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おまけの話85 敷かれたレールから外れて君と歩く道26

■おまけの話85 敷かれたレールから外れて君と歩く道26■


 開け放たれていた障子、磨き上げられた縁側、紫の紫陽花が咲く雨の裏庭…

確かに、修二君家だ。

けれど、私はお友達のトヨちゃんと、トヨちゃんのお兄さんとそのお友達と、誰も住んでいない団地のお部屋にいたはず…


 困惑する私の横に座って、美世さんがそっと団扇で扇いでくれた。

その横に勇一さんが座って、私を挟んで向かい側にコージさんが座って、裏庭で喧嘩をする二人を見ながら教えてくれた。


「ミワちゃんの新しいお友達、トヨちゃんだっけ?

あまり、素行がよろしくないみたいだね。

まぁ、シュウジよりはマシみたいだけれど。

で、トヨちゃんのお兄さんとそのお友達、ちょっと怖いお兄さん達の子分だったみたいで、何回か警察のお世話になってるみたい。

まぁ、こっちに迷惑がかからなければいいんだけれどさ… 今回、かかっちゃったからねぇ~」


 失礼~ と呟いて、コージさんはゴロンと仰向けに寝転がった。

相変わらず、顔は裏庭の二人に向いているけれど、首が痛そう。


「あの団地、とある会社の社宅だったんだよね。

その会社の経営が傾いて、東条が買収したんだよ。

それで何とか持ち直したんだけれど、色々あって結局はトカゲのしっぽ切り… ようは、見捨てられたわけだ。

まぁ、汚職が発覚しちゃったから、しょうがないけれどね。

関与していない社員は東条グループの各会社で引き受けたし。

そんなこんなで、一昨年には廃墟となった団地なんだけれど、あの規模を壊すのにもお金がかかるから、放置しちゃったんだよね~。

で、トヨちゃんのお兄さん達みたいな人達が、勝手に使い始めちゃったわけ。

あの団地、建てられてから20年以上は経っているから、それなりの人間ドラマもあった訳で、色んな幽霊も住んでたみたいね。

その幽霊さん達が、トヨちゃんのお兄さん達を良く思わなかったり、自分たちの世界に取り込もうとしたり… ミワちゃんは、そんな奴らにとって極上の食事なんだよ」


 4年生になっても、コージさんが真面目に話してくれると、半分は分からない。

これでも、噛み砕いて説明してくれたんだろうけれど。


「私、お化けのご飯なんですか?」

「とっても美味しいね。

星3つ! ってとこかな。

だから、お化けに食べられちゃっただろう?」


あ… 親猫に食べられた。


「子猫はね、ミワちゃんを引き付けるための囮で、親猫の一部だったんだよ」

「とっても可愛かったんだけれどなぁ…

巫女神様の言葉を思い出して、カエルのキーホルダーを確り握って… 修二君達みたいに奉納舞は出来ないけれど、何か楽しい事をすれば巫女神様が気が付いてくれるだろうと思って、カエルの合唱を歌っていたの」

「その歌声、聞こえたんですって」


 団扇で風をおくってくれながら、美世さんがニッコリ。


「修二様、鬼のような顔で刀を振り回して、美和ちゃんを探してたよ。

もちろん、お父さんもね」


 親猫のお腹の中で歌っているうちに、周りが明るくなり始めたのは覚えているんだけれどなぁ…


 まだ喧嘩をしている2人は、しっとりと濡れている。


「美世さんも、探しに来てくれたんです?

そんな危ない所に…」

「だって、頭に血が昇った修二様と美和ちゃんのお父さんを止める人、私以外に居ないでしょう?

って、大見得(おおみえ)を切ったんだけれど、結局は荷物持ちにしかならなかったし、勇一様の足も引っ張っちゃったし…」


 トホホ… と、目尻を下げて苦笑いした美世さんは、スッと私の顔の前に自分の横顔を近づけた。

そして、扇いでいた団扇で私達のお顔を隠す。


「でも、いつもと違ったカッコいい姿が見れて、ちょっと嬉しかったの。

これは秘密ね。

不謹慎! って、怒られちゃうから」


 コソコソっと教えてくれた美世さんは、よく修二さんがやる様な悪戯な笑顔をしていた。

そっと勇一さんを見ると、両腕を中心に切傷が見えた。

よく見ると、耳や頬にもある。


「まぁ、何とか本契約は間に合ったから、東条の利益にそんなには響かなかったけれどさ…」


コージさんは拗ねたような声を出して、ゴロンと腹ばいになった。


「利益って?」

「あそこ、来月に取り壊す予定だったんだって。

その前に、今月の月末にコージさんがお祓いする予定で、今日は本契約をするはずだったんだけれど、その前に巫女神様に呼び戻されたらしいの。

契約前に何かあったら大きな損になっちゃうかもしれないからって、コージさんはとりあえず契約にもどったんだけれど…

あの二人に、本契約が取れるまで大人しく探せって、出来るわけないじゃない?」


 私の質問に、美世さんは元の体勢に戻って説明してくれた。


「私のせいで、ごめんなさい」

「違うよ。

タイミングだよタイミング。

責任を負うとしたら、あそこまで放ったらかしにしていた会社のせいさ」


 コ―ジさんは頭を下げた私の方に、寝返りを打ってきて、下から私を見上げた。


「最後の住民が退去して直ぐに解体すれば、あそこまで幽霊やら質の悪い人間が集まることは無かったんだよ。

会社が悪い、会社が」

「「近い!」」


 コ―ジさんの顔を、修二さんとお父さんが縁側こら身を乗り出して引っ張った。

今まで、二人で取っ組み合いしてたのに•••



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