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おまけの話95 敷かれたレールから外れて君と歩く道36

■おまけの話95 敷かれたレールから外れて君と歩く道36■


 美世です。

少しだけ、ホッとしていました。

お屋敷から逃げ出して、追っても来なくて丸一日経っていたし、サヨさんの張ったお腹も落ち着いたようだったから。


 あの日…

新居の下見で、コージさんと修二君は早朝にバイクで出掛けていた。

私と勇一さんはサヨさんの様子を見ながら、美和ちゃんのお母さんと、家の掃除等を。

美和ちゃんのお父さんは、私達を快く受け入れてくれた時蔵さんを手伝って、家の周りや隣のお(やしろ)を掃除していた。

美和ちゃんは、そんなお父さんと時蔵さんのお手伝い。


 いつもと変わらない時間だった。

夕飯後の、あの時までは。



「救急車! 救急車!」


 お風呂に入っていた時に、外で騒ぐ人が居るなぁ… と、何だか気持ちがざわざわしていたら、(とき)(ぞう)さんの慌てた声が聞こえた。

狭い脱衣所を挟んでいても聞こえたその声は、とても大きく、とても慌てていたから、私も慌ててお風呂から上がった。

髪も身体もササッと拭いただけで、慌てて服に袖を通していたら、真っ青な顔をした勇一さんが脱衣所の戸を開けて叫んだ。


「裏から(やしろ)へ!」


 それは、万が一があったときのために、皆で話し合っていた逃げ場所だった。

私は外の騒ぎも気になったけれど、そっちには勇一さんが走っていったので、私はサヨさんの方へ…


「はい、はい…

いんや、血がたくさん出ていて…

一人は40代の男性。

一人は小学生の女の子でして…」


 玄関脇の黒電話で、時蔵さんが話している声が聞こえた瞬間、全身の毛が総毛立った。


今… 小学生の女の子って言った?


「美世さん、早く!」

「… はい!」


いや、大丈夫。

勇一さんが向かったんだもの、大丈夫。

きっと、大したことない。

私は、私の役割をこなさなきゃ…


 時蔵さんの家は、そんなに大きくはない。

一瞬、止まった私を呼ぶ声がした。

薄い戸を挟んで美和ちゃんのお母さんに呼ばれて、自分に言い聞かせながら戸を開ける。

寝付いた子どもをオンブして、サヨさんの体を支えながら立たせようとしている美和ちゃんのお母さん。

大きなお腹を庇いながら立ち上がったサヨさんに、私は近くにあった半纏をかけて、空いていた左側を支えた。


居ない… やっぱり、美和ちゃんが居ない!


ボン!


 玄関先で爆発音がした。

私達は悲鳴を上げて、身を寄せ合った。


ボン! ボン! 


「修二様かしら?」

「うちの人かも」

「時蔵さんは?!

美和ちゃんは?!」


 2回、3回と響いた爆発音に驚きはしたけれど、いつまでも怖がっているわけではない。

修二君のおかげかな。

 電話をしていた時蔵さんを振り返ったけれど、散乱した荷物や、一部落ちてきた天井で、玄関の方はハッキリと見えなかった。


「美和は外に…」


 外…

嫌な予感しかしなかったけれど、今、この家の中にいるより安全と思うことにした。

りあえず、体制を立て直して、ドアから逃げようと…


「開かない」


 鍵を開けたのに、ドアはビクともしなかった。

引っ張っても押しても、横に動かそうとしても、びくともしない。


「爆破でお家がひしゃげて、開かないのかしら?」


 美和ちゃんのお母さんの、言うとおりだったのだと思う。

玄関の方は少なからず崩れているし、ザッと周りを見渡すと、全体的に偏っているし、アチラコチラにヒビが入り始めていた。


「この家、潰れるんじゃない!?」


 サヨさんの言葉に、ゾッとした。

けれど、同時に『どう暴れてもいい』と、腹も括れた。


「縁側から出ましょう」


 とりあえず、第二の避難口… は、そちら側から火の手が見えた。


「サヨさん、少しだけ放れますね」


 私は支えていたサヨさんから放れると、目の前の拉げたドアに体当たりを始めた。

男の人ならともかく、私なんかの体当たりでドアが開くか分からなかったけれど。

それでも、古い家と数回の爆破、火の手が上がっていることもあってか、家は大きく揺れ始めた。


「このまま、屋根落ちてきたりしないよね?」

「サヨさ〜ん、私もそれ思った」


 それぐらい、家中がミシミシ鳴り始めてるし、パラパラ埃やゴミが落ち始めてきた。


「一か八か… 思いっきり、行きます!」


 ここで躊躇していても、煙にまかれてしまうのが一番早い。

家の気密性が低いおかげで、空気の流れはあるからまだ助かっているけれど、それも時間の問題だ。

だから、最後の一発! と、思いっきりドアに体当たりしようと構えたら


「下がれ!」


 ライダースーツ姿のコージさんが飛び込んできて、ドアを思いっきり蹴った。

その勢いはドアどころか、周りの壁もぶち抜いた。


「「さすが!」」

「ハイハイ、お褒めの言葉は後でいくらでも聞くから。

今は逃げる逃げる」


 私とサヨさんの喜ぶ声を、コージさんは片手を上げて止めた。

そして、素早くサヨさんを抱きかかえて、開いた穴から抜け出した。

続くようにして、美和ちゃんのお母さんと私が出ると、家は直ぐに崩れ落ちてしまった。

その家の残骸は、直ぐに火が回った。

まさしく、間一髪だった。




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