表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
324/434

その324 拳よりも強いのはイチゴ味のキス

■その324 拳よりも強いのはイチゴ味のキス■


 お食事が終わって、お風呂に入ったりテレビを見たり、夕飯のお片付けをしたりと、それぞれが動き出した頃、主は三鷹さんと秋君のお散歩に出ていました。


 商店街の街灯の灯りと、各店舗の看板の灯りやシャッターにつけられた防犯用ライトの灯りで、22時近くの夜道でも歩きやすいです。

さすがにこの時間は、歩いている人も少なくなってきていますね。


 主と三鷹さんの足元を歩くワンコの秋君は、とってもご機嫌です。

垂れたお耳を揺らして、クルンとお尻の上に上がった尻尾も揺らして、お尻も揺らして歩きます。

そのリードを持つのは、僕の主の(おう)()ちゃんです。

 食後のお茶を飲んでいる時に、和桜ちゃんが練習させて~と、柔らかな髪を編み込みのお下げにしてくれました。

そのヘアースタイルのまま、お散歩です。


「親と殴り合う、暴力的な俺は、ダメか?」


 ご機嫌な秋君と、ご機嫌な主。

三鷹さんだけがご機嫌ナナメです。

眉間に深い皺を作って、お顔の筋肉も強張らせて… 何より、纏う雰囲気が不機嫌オーラになっています。

すれ違う人達は、三鷹さんのお顔を見ない様に、避けるように道を歩いています。


「今日の事は、お父さんが悪いのでしょう?

三鷹さん、ごめんなさい。

お父さん、気持ちの整理に時間がかかっているみたいで…

過保護でしょう、お父さん。

三鷹さんでも、嫌なのね。

今までだって、ずっと私の側に居て、私の事を守ってくれていたのにね」


 眉尻を下げて、ちょっと上目使いに三鷹さんを見ます。


「それは、しょうがない事だと思っている。

想定内だ」


 三鷹さんだって、修二さんとは昨日今日の関係じゃないですもんね。

修二さんの行動パターンも、主に対する気持ちも、よ~く分かりますよね。


「でも、三鷹さん、ご機嫌ナナメでしょう?

静かに、怒ってるでしょう?」


 漂う怒りのオーラが自分に向いていると分かって、正直言って主はどうすればいいのか少し戸惑っています。

こんな事、主の記憶の中で数回あったぐらいなので…

お話を聞けば何とかなるかも! とは思いつつも、正直、秋君が居てくれて助かっていました。


「桜雨が、まだお嫁にはいかないと言った」


あ!

って、声には出さないけれど、小さなお口がバカッと空きます。

主、ようやく気が付きましたか。

皆、あの時に気がついていましたよ。

夏虎君以外は。


「桜雨が俺を拒否した」


 三鷹さん、起こっているというより、イジケ始めましたね。


「それは拒否じゃなくて•••

あのね、その•••」


 主はピタッと足を止めて、三鷹さんの方に体を向けます。

いつもはキリッ! として眼力も強い瞳が、眉尻を下げて弱々しく主を見つめているのが分かって、主は俯いてしまいました。


「修二さんと殴り合う、暴力的な俺を嫌いになったか?」


 秋君、主の後ろにチョコンとお座りします。

2人の間じゃないところが、さすが空気の読めるワンコですね。


「け… 結婚… 声にすると、なんだか恥ずかしいな」


 主は手にしている秋君のリードを、モジモジモジモジ•••


「結婚って事がピンと来ないし•••

それより、こ、恋人の時間を楽しみたいと思って…」


 主、自分で言った言葉で、耳までほんのりピンク色になりました。

心で思っていることを口にすると、恥ずかしさは倍増するんですかね?


「それに、貰った鍵を使いたいんだけれど、三鷹さん言ったじゃない?

この鍵を使ったら、もう俺からは逃げられない… って。

それって、覚悟ができたら、使えってことよね?

… 私、逃げるつもりは最初からないわ。

逃げる逃げないじゃなくて… まだ覚悟ができてないの」


 さらに、リードをモジモジ。

衝撃が先の首輪まで伝わって、秋君は少し動いて、ちょっと心配そうに主を見上げています。

けれど、下から主の表情を見上げて、フンと1回お鼻を鳴らして腹ばいにリラックスしちゃいました。


「… キスだけで、精一杯」


 人差し指で自分の唇に触れて、三鷹さんの唇の感触を思い出します。

唇の大きさや、厚み、熱••• 自分の小さな唇を簡単に覆ってしまう、三鷹さんの唇。

唇が放れた後、主の名前を呼ぶ熱い吐息…


「拒否されたのではないなら、いい。

覚悟もしなくていい

桜雨が…」


 三鷹さんはそっと、主のほっぺを両手で挟みました。

柔らかくて、スベスベしていて、手のひらに吸い付いてくる感触が心地よくて、ついつい放したくなくなりました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ