おまけの話50 修二と美和4・家族の形5
■おまけの話50 修二と美和4・家族の形5■
賑やかな祭り囃子。
頭上にずらりと並ぶ提灯の照明。
浴衣や甚平姿の子ども達に混ざり、私と修二さんは目をキラキラさせて、どのヒヨコを買おうか迷っていた。
「修二君、今買っちゃうと人混みでヒヨコさん潰れちゃうかも。
帰りの方が良くないかなぁ?」
修二さんは虹色のどの子にするかで悩み、私は色すら絞れていなかった。
全部可愛くて、絞れなかった。
「お嬢ちゃん、取り置きはできないよ。
気に入った子がいたら買っていかないと、帰りじゃぁ売れちゃっていないかもしれないよ」
ヒヨコの後ろにどっかりと座ったお店のオジサンは、タバコを咥えて団扇を忙しく動かして、流れ出る汗を首から下げたタオルで拭いていた。
甚平にしまわれたお腹が、今にも飛び出しそう。
「美和ちゃん、俺決めたよ!」
私とお店のオジサンの話を聞いていたのかどうか…
目をキラキラさせて、サヨさんから貰ったお小遣いを握りしめた手を、オジサンの前に出そうとして…
「うおっ?!」
「きゃっ」
私と修二さんは勢いよく、襟を掴まれて後ろに引っ張られた。
子ども達の人垣から私達を引きずり出したのは、武さんだった。
他の人の邪魔にならない様に、端っこまで引っ張って行かれて… 呆れ顔のサヨさんと、クスクス笑っている美世さん。
「無駄使いしちゃダメですよって、言ったばかりじゃないですか。
しかも、ヒヨコ…」
「おれ、色のいっぱいついたヤツにするんだ!!」
修二さんはサヨさんの言葉を気にも留めず、また子ども達の人垣に突っ込んで行こうとして、武さんに襟首を掴まれたまま宙に浮かされた。
「黄色のヒヨコ10円、カラーヒヨコ50円、レインボーヒヨコ150円…カラーヒヨコ1匹で珈琲が飲めるし、レインボーなんてラーメン食べれちゃいますよ! お釣りまでもらえますよ」
「え~、もう、俺の金だもん!!
ってか、サヨの美味しそうだな」
足をプラプラさせながら、修二さんはサヨさんの右手を注目していた。
そこにあるのは、大きくて真っ赤でツヤッツヤのりんご飴。
「あ、これ(りんご飴)? あっちの屋台で5円でしたよ。
イカ焼きと、お好み焼きもありましたし、焼き鳥…」
「あそこで売ってるヒヨコを、焼いてるわけじゃないじゃん?
じゃぁさじゃぁさ、黄色いの1匹~」
おっと! と、サヨさんが口を押さえたけれど、修二さんは気にする様子も無くおねだり。
「お屋敷で飼えませんよ~。
それとも、食用ですか?」
「えー! どうせ、誰も来ないんだからいいじゃん!
俺、ちゃんと世話するから~」
テレビで見たアニメに、こんなシーンがあったなぁ…
「修二様、とりあえず一周しましょう。
輪投げも、射的もあるんですって。
全部楽しんでからにしましょう」
美世さんの言葉に、サヨさんはウンウンと頷きながら、りんご飴をカリカリ…。
「ミヨは、金魚すくいや亀すくいをやりたいです」
美世さんがすくうマネをすると、修二さんが私の方を見た。
「私も、金魚すくい… やりたいな」
「よし、行こう!」
修二さんが体をひねった瞬間、武さんはパッと手を放した。
下駄の大きな音をたてて立つと、修二さんはニコニコしながら私の手を取って鳥居の中、露店や人々で賑わう中に飛び込んで行った。
お囃子の音や、行き交う人たちの熱体温を近くで感じて、私の気持ちが再びドキドキし始めた。
丸ごと一本の冷やしキュウリ、イカ焼き、たこ焼き、焼きそば、トコロテン… 一人で食べられないから、皆で少しずつ食べた。
喉を潤すのは瓶のラムネ。
賑わう露店や、行き交う人たちを見ながら皆でワイワイ食べる。
それは、私だけじゃなくて美世さんも初めての経験だったみたいで、2人で落ち着きがなかったと思う。
ずっと、興奮していたから。
ヨーヨー釣りでは、美世さんとお揃いの黄色いヨーヨーを1個。
射的は残念賞で小さな棒付きキャンディ。
美世さんとキャンディを舐めながら、修二さんと勇一さんの射的を見た。
上中下と3段の棚にずらっと並ぶ景品の数々。
修二さんと勇一さんは並んで半身で立って、目をキッ!と引き締めて…
パン!パン!パン!パン!パン! 全部命中!!
「こういう所は、兄弟ね~。
しっかり高いのばっか狙ってる」
感心しながら、サヨさんも残念賞のキャンディを舐めている。
修二さんと勇一さんが落としたのは、『1等』『2等』と紙が貼ってある、小さな小さな箱。
『5等』はマッチ箱ぐらいの大きさなのに、『1等』はその3分の1ぐらいしかない。
そんな小さな箱を、2人で10個落としちゃったので、お店のオジサンは目を白黒させていた。
金魚の大きなタライの中に、亀もいた。
ヒラヒラユラユラ揺れる長いヒレは赤と黒、スイスイと動くのは緑色の甲羅。
濁りのない水の中に大小の金魚と、小さなミドリガメ。
最中に洗濯バサミを付けたモノで、お気に入りの子を狙う…
「私達、センスないわね~」
サヨさんが笑って言う通り、センスがないと思った。
私も美世さんもサヨさんも… すくえたのは、皆揃って赤い金魚を1匹づつ。
私の金魚は、一番小さくて一番尾びれが長い。
美世さんの金魚は、一番大きくて白い模様入り。
サヨさんの金魚は、赤い出目金。
「でも、可愛い」
「うん、可愛いね」
金魚は3匹まとめて入れてもらって、美世さんが持ってくれた。
水の入った透明の袋の中で、狭そうに泳ぐ金魚達を見ながら呟くと、美世さんも微笑みながら呟いた。




