おまけの話73 敷かれたレールから外れて君と歩く道14
■おまけの話73 敷かれたレールから外れて君と歩く道14■
サヨさんは、本当に朝一番にマリさんをお屋敷から追い出した。
何かない限り、夕飯の準備が終わると帰るサヨさんがお泊りした。
マリさんは客室のベッドで寝ようとしたけれど、お布団の用意が出来ないと分かると、渋々女中部屋で寝てくれた。
私・サヨさん・マリさんの川の字は、部屋中に異常な圧と、いつもはない温かさがあった。
そして、5時の目覚ましのベルと同時に、サヨさんはマリさんを転がして、玄関から出してしまった。
勝手口の方が近いのだけれど、ドアとマリさんの体のサイズがね…
まぁ、結局、勝手口まで転がされたのだけれど。
「ちょっと、酷すぎるんじゃない!?」
「お屋敷内の被害を、最小限に留める最善の策です!」
マリさんとサヨさんが言い合っている間に、私は制服に着替えてエプロンをして、朝ごはんの準備。
二人の言い合う声が、勝手口のドア越しに良く聞こえた。
「ミヨちゃん、先に食べていていいからね!」
「私も、朝ごはん~!!」
ちょっと覗いてみたら…
2人とも、お客様用の寝巻姿のままで、取っ組み合いにはなっていないけれど、猫の喧嘩並みには睨みあって、肩をドン! と押し合っている。
「片付けは、私がするからね!」
「デザートもつけて〜」
「それ以上、お肉付けてどうするんですか!」
「サヨさん、ひっどい!
マリ、傷つきやすい乙女なのにぃ!!」
サヨさんはヒラヒラ避けているけど。
マリさんの一撃は、お相撲さんの張り手並…
まともに受けたら、一撃で撃沈だろうな~。
それより、寒くないのかな?
そう言えば、マリさんが来た時の電話、誰だったんだろう?
サヨさんの口振りから、東条家の人かな?
そんな事を思いながら4人分の朝食を準備して、勇一さんと食べて、まだギャンギャン、ドン!ドン! やっている二人に
「行ってきま~す」
とにこやかに手を振って、お屋敷を出た。
いつもなら勇一さんがお見送りしてくれるのだけれど、この日は一緒にお屋敷を出発して中学校まで送ってくれた。
あの二人の対応に困るからかな? と思っていたのだけれど…
別れ際に、勇一さんは自分の巻いているカシミヤのマフラーと、私の毛糸のマフラーを交換して行った。
勇一さんの黒いコートに、私の毛糸の赤いマフラーは、確実に浮いていた。
「おはよー。
珍しいね、勇一様が送ってくれるなんて」
「何かあったの?」
マフラー交換の意味を、どう取ればいいのか…
考えながら、昇降口で上履きに履き替えていたら、カヨちゃんとキヨちゃんが声をかけてくれた。
「おはよ~。
う〜ん… 以前、お屋敷でちょっとだけ働いた人が訪問約束無しで来て、朝からサヨさんと張り手合戦してる」
2人は教室に向かいながらマフラーを外したけれど、私はもう少し勇一さんの温もりと香りを感じていたかった。
「張り手… なにそれ?」
キョトンとするカヨちゃん。
まぁ、そういう反応になるよね。
「その、前働いていた人と、勇一さんの学校までの送りが関係するの?
サヨちゃん、その人に何か嫌な事された?」
キヨちゃん、心配してくれているのかな?
ちょっと、違う感じ… 焼きもちやいてるかなぁ…
「んー… 多分、お屋敷に残った2人の対応に困るから、早く出たんじゃないかな?
で、早く出たのはいいけれど、珈琲店に行くにはまだ早かったから、時間つぶしに送ってくれたんだと思う」
うん、きっと、そうだ。
「なるほどね~」
「で、マフラーを交換した意味は?」
カヨちゃんが納得した声を出すと、間髪入れずにキヨちゃんが突っ込んできた。
「それは、私にも分からないなぁ~」
うん、本当に分からない。
廊下でそんなことを放していたら、階段の方から先生の声が見えた。
「じゃぁ、後でね~」
「うん、後でね~」
キヨちゃんとカヨちゃんは一緒のクラスで、私とは隣の教室。
先生より先に教室に入らないと遅刻扱いにされてしまうから、カヨちゃんは慌てて教室に入って行った。
そんなカヨちゃんに、片手を上げて私も教室に入ろうとしたら…
「… それ、『マーキング』」
私の横を通ったキヨちゃんが、ポソっと呟いて教室に入って行った。
悲しそうな、少し怒ったようなキヨちゃんの声。
私の心臓がキュッと痛くなった。




