おまけの話68 敷かれたレールから外れて君と歩く道9
■おまけの話68 敷かれたレールから外れて君と歩く道9■
皆さんこんばんは、美和です。
先週桜の花が満開になって、無事に小学校3年生になりました。
今日は不定期開催の『女中会』という名前のお泊り会です。
会場は東条のお屋敷の女中部屋。
参加するのは美世さんと、サヨさんと、チヨさんと、私。
勇一さんのお部屋では、勇一さんと、修二さんと、コージさんが『男子会』という名前のお泊り会。
お夕飯は皆で食べて、お風呂も入って、それぞれの好みの飲み物とお菓子を用意して… 夜更かしスタートです!
4人分のお布団を頭を向き合わせるように敷いて、中心には部屋の明りの電池ランプと、飲み物とオヤツを置いたお盆。
飲みながら食べながら… なんて、お行儀が悪いけれど、コロンとお布団に包まって過ごす時間はとっても楽しい。
「修二様、最近、悪さしてない?」
サヨさんの飲み物は、アツアツのほうじ茶。
小学2年生の春、無事に新しいお家へのお引越しが出来ました。
修二さん家のお屋敷と、学校のちょうど間ぐらい。
美世さんがお使いに行く商店街や、コ―ジさんのお家や紫陽花神社にも近い場所。
前のお家より、学校が少し遠くなったのは、今までより10分早く出発すればいいし、行きつけの病院も、足が遠のいていたから、あまり問題はなかったのだけれど、修二さんが放れるのを嫌がって…
「じゃぁ、一緒に住むか?」
て、お父さんが。
修二さんが拒否するわけも無くて、お母さんも快く受け入れてくれて… 修二さんも新居で生活をするようになりました。
「修二君、最近は学校より、お父さんとお仕事に行ってる方が多いいかな?」
「仕事って、工事現場?
修二様、ちゃんとお仕事出来ているのかしら~?
でも今日、久しぶりにお会いしたら、すっかり身長も伸びて… 中学生ぐらいの大きさにはなっていたわね。
まだ、3年生なのに」
チヨさんは濃く淹れた紅茶に、蜂蜜とシナモンを入れたモノ。
私はホットミルクにたっぷりの蜂蜜。
「チヨさん、修二様は5年生ですってば、5年生。
3年生の時にミワちゃんと一緒に居たくって、転校して無理やり1年生からやり直しているから、本当は5年生」
「あら、そうだったわね。
修二様はとりあえず学校に行ってくれれば… って感じだったから、学年は忘れてたわ~」
ウフフフ~と笑うチヨさんに、同意しながらお菓子のクッキーを摘まむサヨさん。
「修二様は、早く自立したいみたいです」
美世さんは、薄めに淹れた珈琲。
編み込みのお下げは、サヨさんがお風呂上がりにやってくれたもので、私もお揃い。
「自立?」
「勇一様が働き始めて、お給料で私のお洋服を買ってくれるようになったじゃないですか?
それを見て、修二様も自分のお金で… て、思い始めたみたいです」
この頃の美世さんの身の回りの物は、その殆どを勇一さんが買い与えていた。
珈琲店のお給料はそんなに高くは無かったはずだけれど、美世さんは元が質素倹約な人なので、貯金も出来ていたらしい。
「要は、『東条の家』から完全に自立、離れたいわけね。
でも、チヨさんの言う通り、ちゃんとお仕事出来ているのかしら?
そもそも、今の時代、普通なら小学生は雇ってくれないでしょう?」
サヨさんの言う通り。
私のお父さんは中学校前から働いていて、学校で勉強をした覚えがないって常々言っていたけれど、この頃は中学校までは義務教育になっていたので、小学生が表立って働く事は出来なかったはず…
「修二君、年齢を嘘ついてるんです。
嘘ついてるって言っても、現場監督も職場の周りの人達も本当の年齢を知っているから、嘘つかなくてもいいと思うんですけど…」
身長がニョキッ!て伸びても、まだ大人には見えないし。
「…そっか、税金対策ね」
「ああ~、なるほど。
でも、あの修二様に税金対策なんて頭、あるのかしら?」
チヨさんの言葉に反応したのはサヨさんだけで、私と美世さんはチンプンカンプン。
「税金?
… もしかして、私もですか?」
「ミヨちゃんの税金関係は奥様が… 今は本社の経理の方が他の女中さん達の分と一緒に処理しているわよ。
ご実家の事もあるからね」
チヨさんに教えてもらって、美世さんはビックリしていた。
「一番単純なのは、ミワちゃんのお父さんのお給料に修二様のお給料を乗せる事だけれど、それだとミワちゃんのお父さんの収入が増えて治める税金も増えちゃうものね。
だから、修二様のお給料を非課税金額にすればいいの。
収入が低いと、国に税金を払わなくていいのよ」
ハッキリ言って、この時の私には分からなかった。
そんなお勉強、学校ではしていないし、お友達とそんな話題で盛り上がる事も無いから。
でも、修二さんはこの頃からしっかりと貯金をしていたらしい。
私の家にも生活費として、僅かだけれどお金も入れていたようで…
お父さんもお母さんも最初は断っていたらしいけれど、毎月給料日にキッチリとお金を払う修二さんの気持ちを汲んで、そのお金は内緒で貯金してくれていた。
その事を知ったのは、私と修二さんが家を出る時。
そのお金の入った貯金通帳が、お母さんから手渡されたから。
「… きっと、コージさんの入れ知恵ね」
サヨさんの一言に、私達3人は素直に納得した。




