その33 男子会は呑み屋で
※性に関する会話があります。苦手な方はご注意ください。※
■その332 男子会は呑み屋で■
皆さんこんばんは。
『シスコン教師』こと、皆の『お兄ちゃん先生』東条梅吉です。
この春、無事に妹と従妹が高校を卒業してホッとしたのと、大学生になる事で新たな心配事が増えて、そろそろ円形脱毛症で2~3個はハゲが出来るだろうなと覚悟している高校教師です。
今夜は気の置けない仲間と、馴染のお店に呑みに来ています。
俺、笠原、三鷹、坂本さん、岩江さん、工藤さんの6人でお店の奥、襖で個室に出来る座敷を借り切って、友人でもある店主の竹ちゃんも巻き込んでほろ酔いです。
「でも、桃華ちゃんが大学生かぁ…。
しかも、高校卒業と同時に結婚しちゃうんだもの、人生は分からないものよね~」
仕事帰りの坂本さんは4杯目のレモンチューハイの大ジョッキを片手に、スクエアー型の眼鏡の奥で切れ長の瞳を細くしてしみじみ。
「大切に大切に育てたのに…」
俺はガックリ。
「桃華のお相手、俺とは別の人の方が良かったようですね」
桃華の…だ、だん…旦那の笠原は、俺の隣でシレっと生ビールの中ジョッキを飲んでいる。
この男のどこが…
「お前で… 良かったよ」
言葉に嘘はない。
桃華の相手が笠原で良かったと心から思っているし、笠原以外の男は想像も出来ないししたくも無い。
でも、でもだ…
「まぁ、シスコン梅吉ちゃんは、複雑な心境よね」
さすが坂本さん。
俺の気持ちをよ~く分かってくれてらっしゃる。
「これから大学生なら、子どもはまだまだか~。
可愛いだろうな、2人の赤ちゃん」
岩江さんの言葉に、心臓が止まりそうになった。
「いやいやいやいやいやいやいやいや、子ども? 赤ちゃん?」
ちょっと待て、ちょっと待て…
「梅吉、落ち着いてください。
深呼吸」
「はい、これ呑んで落ち着いて」
って、岩江さんから受け取ったグラスを一気に飲み干したけれど、これ、日本酒だった。
「いやいや、落ち着ける? これ、落ち着ける?
子どもだよ? 赤ちゃんだよ?
いや、桃華の赤ちゃんが可愛いのは当たり前じゃない?
そんな決まりきった事… ってか、赤ちゃん?!」
それって…
「梅吉ったら、ナニ想像してるのよ~。
エッチなんだから」
体中の血液が、一気に頭に集まった感じがした。
坂本さんのいやらしい笑みがぐにゃっと歪んで、体の側面が畳に叩きつけられた。
いやいやいや… 想像したくないでしょう?!
愛しい愛しい妹と親友の事なんて!!
「子どもに関しては自然に任せたいのですが、今は勉学が最優先ですね。
大学卒業の後は就職もあるので、しばらくは…」
「だよな! そうだよな?! まだ、学生だもんな!」
笠原の言葉に勢いよく起き上がり、被せて話すと…
「避妊はしますよ。
避妊はね」
再度、俺の体は畳に沈んだ。
2回も言わなくていいんだよぉ~。
あー… 目が回る。
「大事なことは、繰り返し伝えるのが親切でしょう?」
俺の心を読んだのか、笠原はシレっと言いながら生中を吞んでいる。
「お兄ちゃん、大変だな~」
岩江さん、他人事だと思って、思いっきり笑ってくれちゃって。
ダメ、お兄ちゃんは立ち直れない。
暫く、畳とお友達になってよう。
「でも、結婚するのは桜雨ちゃんの方が先だと思ってたんだけどな」
竹ちゃんが、以外そうに言う。
畳みに撃沈している俺はよそに、上の方で話は続くみたい。
「恋人時間を楽しみたいなんて、可愛いじゃない。
乙女よね~。
同じ乙女として、その気持ち良く分かるわぁ~」
いやいや、坂本さんの乙女心はもっと複雑でしょう?
坂本さんの乙女心は理解しきれないけれど、三鷹の気持ちは良く分かる。
いや、男としての笠原の気持ちも分かるけれどね~、お兄ちゃんの気持ちは複雑なのよぉ~。
「三鷹こそ、よく我慢してるよな?
まだキス止りだって?」
岩江さんお願い、それ以上その話題を掘り下げないで…
「桜雨を怖がらせたくはない」
三鷹、珍しく今日は酒呑んでないんだよね。
「今まで我慢してきた分、衝動的にならないの?
教師って、そこまで理性が効くもんなの?」
岩江さんは我慢できないの、知ってる。
一時は、週単位で彼女が変わっていた時があったもんね、岩江さん。
被っていた時もあったしね。
「あー… その点は、三鷹を褒めたい。
本当に良く我慢してるよな」
むくっと体を起こして、目の前の枝豆をチマチマ食べながら言うと、前に座っている坂本さんも頷いていた。




