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おまけの話24 勇一と美世6・変化3

■おまけの話24 勇一と美世6・変化3■


 心配したきよちゃんとかよちゃんが、お屋敷に電話をかけてくれたらしい。

教科書が見つかって、私が修二君と職員室に行ったタイミングで。

 私が通う小学校は、連絡用で公衆電話が1台だけ置かれていて、誰でも使えるようになっていて、私も数回だったけれど、学校の用事で遅くなる時にはお屋敷に電話をかけた事もあった。


「失礼します。

東条ミヨの保護者代理の東条勇一です」


 勇一さんは一礼してから一歩職員室に入ると、私に手を差し出した。

差し出された手の意味を、私は分かっていた。

本当は出したくはなかったけれど、勇一さんの有無を言わさない雰囲気にのまれて、ズタズタになった教科書を手渡す。


惨めで、情けない気持ちでいっぱいで…

虐められているなんて、知られたくなかった。


「…ごめんなさい、『東条』の名前を使っちゃいました。

『東条』は、関係ないのに… ごめんなさい」


 本当は『東条』の名前は使いたくはなかった。

確かに、私は東条の性だけれど、それを名乗って何かをしていい身分じゃない。

まさしく、『立場をわきまえなさい』と、タカさんの言う通りだ。


 勇一さんに怒られるのも呆れられるのも嫌で、そんな顔を見たくなくて、俯いてしまった。

泣くな泣くな… と自分に言い聞かせる。

そんな私の頭を、勇一さんは優しくポンポンと大きな手を置いてくれて、思わず勇一さんを見上げた。


「先生方、うちのミヨは、悪口は気にしていないと言っていましたが、言葉は時として力の暴力よりも心に深い傷をつける時がある事を、ご存じだと思います。

ミヨは、自分で対処しようと頑張っていたようですが、いくら当事者が訴えて来ないからと言って、『虐め』を目の当たりにした教師が見て見ないふりと言うのはどういった事でしょうか?

これは、『東条』として言っているのではありません。

いち、保護者として言っています。

もしこれがミヨではなく、他の生徒でも目を瞑っていましたか?

他の生徒は、ミヨのように言葉の暴力に耐えられる子ばかりですか?

見て見ないふりをして、時間が解決してくれるのをまつのですか?

そもそも、時間は解決してくれるのですか?

加害者にしてみたら、学生時代の一瞬の思い出かもしれません。

しかし、被害者にとってその時間は一生です。

心身ともに負った傷を、一生引きずって生きていくかもしれない。

もしかしたら、その苦しさから誰にも助けを求めることが出来ず、命を絶つという選択をするかもしれない。

加害者にとって『それぐらい』と思える事が、被害者にとって『こんなにも…』と深く傷つくことかもしれない… 

それが『虐め』です。

先生方は、そんな子ども達を止めることも助けることもせず、無かった事にするのですか?」


 勇一さんの言葉は相変わらず難しくて、全部は分からなかった。

ただ、『虐め』は私だけの問題じゃない事は分かった。


 淡々とした勇一さんの声が、静まり返った職員室に良く響いている。

先生達はみんな俯いていた。


「教員指導が未熟で、申し訳ございません。

東条様の言う通りです。

教員指導を徹底いたします」


 タヌキ… 校長先生は丸い背中を更に丸めて、深々と頭を下げた。


「君たちも、『虐め』がどういうことか、考えてみなさい。

手にしたミヨの教科書は、君たちの教科書と同じくらい綺麗だったか?

表紙は薄汚れて、手前のページは薄汚れていただろう。

それは、竈で飯を炊きながら読んでいたからだ。

書き込みも、沢山あっただろう?

出来るだけノートを使わない様に、出来るだけ事業中に覚えられるようにと、分からないところは友人や私と一緒に勉強した後だ。

君たちは、そんなミヨの一生懸命勉強した時間を、友人や私との時間を踏みにじったんだ。

そして、今は加害者かもしれないが、明日には被害者になる可能性もある事を、覚えておくといい」


 怒鳴った訳ではない。

勇一さんは今までと変わらず、淡々と話しているだけだった。

それでも、言われた虐めっ子達は、サッと俯いてしまった。


 そうか、だからあんなに悔しかったんだ。

勇一さんの言葉を聞いて、悔しさと悲しさの理由が分かった。


「あと、別件で伺いたいことがあります。

修二、ミヨ、廊下で待っていなさい」


 勇一さんは私と修二君を見て、職員室のドアをそっと指さした。

私と修二君は短く返事をして、静かに職員室を出た。



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