おまけの話92 敷かれたレールから外れて君と歩く道33
■おまけの話92 敷かれたレールから外れて君と歩く道33■
お屋敷から商店街の入り口まで、大人になった今なら何分かかるだろう?
小学校時代から9年間、歩き続けていたこの頃の私の足では、20分程はかかっていた。
そこを、両手にボストンバッグを持った勇一さんと、女中姿の美和ちゃんをオンブした修二君と、皆で走った。
等間隔の電柱の上に付いている街灯は、たまにチカチカと明かりが不安定な物もあって、それが私の不安を煽ったりもした。
遠くなるお屋敷の上空は、立ち上がった炎で一時は煌々と明るかったけれど、それもすぐに消えて、今ではスッ と真っ白な煙が数本上がっていた。
「大丈夫だって、ミヨ。
屋敷にはコージさんとサヨが残ってるから、上手くやってくれてるって」
チラチラ後ろを振り返る私に、修二君が気にすんな~ と笑って言う。
「気にならなくなはいよ〜。
私でさえ、あのお屋敷にいっぱい想い出があるんだもん。
美世さんはもっとだよね?」
修二君の背中で揺られながら、美和ちゃんも心配そうに後ろを、お屋敷の方を見ていた。
美和ちゃんの言うとおりだった。
いつの間にか、あのお屋敷は生まれ育った生家より長い時間を暮らしていた。
想い出は、たくさんある。
その全てが良い想い出ではないけれど、嫌な想い出も沢山あるけれど… お屋敷が無くなってしまうのは嫌だった。
それに•••
「サヨさん、お腹大きいんですよ?!」
「だから、屋敷に居たほうが皆が守ってくれるし、コージさんも一緒じゃん。
俺らと一緒に走るよりは安全だって」
お屋敷に、サヨさんが残っているはずだった。
勇一さんと私を蔵に隠してくれた後、どこに行ったのか…
「そうですけれど~」
「爆破だって、屋敷の一部をぶっ飛ばしたぐらいだって。
騒ぎ起こさなきゃ、逃げるのもっと大変だったろう?!」
「••• はい」
悔しいけれど、この時は修二君の言うとおりだった。
「あ、誰か走っ来る。
サヨさんかな?」
美和ちゃんの言葉に、皆で後ろを振り向いて街灯の光の下を通る姿を確認しようと、目を凝らした。
たしったしったしっ…
不気味な足音が聞こえた。
迫って来るシルエットは、嫌な程見覚えがあって…
「「「「!!」」」」
100メートル後ろ。
そのシルエットが街灯の下にきた瞬間、私達は声を出さずに悲鳴を上げて、一気に走り出した。
今までの哀愁は一気に吹っ飛んで、とりあえず走った。
「オイオイオイオイ、どこまで走るんだよ?」
それは、思わず目的の車を通りこす勢いで…
運転席の窓を開けて様子を窺っていた美和ちゃんのお父さんが、慌てて私達に声をかけてくれた。
汚れた白のワゴン車。
同時に、車の後ろのドアを中から開けて貰えたので、一気に車に乗り込んで勢いよくドアを閉めた。
「おっちゃん、しばらくそのまま」
「お、おう…」
なだれ込む様にして入ったから、4人ともバランスの悪い体勢で、息を殺してジッとしていた。
美和ちゃんのお父さんは修二君の勢いに押されて、今までのように運転席で外を見ていた。
助手席には、寝ている赤ちゃんを抱いた美和ちゃんのお母さん。
「~様ぁ? 勇一様~? どこ行っちゃいましたぁ~?」
たしったしったしったしっ…
間延びした声で勇一さんの名前を呼びながら、マリさんがリズミカルに走って来た。
「勇一様~」
マリさんは車に気が付くことなく、そのまま夜の商店街へと入って行った。
「なんだ? あれ? 妖怪?」
足音と声が聞こえなくなると、私達は一気に止めていた呼吸を吐き出して、体中の力を抜いた。
「そう、妖怪妖怪。
おっちゃん、妖怪の姿が無いなら、車出して~」
「おう、んじゃま、行くか」
修二君と美和ちゃんのお父さんで算段が付いているようで、私が挨拶するよりも早く、車は走り出した。
もっとも、私と美和ちゃんは椅子にちゃんと座っても居なかったし、何より呼吸を整えるので忙しかった。




