その43 大人たちの反省会
■その43 大人たちの反省会■
皆さん、こんばんは。
『シスコン教師』こと、皆の『お兄ちゃん先生』、東条梅吉です。
夏休みも残すところあと2週間ほど。
明日から3日間、校舎内の業者清掃が入るので、教員の夏休みもかねて、登校禁止。
なので、深酒は今夜がチャンス!とばかりに、竹ちゃんのお店で呑んでます。
そう、職場の『春の歓迎会』の会場になったお店。
職場の先生達からの弁償金で、店内は少し綺麗になってた。
まぁ、俺らはいつも通りの個室だから、あんまり関係ないけれどね。
今夜の呑みのメンバーは、俺、笠原、三鷹、坂本先輩の4人。
正確には・・・部活から帰宅したところを、先輩に拉致られました。
「・・・そういう訳で、私、教えるわよ。
学校側は、問題あるかしら?」
俺の隣に三鷹、前に坂本先輩、斜め前に笠原の席。
三鷹以外、生の中ジョッキで喉を潤して、竹ちゃんが適当に持って来てくれる料理をチビチビ。
三鷹は、冷酒をチビチビ。
坂本先輩、たまたま桃華達が絡まれている所に居合わせて、助けてくれたらしく、成り行きで、文化祭のクラス出し物『ファッションショー』のメイク指導をしてくれるらしい。
先輩、耳が隠れるぐらいの黒いショートカットに、切れ長の瞳とスクエアー型の眼鏡。
長身細身で柔らかい物腰で、モデルも出来るほど綺麗な顔立ちで、男女問わず学生時代からよくモテる。
でも本人、意外と目立つのが嫌いなんだよね。
「いや、ありませんよ。
うちの校長、身元ハッキリしていれば、そういうところ煩くないので。
・・・時と場合によっては、それもどうかと思いますがね。
校内に入る際には、私の名前を使っていただいて結構ですよ。
梅吉や三鷹でも大丈夫ですけど、一応、私が担任で顧問なので」
笠原、話しながらも、早くも生の中ジョッキ2杯目。
「OKOK~。
日程や時間は、大森さんと直に連絡とり合うわね」
「え?先輩、大森とLINE交換したんですか?」
「変ことには使わないから、安心なさいよ。
それとも、私が信用できないかしら?」
俺の質問に、坂本先輩はLINEを見せてくれた。
「いや、信用してますよ、もちろん」
まだ、挨拶のスタンプだけだ。
まぁ、坂本先輩だから、大丈夫だろうけど。
「でね、聞いたんだけど・・・
三鷹ちゃん、何?その痛んだ髪は!!」
あ、やっぱそれ?
それが本題?
坂本先輩は、斜め前に座って、マイペースで呑んでいる三鷹に、身を乗り出した。
乗り出したついでに、頼んでいた刺身盛り合わせが来て、受け取ってくれた。
「火事で」
「聞いたわよ!
桃華ちゃんが怒りながら、教えてくれたわよ。
私が言いたいのは、何で、直ぐに、私の所に、来なかったのかっ!!!ってことよ!」
「・・・安心させていた」
いや、本当に、言葉少なすぎ。
よく、教員出来るな、コイツ。
その代わり、よく呑む。
水じゃないんだってば・・・
「桜雨がね、言葉には出さないんですけど、そうとう心配しちゃって、ちょいちょい所在確認してたんですよ」
身を乗り出したままの先輩を押さえて、俺が補足説明。
あの日、三鷹が火事の煙を吸って、病院に運び込まれたと連絡を受けて、駆け付けたはいいけれど・・・
「何も言わないからですよ、お互い。
三鷹も白川も、何も言わない。
代わりに、東条妹が二人分話して、二人分泣いていた」
笠原が話ながら、ついでにビールのお代わりをお願いしてくれた。
まぁ、そういう子達なんですよ、うちの妹二人は。
「視界の隅にでも入っていれば、落ち着くみたいで・・・
ようやく一昨日、部活に行きましたね。
久しぶりに部活行って、時間忘れるぐらい熱中して、文化祭の出し物、作ったみたいだけれど。
何か、話した?」
美術部の顧問から電話があって、車で迎えに行ったのはいいけれど、力尽きた桜雨を着替えさせるのはさすがに出来ないから、桃華を起こしてたな。
「いや、特に」
話してないんかい!
「話せ」
俺の心の突っ込みと、笠原の突っ込みは同時だった。




