おまけの話96 敷かれたレールから外れて君と歩く道37
■おまけの話96 敷かれたレールから外れて君と歩く道37■
私が時蔵さん家のお風呂で、ホッ… としていた時。
外では、異常なまでの嗅覚で私達の居場所を探し出したマリさんが襲来していた。
連れて来た黒いスーツ姿の数人の男の人と、時蔵さんと美和ちゃんのお父さんと、激しい口論をしていた。
私が鼻歌混じりに、温かなお湯を堪能していた時。
いつもと何ら変わりのないマリさんが、美和ちゃんのお父さんを大きめのナイフで刺した。
2発目は、社から駆けつけた美和ちゃんが庇って、背中を大きく切り裂かれた。
時蔵さんが慌てて家に入って来て、救急車に電話をしている声で、私はようやく何かが起きていると気が付いた。
時間が刻一刻と進むにつれて、状況は悪化した。
サヨさんと美和ちゃんのお母さんと、裏口から逃げようとしていた時。
表ではマリさんがナイフを振り回していたらしい。
それを止めていたのは黒いスーツの人達。
ナイフを取り上げられたマリさんは、隠し持っていた爆薬に火を付けて、家に投げ込んだらしい。
そこに、引っ越し先を見に行っていたコージさんと修二君が戻って来て…
「いやぁ… 文字通り、血の海だったよ」
病室の窓際のベッドで目が覚めると、疲労困憊を絵に描いた様なコージさんが足元に座っていた。
「私達の方は、火の海だったわね」
私のお向かいのベッドでは、サヨさんがモリモリとミカンを食べていて、私にもお裾分けしてくれた。
私の隣には美和ちゃんが、その向こう側には美和ちゃんのお父さんが寝ていた。
サヨさんの隣には時蔵さんが寝ていて、6人部屋の病室は私達で貸し切り状態だった。
「美和ちゃんのお父さんと、美和ちゃんの怪我もそうだけれどさ、シュウジが切れちゃってさ。
分かるでしょ?
もうね、見境なく暴れててさ、傷口押さえて止血してる黒スーツの奴らの顔面まで殴っちゃうんだもん。
でも… 初めてじゃないかな? シュウジが女の子に手を上げたの」
その光景は、手に取る様に分かる。
正直、その場に居なくて良かったと思う。
「でも、皆、助かってよかったです」
私とサヨさんは、少し煙を吸ってしまったのと、手と顔に軽く火傷をしたぐらいで済んだ。
「時蔵さんは、爆風で吹っ飛ばされたんだけど、足首の骨折で済んだし。
ミワちゃんとお父さんは、傷の深さの割には出血が少なかったって言われたし… まぁ、「傷の深さの割には」ってだけで、後10分救急車の到着が遅かったら危なかったらしいけれど」
美和ちゃんと美和ちゃんのお父さんには、点滴が刺さっていた。
少し身を乗り出して美和ちゃんを見ると、その幼い顔はいつもより血の気が無くて白い。
「きっと、巫女神様が護ってくださったんですよ」
「… 神様は、もっと助けてあげたかったって、落ち込んでるよ」
コージさんは美和ちゃんの頭上を見つめて、軽く溜息をついた。
巫女神様、付いて来てるんだ…。
神様も落ち込むなんて、なんだか人間臭いわ。
「ミヨ!!」
その時、勇一さんが病室のドアを開けて、駆け寄って来た。
「勇一様、お怪我されたんですか?
痛みます? 大丈夫ですか?」
駆け寄って来て、足はベッド際で止まったけれど、思いっきり私を抱きしめてくれた。
チラッと見えた両手は、真っ白な包帯が巻かれていた気がする。
ギュって、頭からスッポリ抱きしめられたから、身動きが取れない。
勇一様、心臓の音がいつもより早い。
「大したことない」
「そうそう、たいしたことないよ~。
マリさんとシュウジの間に入って、軽くナイフで切り刻まれた上に、火傷したぐらいだから」
コージさん、それ、全然たいしたことなくはない。
「ちなみに、シュウジは見境なさ過ぎて自損の怪我が5割。
後は、マリさんとの格闘と火傷だな」
コージさんの説明を聞いて、マリさんはどれだけ強いんだろう? と、素直に思った。
そのマリさんが今どうしているのか… コージさんがあえて言わないから、私も今は聞くのを止めた。
マリさんより、勇一様の方が大事だもの。
お怪我もだけれど、精神的な事も…
「勇一様、私、ちゃんと勇一様のお顔が見たいんですけれど」
そう言うと、勇一さんはそっと私から放れて、ようやくベッド横のイスに腰を落ち着かせた。
手は確り握られている。
「修二様~、美和ちゃん点滴していますから、管、引っ搔けない様に気を付けてくださいよ」
勇一さんのお顔を見るより先に、美和ちゃんのベッドに潜り込む修二君が目に入った。
美和ちゃんのお父さんの目が覚めたら、速攻で点滴台で殴られるよね、あれ。
「ん? 勇一様、どうしたんですか?」
そんな修二君を真似してか、先に修二君に声をかけたから焼きもちをやいたのか… 勇一さんも私のベッドに入って来た。
「疲れた、寝る」
それだけ言うと、勇一さんは大きな体の左側を下にしてベッドに寝転がると、私に向けて右腕を上げた。
コージさんとサヨさんが見ているのに… と思っていたら、コージさんはサヨさんのベッド横にさっさと移動して、間仕切り用のカーテンを引いてしまった。
そんなコージさんの配慮に甘えて、私は勇一さんの腕の中にコロンと体を滑り込ませた。
ベッドは大きくないから、勇一さんと身を寄せ合って、お互いの体温と鼓動を感じ合う。
いつもと変わらない… と、ホッとしていたけれど
「勇一様… 珈琲の香りが消えちゃったみたい。
少し、物足りないです」
いつもと違う事に気が付いてしまった。
その言葉を聞いて、私の背中をゆっくりと撫でてくれた大きな手が、ピタッと止まってしまった。
「落ち着いたら、ミヨに珈琲を淹れてくださいね。
あ、チョコレートも付けてください。
一緒に飲みながら、読書しましょうね」
厚い胸元に頬を寄せて、その鼓動をシャツ越しに聞きながら呟く。
珈琲の香りがしないからか、いつもより男性らしい香り? を強く感じて… 慣れたはずの勇一さんの腕の中が、初めての頃の様に恥ずかしさを感じていた。
そんな私の額や頬に、勇一さんは優しく唇で触れてくれた。
何度も何度も…
その感触がとても気持ちが良くて、いつの間にか私は眠ってしまった。




