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おまけの話86 敷かれたレールから外れて君と歩く道27

■おまけの話86 敷かれたレールから外れて君と歩く道27■


「可愛い子を近くで見て、何が悪い!

そもそも、シュウジの後始末、大変だったんだからな!」


 顔の右側は修二さん、左側をお父さんに引っ張られたコ―ジさんは、犬がやるように体全体を震わせて、その手を取った。

二人はズリズリと縁側に上がってきた。


「後始末?」

「いつも通りよ。

美和ちゃん確保したら、隠し持ってた火薬で、あっちこっちふっ飛ばしただけ」


 嫌な予感がした。

美世さんを見ると、美世さんはニコニコしながら答えてくれた。


「あれ、いつもの火薬じゃないだろう?

仕事場の、持って来たろう?」

「最初の爆破は、自作。

後のは、おっちゃんの車に乗ってたやつ」


 お父さんに突っ込まれて、修二さんは得意げに笑った。


「… そんな危ないもの、車につんでるんです?」

「いや、うちの美和ちゃんを拐った奴に、ちょっとお仕置きしようとしてな」

「「ちょっと」で、団地が丸々潰れました―。

まぁ、解体費用は浮きましたけど、発破解体の届け出してないから、警察にメチャクチャ怒られましたよね!」


あ、後始末ってそれか〜。

今回は、随分派手だったんだな〜。


 なんて、呑気に思っていたら、サヨさんの悲鳴が聞こえた。


「きゃー!

縁側、ビチョビチョのドロドロ!!

修二様も白川さんも、お風呂に入ってください」


 サヨさんの両手はお盆を持っていたから、足で修二さんとお父さんを、交互にゲシゲシ蹴った。


「おまっ!

サヨ、足クセ悪い!」

「女中が取る態度か?!」

「あら、大変失礼いたしました。

女中の私めなんかに足蹴にされるのがお嫌でしたら、サッサとお風呂にどうぞ」


 サヨさんに蹴られながら、修二さんとお父さんは渋々腰を上げた。


「まぁ、そっちの後始末はペコペコ頭下げてればいいからさ、うちの親父様が。

問題は、ユウイチとシュウジが使えるって本家や分家の一部に分かっちゃった事なんだよね」


 コ―ジさんの言葉に、修二さんとお父さんの動きが止まった。


「もしかして… 」

「メンドクセ―」


 美世さんが不安げな声に、修二さんの本当に面倒臭そうな声が重なった。

私達に背中を向けているけれど、その不機嫌さは雰囲気で分かった。


きっとまた、いつも以上に目が吊り上がってるんだろうな〜


「本家とか分家とか、メンドクセ―。

俺のこと、お荷物にしか思ってない奴らに、俺の人生に口出されたくね―」


 修二さんの本心だと分かった。

このときの私は、まだ人生を語るには若すぎたけれど、それでも修二さんの事だけは確りと見てきていたから•••

だから、スルンと口から言葉が出た。


「じゃあ、『東条』でなくなっちゃえばいいんじゃない?」


 皆の視線が私に集まった。

その顔は『鳩が豆鉄砲食らったような顔』って、こういう顔?

皆、目が真ん丸。

修二さんの目も、あんなに丸くなったのは初めて見た。


「いやいや美和ちゃん、どうやって…」


 そんな中で口を開いたのはコ―ジさん。


「私のお婿さんになってくれたら、修二君は『東条』じゃなくて『白川』になるでしょう?

今だって一緒に住んでるから、名字が変わるだけだけど。

お婿さんになっちゃえば『東条』のお家から、拔けるんでしょう?」


 それは、この時の私の素直な気持ちだった。

修二さんがたまに話す『お家の事』は、勇一さんと美世さんとサヨやコ―ジさん達の事ばかり。

お父さんとお母さんのお話は、聞いたことがなかった。


「いやいや、美和ちゃん美和ちゃん、そうだけど、お婿さんって意味、分かってる?」


 お父さんがオロオロしながら私の前に座り込んで、大きな体を極力縮めて、アセアセしている。


「お父さん、私、もう4年生だよ~。

お婿さんの意味ぐらい、分かるよ」

「でもな、お婿さんってことはな、つまりだな、そのな…」


 アセアセしているお父さんとは正反対に、私はニコニコしながら答えた。


「ミワちゃん、シュウジと結婚しちゃっていいの?

こんな、暴れるしか能のないバカと?!」


 コ―ジさんが、お父さんが言い出しにくくてモゴモゴさせていた言葉を、ズバッと出した。


「うるせえ、コ―ジ!

黙ってろ!!」


 お父さんは『結婚』の言葉に過剰反応を示して、ドスの利いた声でコ―ジさんを睨みつけた。

まぁ、コ―ジさんは慣れてるらしくて、あまり気にしてないみたいだけれど。


「お父さん!」

「はい!」


 私がピシっ! とお父さんを呼ぶと、お父さんも背筋をピシっと伸ばして、私の方を向いた。


「修二君は、私を助けてくれる王子様なんだから。

相手が人間だってお化けだって、修二君は助けてくれるんだよ!

お父さんと同じぐらい、私を大切にしてくれてるんだよ。

女の子にとって、これ以上ない幸せだと思うんだけど?」

「でもな、でもな、美和ちゃん… けっけっ… なんてしなくても、養子縁組とか」


 今思うと、ちょっと可愛そうだったかな? と、思わなくもない。


「美和ちゃん!」


 そんなタジタジアセアセしているお父さんを押しのけて、修二さんが私の前に正座して両手を握ってきた。


「私に良いことしかないんだけど、それでもお婿さんにきてくれますか?」

「俺は、美和ちゃんが大好きで大好きで、一番大好きだから。

美和ちゃんと一緒に居られるなら、なんだっていい!」


 修二さんは、鼻声で言いながら私を抱きしめてくれた。

それは、いつもみたいにホンワリ優しいものじゃなくて、骨が折れちゃうんじゃないかな? って思ったぐらい強かった。

雨でしっとり濡れて、土や埃の匂いのする作業着が、修二さんやお父さんらしくて大好きで、それも心地よかった。


 幼いプロポーズは、大切な人達が見守ってくれる中、皆の温かい拍手で祝福してもらえた。

ただ一人を除いて…


「お父さんって、色々大変なのね」


 ガッチリ私を抱きしめる修二さんの横で、お父さんは燃え尽きた灰のように真っ白な顔で、倒れたまま動かなかった。

そんなお父さんを、コ―ジさんは同情するような目で見ながら、ツンツン突っついていた。


「盛り上がっているのに水をさすのは申しわけないんだけれど、美和ちゃんも修二様もまだ未成年ですからね。

親の同意があって結婚出来るのは、女性16歳男性18歳!

ほら、修二様! 美和ちゃんが汚れちゃいます」


 サヨさんが、渾身の力を込めて、私から修二さんを剥ぎ取った。


「風邪引く前に、お風呂に入って下さい!

勇一様は白川さんを、コ―ジさんは修二様をお願いします。

四人で入っちゃってください」


 言われて、勇一さんとコ―ジさんは、素直にお父さんと修二さんを引きずって、お風呂へと消えていった。


「さ、男衆が居なくなったから、プチ女子会しましょう」


 4人をお風呂に追いやった目的は、女子会のためだったらしく、4人の姿が見えなくなると、サヨさんはウキウキと私の前に座った。


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