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おまけの話93 敷かれたレールから外れて君と歩く道34

■おまけの話93 敷かれたレールから外れて君と歩く道34■


 美和です。

 真冬のお空はとっても澄んでいて、お月様やお星さまが宝石の様に見えます。

外はとっても寒いけれど、コートやマフラーで防寒をしていれば大丈夫!

古ぼけた小さなお社の扉をあけて、ご神体の鏡があった所に膝を立てて座る私の腕の中には、古ぼけた丸い鏡。

もちろん、このお社のご神体。

それを夜空に向けて、一緒に星空観賞…。


「巫女神様、金平糖みたいですね~」


 私の腕の中にはご神体、右側には巫女姿の神様がいる。


「琥珀糖やもしれぬぞ」

「あ! 琥珀糖もいいですね。

美世さんかサヨさん、作り方知っているかな?」


 この頃の私は、『ご飯』は一通り作れるようになっていたけれど、『お菓子』を作るのはまだまだ苦手で、美世さんやサヨさんの時間がある時に、少しずつ教わっていた。

ちなみに、この頃一番得意だったお菓子は『大根餅』の要領で作る『カボチャ餅』『さつま芋餅』。

妹も一緒に食べれるし、お父さんや修二君もお仕事のオヤツに持っていけるから、好評だった。


「サヨはお菓子が好きだからな、知っているのではないか?」

「あ、ダメです。

サヨさんはもうすぐ、お母さんになるんだからゆっくりしててもらわなきゃ。

お屋敷で頑張り過ぎちゃったんですから、産まれるまでは私と美世さんが頑張るんです!」


 サヨさんが『お屋敷で頑張り過ぎちゃった』のは、2日前。

勇一さんと美世さんの強制お見合いから2人を奪還するために、皆で作戦を立てて実行したんだけれど…


「あの阿保(あほ)が、悪いのだろう?

火薬の量を、間違えたと聞いたぞ」


 巫女神様の言う通りで… 

勇一さんと美世さんが逃げ出しやすいように騒ぎを起こす手筈だったので、修二さんがお得意の自作爆弾を使ったんだけれど、火薬の量をちゃんと計算していなかったみたい。

予想以上に勢いよく上がった火柱に、近くでスタンバイしていたサヨさんも驚いて、大きな消火器を3本、一気に運んで他の女中さん達と消火活動したらしい。

自分が妊婦だというのを忘れて。


「修二君、コージさんにメチャクチャ怒られていましたよ」

「ぬしらは、本当にいつも賑やかじゃな。

最近、この社も騒がしくてかなわん」


… そういえば、巫女神様はいつからここに居るんだろう?

お社もご神体の鏡も、随分と年季が入っているよね。


「巫女神様は、賑やかなのはお嫌いですか?」


 私はコートのポケットからハンカチを出すと、ご神体の鏡を優しく拭き始めた。


「… ぬし達の賑やかな声は、楽しいな。

あの阿保も、やることはいい加減で乱暴だが、奉納舞は見事なものだしな。

引っ越ししてしまったら、寂しくなるな」

「私も、巫女神様と放れるの、寂しいです」


 私達は、この町を出ることにした。

それは、勇一さんと美世さんだけじゃなく、修二さんにもお見合い話が持ち上がっていたから。

『東条』を捨てて、3人を知らない人達の町で生活をしよう。

ただ、まだ美世さんも修二さんも学生なので、私の家族も一緒に生活をしようと… 皆でそう決めた。

決めたのは、お屋敷に奪還しに行く前だから、勇一さんと美世さんは決定事項を聞かされただけなんだけれど。


「明日、立つのか?」

「サヨさんのお腹、だいぶ落ち着いたから」



 本当は、奪還した夜に、サヨさんとコージさんを拾ってそのまま町を出るつもりだったんだけれど、サヨさんのお腹が張っちゃうし、調子も悪そうだったし、なにより、マリさんが勇一さんを探して町を徘徊していたから、怖くてその夜は止めてしまった。


マリさん、勇一さんと結婚する気満々みたいで… 車が赤信号で止まる度に、どこからか現れて目の前の横断歩道を渡って行くんだよね。

分身して探しているとしか、思えなかったなぁ…

あの光景は、本当に怖かった。


「いつまでも、時蔵さんのお家に居たら、お邪魔だし」


 何とかマリさんを撒いたと分かったのは、巫女神様の鳥居の前だった。

コージさんの実家やお家も、『東条』の誰かが見ているかもしれないからと、時蔵さんのお家に入れさせてもらいました。

時蔵さんは84歳のおじいさん。

好意で巫女神様のお社を手入れしてくれている、お隣さんです。


「時蔵は、いつも良くしてくれる。

本人は、読み書き算盤はとんとできない、信仰の何たるかも知らない、ただの爺だというがな。

口数は少ないが、心の美しい者だ」


 巫女神様の言葉に、私は大きく頷いた。


「時蔵さん、お家で咲いたお花、たまにくれるんです。

とっても綺麗で、いつもお家の玄関やちゃぶ台に飾るんですけど、お家の中がすっごく明るくなるんですよ。

1輪や2輪だけど」

「時蔵も、寂しいだろうに…」


 巫女神様が呟いた時、その話題の時蔵さんのお家の方から、大きな声が聞こえた。

誰かが争っている、そんな声だった。



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