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その32 人生をかけてのプレゼン!(文化祭準備への道2)

■その32 人生をかけてのプレゼン!(文化祭準備への道2)■


「3年B組普通科進学コース、赤井(あかい)(きょう)()です。

卒業後はY・P服飾専門学校に進むつもりなんですが、受験項目に自分でデザインして自作した作品の提出があるんです。

で、他の人に差を付けたくて、ランウェイを歩くDVDもつけようかな?

あ、なら、文化祭のクラスの出し物として発表すればいいじゃん!

・・・って、思いついたんですけれど、もちろん皆が皆、僕と同じ進路なわけじゃなく、むしろ、受験で文化祭にクラス参加も難しい状態で・・・」


伸ばしっぱなしの長髪に、不健康そうな肌色と肉付きの薄い体。

赤井先輩の顔は分厚い眼鏡で半分を覆い隠していて、俯いてしまうと殆ど眼鏡しか見えません。


笠原先生の好意で、赤井先輩は教壇に立って、クラスの皆にプレゼンを始めました。


「数人の友人が、舞台や照明なんかを手伝ってくれると言ってくれたんですが、モデルさんがいなくて・・・」

「先輩、質問!

数人の友人とモデル1人で作る舞台で、拍のつくDVD作れるんですか?

文化祭の出し物、成功出来るんですか?」


質問に、赤井先輩はオドオドと答えます。


「DVDは何とかなると・・・ただ、文化祭の成功は・・・」


さっきまでの勢いと気迫が、嘘の様です。

『ランウェイ』を『ランナウェイ』と言ってしまった勢いは、どこかに行ってしまったようです。

まさしく、逃亡者(ランナウェイ)・・・



「ヨッシー(義人)先生~、今年の文化祭、でっかい事やっていいんだよね?

もう、準備始めてもいいの?」


1人の男子が、教壇の近くに立って様子を見ていた笠原先生に聞きました。


「笠原先生と呼んでください。

良いですよ」


笠原先生は怒るでもなく、頷きました。


「じゃあさ、そのステージ、うちのクラスでやんない?

他に、やりたい事ある人いる?」

「特にないけど、ステージって、どうやるの?」


話のバトンがクラスに渡ったのを感じて、笠原先生は学級委員長を手招きしました。


「委員長、まず、文化祭のクラス参加、ファッションショーでいいか決を採って」


女子の学級委員長は黒板に向かい、男子の学級委員長は赤井先輩の隣に立ちました。


「はいはいは~い。

先輩、交代しますね。

じゃぁ、手っ取り早く・・・文化祭のクラス参加は、ファッションショーでいいですか?」


男子の学級委員長の問い掛けに、クラスの数人以外は手を上げました。


「あの・・・」

「はい、松橋さん」


オズオズと手を上げた松橋さんは、さされてオズオズと立ち上がりました。


「B組手芸部も、文化部として参加しなきゃいけないんですが・・・クラス参加と合同でどうでしょうか?

他の文化部に所属している方もいるので、そんな方には手芸部は負担になると思うんですが、一緒なら時間も短縮できますし、使える予算も単純計算ですが2倍になるかと・・・」


おおおおおお!!!!


歓声です。

松橋さんの意見に、歓声が上がりました。


「ヨッシー(義人先生)、マジで2倍?」

「笠原先生です。

まぁ、単純計算で、ですがね。

細かいことは、2学期に決まりますよ」

「いいじゃん、いいじゃん」

「では、我が2年B組並びにB組手芸部の出し物は『ファッションショー』で」

「えー、俺、興味ないし、何やっていいかわかんねーよ」


黒板に大きく『ファッションショー』と書かれました。

決定に、不満がある生徒もいるようです。


「興味ない?

やる事が分からない?

OKです。

予算は後で考えるとして・・・

全体をまとめる『進行』・『会計』・『デザイナー』・小物も作るのかな?作るのはパタンナーって言うんだっけ?まぁ素人だから『裁縫』でいいよね。

舞台を作る『大道具』、舞台の『照明』・『音楽』・舞台上の『進行』は、いるかな?」


男子の学級委員長が口にしたことが、次々と綺麗に板書されていきます。


「『ファッションショー』と言っても、ザっと考えてもこれだけの仕事に分かれます。

素人の僕が考えたので、言葉が適切でないかもしれないし、抜けがあるとは思いますが・・・」


学級委員長は胸ポケットから伸びる指示棒を取り出して、先生のように黒板を差していきます。


「小松君、進路希望はイベント会社じゃなかったかな?」


不満のある生徒の一人に、学級委員長が聞きます。


「そう俺、イベント会社就職希望・・・ああ、そうか。

『進行』やってみればいいのか?」

「いい経験にもなるし、この経験は面接でもポイントを稼げると思いますよ。

赤井先輩のように」

「なるほどね~。

んじゃ、俺、頑張る」


そのやり取りを見て、他にもいた不満だった生徒は、積極的に手を上げ始めました。


「じゃぁ、俺、『大道具』」

「赤井先輩、私もデザインしてもいいですか~?」

「あ、もちろんです」

「じゃぁ、私、『デザイン』」

「委員長~、舞台メイク要らない?あと、ヘアメイク。

それがあるなら、私、メイクやりたい~」


こんな感じに、次々と役割が決まっていきました。

話を持って来た赤井先輩は、その勢いにポカーンと口を開けて見ているだけです。

僕としては、この学級委員長、笠原先生にとても良く似ていると思います。

思考回路が近い・・・まさか、笠原先生の子どもじゃないですよね?


「ってか、委員長、肝心の『モデル』が抜けてる」

「あ、本当だ」


笑いながらの指摘に、クラスは笑いに包まれました。

突っ込まれた学級委員長も、大きな口を開けて笑っています。


「やっぱり、白川さんと東条さんは外せないんじゃない?」

「え?私達がモデルやってもいいけれど、舞台に立ってる間、誰かあの二人を押さえててくれる?」


桃華ちゃんの言葉に、皆の視線は教室の後ろで様子を見守っていた、三鷹さんと梅吉さんに集まりました。

梅吉さんの笑顔が、今は怖いです。

三鷹さんは、いつも通り無表情ですが、圧が凄いです。


無理です。


皆の心の答えは、その一言ですね。



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