよ。

勇一様がしっかり温めてくれているので。

でも、勇一様は寒いんじゃないですか? お背中までお布団かかっていないですよね?」


 言いながら勇一さんの背中に手を回そうとすると、私の髪や首筋に鼻先を埋めて来た。

まるで、動物が甘えているみたいに。


「ミヨがいれば、温かい。

ミヨが居れば、それだけでいい」


ああ、そうか…

勇一様は怖かったんだ。

美和ちゃんや美和ちゃんのお父さんが血だらけになって、家に火がつけられて…

誰かが死ぬかもしれない、私を失うかもしれないって、怖かったんだ。


「勇一様、ミヨは勇一様とずっと一緒ですよ。

黙ってどこにも行かないし、勇一様を1人になんかしませんから」


 そして、不安なんだ。

私が居なくなるのが。


 勇一さんの頭を抱きしめて、悪夢を見て泣く子どもを(なだ)めるように、ヨシヨシと撫でた。


「ミヨにも、勇一様しか居ないんですから」


私も、勇一様が居なくなるのは不安だし、怖い。

当たり前の様に、私を包み込んでくれるこの鼓動と熱が無くなってしまったら… 


「… ミヨは、大丈夫だ。

俺が居なくなっても、きちんと自分の足で立っていられる。

生きて行ける。

ミヨは、強い」


 勇一さんにそう言われて、驚いた。

自分が強いだなんて思った事は一度も無かったし、今までも誰かに助けてもらわなければ何も出来ないでいたから。


「私は、強くはありません。

皆さんに助けて頂いて、やっと今までやって来れたんです。

強いのは、勇一様や修二様、女中仲間やコージさん達です」

「ミヨは、皆を動かす力がある。

それがミヨの強さで、魅力だ。

だから、俺が居なくても…」


俺が居なくても…


「なんで、そんな事を言うんですか?!」


 勇一さんの言葉に、私は思わず勇一さんの体を思いっきり押した。

ビクともしなかったけれど、勇一さんは驚いて私を見た。

 私はゆっくり体を起こすと、つられるようにして勇一さんも上半身を起こして、向き合うように座った。


 病室は数人の寝息しか、音が無かった。

明りは間仕切り用のカーテンが引いてあるから、窓からの月明かりだけ。

とても狭い空間に、2人きりだった。


「俺が居なくても… なんて、なんで言うんですか?

その言葉はまるで、勇一様がどっかに行っちゃうみたいじゃないですか!

散々、『どこにも行くな』って私におっしゃったのは、勇一様でしょう?!」


病室だから…

夜だから…

皆、寝ているから…


 と頭の端にはあったから、声こそ押さえていた。

けれど、言葉にしてしまうと、なぜだか悲しくて悔しくて情けなくなって涙が溢れて来て、勇一さんの胸元をドンドンと叩いた。


「ミヨ…」


 この時の私には、勇一さんがなぜそんなことを言ったのか、全然分からなかった。

想像も出来なかった。

だから、自分の気持ちをぶつけた。


「私は、勇一様と一緒が良いんです。

今私が選ぶのは、一番大切だった家族でも、私を大切にしてくれた仲間でもないです。

勇一様です。

私も、勇一様が居てくれればそれでいいんです!」

「ミヨ…」


 大人になった今なら分かる。

この時の勇一さんは、私の安全を一番に考えてくれていたんだと。

私を安全な場所に戻すために、手放そうとしたくれたんだと。


「ミヨを、手放さないでください」


 筋張った指先が、優しく涙を拭いてくれた。

それでもポロポロと零れる涙を、勇一さんはペロっと舐めとった。

涙は止まらない。

大きな両手が私の両頬を包む。

額に、目元に、頬に… 勇一さんの唇が優しく触れていく。


「ミヨは、勇一様だけのものです」


 初めて、自分から勇一さんの唇に触れた。

吸い込まれるように、自分の唇を重ねた。

少し薄くて、けれど熱い感触。

それは直ぐに私の唇に甘く噛みついて、その跡を労わる様に熱い舌先が撫でた。


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