おまけの話38 修二と美和1・出会いの春2
■おまけの話38 修二と美和1・出会いの春2■
私が居るのは真っ暗な闇の中。
お家の中なのか、外なのかも分からない。
電気も、お星さまも何にも無い、真っ暗な闇の中。
「お父さん… お母さん…」
声が闇の中に拡散していく。
私以外、誰もいない闇の中。
「お家に帰りたいなぁ…」
寂しくて、不安で、涙が出て来た。
ポロポロ零れだした涙は足元に落ちて、たちまち大きな水溜まりになった。
闇に、キラキラ光る水面。
水面の向こうから、『何か』が私を見つめている。
「だあれ?」
しゃがみ込んで水面を覗き込んだら、『何か』は大きな口を開けた。
キラキラ光る水面の中に、ぽっかり空いた闇の空間。
「逃げろ!!」
声変わり前の少年の声と同時に、腕を引っ張られた。
後ろでも前でもなくて、右側に。
「走れ!」
私の前に、人が居た。
私の手を握って、私の前を走るその人は、お星さまみたいに金色のキラキラした髪。
「走れ、走れ!!」
「お胸が、苦しくなっちゃう…」
心臓の弱い私は、力いっぱい走った事なんて無かった。
少し走っただけで、呼吸と胸が苦しくなるから。
「ほら!」
不安で胸を押さえた私に、少年は背中を向けたまましゃがみ込む。
「背中に乗れよ。
俺が2人分走る!」
「でも…」
オンブなんて、お父さん以外にしてもらった事がなかった。
「ほら、変なのに食われちまうぞ!」
言われて振り返ると、闇より黒い『何か』が、キラキラしたお口を開けて追いかけて来ていた。
「お、お願いします」
「任せろ!!」
お父さんより肉付きが薄くて小さな背中。
私が乗っかったら潰れちゃうんじゃないかと思って、けれど後ろから来る『何か』から逃げたくて、えい! と抱き着いた。
グン! と前に引っぱられたかと思ったら、視界が少し高くなった。
「しっかり、捕まってろよ」
少年の走るスピードは、私をオンブしているなんて思えない程早くて、自分でもこんなに早く走った事も無かったし、お父さんも私をオンブして走った事は無かったから、風になった感じで… ツンツンした金色の髪が、お鼻やホッペに当たって少しくすぐったかった。
光の花びらが降って来た。
それは桜の花びらみたいにハートの形をしていて、一枚… 二枚… 三枚… ヒラヒラヒラヒラ…
次第に枚数を増やして、虹色のシャボン玉のようにくっつきあって… いつの間にか光の空間を走っていた。
「まっ… て… ま… て…」
後ろから泣き声が聞こえた。
それはすごく小さくて、悲しそうに震えていて、私をオンブしてくれている少年の肩を軽く叩いた。
「あん?
追いつかれていいのか?」
少しだけスピードが落ちて、少しだけ機嫌の悪い声が返って来た。
「でも、泣いてるから…」
「…フン」
私の言葉に、少年は鼻を鳴らして止まってくれた。
「待って… まっ…てぇ…」
小さな背中から下りて振り返ると、私の半分も無い真っ黒な『何か』が、小さな小さなお口をモニヤモニャさせながら、向かってきていた。
「置いて… 行かないでぇ…
帰り… たいよぉ… 帰りたい…
連れてってぇ…」
私に近づくにつれて、その黒い『何か』は、どんどん小さくなっていく。
「どうすんの?」
後ろで、少年が聞いてくる。
「連れて帰ってあげたいな」
どこに帰るのかも分からなかったけれど、私と一緒なら帰れると言うなら、連れて行ってあげたかった。
独りボッチが寂しいのは、良く分かるから。
「…フン」
少年がまた鼻を鳴らした。
スッ… と私の横を通って、ツンツン金色の髪の少年は、その黒い『何か』に近づいて…
パックン!!
と、大きな口で一飲みにした。
「これで、一緒に帰れるだろ?」
そう言って私を振り返った少年の顔は…
「カエルさん?」
目の前に、パンパンに腫れた顔があった。
赤、黄色、青… カラフルで大きさも様々な痣でペイントされたその顔は、寝起きにはとてもインパクトが強かった。
図鑑で見た毒カエルみたい…
それが、第一印象。
「誰がだよ。
俺は修二って名前」
ツンツン金色の髪の… カエルのような顔をした少年は、寝起きの私に名乗りながら笑ってくれた。
… たぶん、笑ってくれたんだと思う。
唇も目も、パンパンに腫れているから、良く分からないけれど、『ニコ』 って動いた感じはしたから、笑ってくれたんだと思う。
「私、美和です」
これが、修二さんと私の出会いだった。




