その319 『もしも、ピンチの時に…』どっちを選ぶの?
■その319 『もしも、ピンチの時に…』どちらを選ぶの?■
三鷹さんとのデートは、桃華ちゃんとのデートに変わりました。
その帰りに一人で本屋さんに寄ったら雨が降ってきて、黒いコウモリ傘を持った三鷹さんがお迎えに来てくれたので、相々傘で帰ってきました。
お夕飯は、家族が御馳走を作ってくれました。
家族やお友達、ご近所の中の良い人達、皆で楽しくお腹いっぱいに食べて…
今は暖かなお湯の中です。
桃華ちゃんと向かい合って入っても、手足を伸ばせる大きなバスタブ。
少し温めのお湯と、樹皮の内皮と葉っぱを細かく刻んだものが入っている布袋。
そして、咲き始めた桜のお花。
今夜は桜のお風呂です。
効能は…
・疲労回復
・湿疹の予防、改善
・消炎作用
・安眠、快眠効果(不眠症の改善)
・風邪の予防
・美肌効果
があるそうで、美和さんが用意してくれました。
「ねぇ… 桜雨、もしもの話。
もしも、私と水島先生が崖から落ちそうになっていたら、どっちを助ける?」
長い髪を上の方でまとめて、軽く目を瞑って、お湯の温かさに眠気を覚えながら、桃華ちゃんが聞きます。
「桃ちゃん」
髪を結い上げた主も目を瞑ったまま、即答です。
伸ばしていた足を胸元に引き寄せて、両腕で抱きしめました。
お湯の感触を楽しみながら、主はクスクス笑いながら続けます。
「三鷹さんは1人で崖から這い上がって、私の代わりに桃ちゃんを引き上げてくれるから。
それでね、三鷹さんは私と笠原先生が崖から落ちそうになっている時も駆けつけてくれるの。
もちろん、三鷹さんは私を一番に助けてくれるから、桃ちゃんは笠原先生の腕を確り握っていれば大丈夫。
私の次に、笠原先生を引き上げてくれるよ。
でも、三鷹さんが私を助けてくれている間に、梅吉兄さんが笠原先生を助ける可能性の方が高いよね」
「私と桜雨は、手を握っているだけ?」
桃華ちゃんは長い手足をうーんと伸ばした後、両手をヒラヒラさせます。
「そっ、握っているだけ。
私達の王子様は、頼もしいから」
主も、桃華ちゃんを真似して両手をヒラヒラ。
「でも、それだと笠原先生はぶら下がっているだけよ?」
今度は、2人してヒラヒラさせていた手を、お化けの様に下に向けます。
「笠原先生は、頭脳派でしょう?
きっと私達じゃ考えもつかない方法で崖からあがるんじゃないかな?」
「映画のスパイみたいなアイテム使ったりして?」
「そうそう。
私ね、思うんだけど… 笠原先生、そのうち改造小型銃作って、装備しだすんじゃないかな?」
「白衣の袖からバーン! とか?」
桃華ちゃんは、バーン! と銃を撃つマネをします。
「百発百中ぅ~!」
主は撃たれたふりをして、お湯の中に少しだけ沈みながら桃華ちゃんにお湯をかけました。
「ちょっ! やだ、桜雨!!」
勢いよくお湯をかけられて、桃華ちゃんは思わず両手でお顔を隠します。
「こっちは散弾銃だよ!」
主、お湯をかける手を止めません。
バシャバシャバシャバシャ、桃華ちゃんに向かってお湯をかけ続けます。
「この~!」
桃華ちゃんもやり返し始めます。
止める人が居ないので、中腰でキャッキャ笑いながら、和桜ちゃんが入って来るまでそれは続きました。
というより、和桜ちゃんはちゃんと声をかけてお風呂のドアを開けたのに、夢中になり過ぎた主と桃華ちゃんにはその声が聞こえなくて…
「お姉ちゃん…」
和桜ちゃんは、頭からしっかりと桜のお湯を被りました。
和桜ちゃんは、ビックリし過ぎてビショビショのまま固まってしまいました。
「「和桜ちゃん、ごめんね!!」」
主と桃華ちゃんは慌てて和桜ちゃんに駆け寄って、焦りながら謝ります。
謝りながらチラッとバスタブを見ると、お湯は半分も入っていませんし、桜の花弁も床に散乱しています。
「これじゃぁ、龍虎(・双子)のこと言えないわね」
「最近、冬龍は落ち着いてきたから、「一緒にしないで」って、怒るよきっと」
言いながら、桃華ちゃんと主はお湯を入れなおして、追加用の桜のお花を入れました。
「先に、体洗っちゃおうね」
そして、3人仲良く並んで、背中の流しあいっこを始めました。




