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おまけの話42 修二と美和2・入院生活4

■おまけの話42 修二と美和2・入院生活4■


 中庭での奉納舞の後、顔色が土色になって意識を失ってしまった修二さんは、診察を受けて荒縄でベッドにグルグル巻きにされた。

プリプリと怒った婦長さん自らの手で。


「シュウジが食ったの?」

「うん、パクンって」


 私はいつもの様に修二さんの枕元に座って図鑑を広げながら、坂本さん達と夢の話をした。

先日の続きで、この日の図鑑は『世界のカエル』。


「小さくなっちゃった怖いのがね、


『待って、置いて行かないで。

帰りたい、連れてって』


てお願いするの。

どんどん小さくなりながら。

でね、


『どうすんの?』


て、修二君が私に聞いてくれたの。

怖いのがどこに帰りたいのかも分からなかったけれど、私と一緒なら帰れるのなら連れて行ってあげたかったんだ。

独りボッチは寂しいもん。

だから、修二君に


『連れて帰ってあげたいな』


て答えたの。

そうしたら、パックン!! って食べちゃった。

そこで、目が覚めたの。

でね、目が覚めたら、修二君のお顔があったんだけれど、そのお顔がカエルみたいだったの」


 目の前にあった、パンパンに腫れた顔。

赤、黄色、青… カラフルで大きさも様々な痣でペイントされたその顔は、寝起きにはとてもインパクトが強くて、今でもよく覚えている。

動いちゃいけないのにベッドから脱走しようとして、ギブスの足でバランスがうまく取れなくて、隣の私のベッドの方に転がり落ちたのを知ったのは、少ししてから。


「カエル?」


 美世さんと坂本さんが、私の膝の上で開いている図鑑を覗き込んだ。

そのページには、カラフルな毒カエルが何種類も載っている。


「うん。

ここに載ってるカエルみたいなお顔をしていたの。

ビックリしちゃった。

でも、なんで食べようと思ったの? て聞いても…


「美和ちゃんの夢の中の俺なんて、分かるわけないじゃん」


て、言われたんだけれど、確かにそうだよね~」


 笑う私の横で、美世さんはカエルの図鑑を熱心に覗き込んでいた。


「さすがに、お屋敷の周りにはこんなカラフルなカエルは居ないのよね。

梅雨時に、可愛い雨カエルがピョンピョンしているぐらいで… 実家には大きなガマガエルがでたけれど」


 ちょうど、開いていたページに、ガマガエルが載っていた。

ガマガエルって、10年以上も生きるんだ…


「『カエル』ってね、『無事カエル』とも言われるの、知ってる?

とある神社には、その神社の代表的なご利益の1つでもある『病気平癒』を象徴する可愛いカエルの像があるんだよ」


 話ながら、坂本さんは病室の天井を見ていた。


「病院てさ、『生』と『死』が背中合わせの場所じゃない?

生きて出ていく人も居れば、死んで出ていく人も居るわけで… 色々な感情が溜まるんだよ」

「そっか… 夢の中で私を追いかけたのは、死んじゃった人達の気持ちなんだ。

そうだよね、帰りたいよね」


 幼い私は、素直に納得した。


「ミワちゃんは優しいから、同調しちゃっていたんだろうね。

それと、ミワちゃんは昔から入退院を繰り返しているから、退院する時に幾つか連れて出ていると思うよ」


 坂本さんは私をジッと見つめて、次に修二さんの寝顔を見た。


「きっと、夢の中のシュウジは『カエル』だろうね。

そのままでも浄化できただろうけれど、『連れて帰ってあげたい』ていうミワちゃんの思いを優先したんだろうね。

悪いモノをパクッと食べて、外に出たら吐き出すつもりだったんだろうな。

今日の奉納舞で、浄化されちゃったみたいだけれど」


坂本さんは、何者なのだろう?

霊感が強い人なのかな?

テレビに出たりしないのかな?


 そんな疑問が、私と美世さんに生まれた。

私達の視線を受けて、坂本さんはニコッと笑いながら、胸元から小さな黒皮のケースを取り出した。


「あ、俺の家系、『霊能力』でご飯食べているんだよね。

一応、俺もそっち系の仕事しているから、何かあったら力に乗るよ」


 黒皮のケースから出されたのは、とってもシンプルな名刺だった。

私が名刺を受け取ると、坂本さんはもう一枚取り出して美世さんに差し出した。


「… 勇一様が嫌そうなので、遠慮します。

ごめんなさい」


 ちょっと迷った美世さんは、後ろで静かに立っている勇一さんを振りかった。

私には、まだ着物姿の勇一さんの表情からは、なにも感情が読み取れない。


美世さんはずっと勇一さんと一緒に居るって言っていたから、小鼻のちょっとした動きとかで気持ちが分かるのかな?


 眉尻すら動かさない勇一さんを見て、そんな事を思った。


「日に日に依存度が増していくな。

あ、シュウジ~、起きて起きて。

起きて、あれ()って」


 勇一さんを見てため息をついた坂本さんが、素早く修二さんの体をベッドにグルグル巻きにしている荒縄を解いて、強引に上半身を起こして、容赦なく頬を叩いた。


「… なに? コージさん?」

「シュウジ、お仕事。

弓で()ろ」


 目を覚ました修二さんに、坂本さんは病室の入り口をチョンと指さした。

そこには、何もない。

それでも、修二さんはヨロヨロとベッドから降りて、壁に立てかけていた弓と矢を手にして、足音も無く入り口の正面に立つ。

 それまでヨロヨロしていたのに、約60度に足を開いて確りと立つと、矢を当てて弓を引いた。

土色だった顔も、しっかりと血色がよくなっている。

何より、入り口を見据える目が、生き生きと力強く輝いていた。


 私の耳にも、誰かの足音が聞こえて来た。

バタバタととても急いでいるようで、重さもある。


「美和ちゃん!」

()ぜろ」


 お父さんの顔が見えた瞬間、修二さんは重心を体の中心に置いてから、一連の動作を通して矢を放った。


「!!」


 矢はお父さんの頭上で虹色の光と共に四散した。

音はなかった。


「… ガキっ!

何してくれやがった!!」


 私と美世さんは驚きすぎて声も出なかったのに、頭の上を射られた本人のお父さんは、怒って修二さんに掴みかかった。


「知るかー!!

コージさんが射ろって言ったから、射ったんだ。

当たってねーんだから、良いだろうが!!」


 お父さんに胸元を掴まれた修二さんは、噛みつく勢いで… 実際にお父さんの手に噛みつきながら怒鳴っていた。


「このクソガキ!

万が一、美和ちゃんに当たったらどうすんだ!」

「俺がそんなヘマするかよ!!」


 噛まれても、手を離さないお父さん。

修二さんは弓を放して、殴ろうとするし…


「お前のその目が気に食わねーんだ!」

「俺だって、オッサンの目は嫌いだ!!」


 なんて、お互いの嫌いな所を言い出して、殴り合いを始めてしまった。

修二さん、骨がくっついたばかりなんだけれど…


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