表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
298/434

その298 初デート・クラゲと鍵と4月の自分

■その298 初デート・クラゲと鍵と4月の自分 ■


 広く暗い空間で、あちらこちらで輝くのは円筒型の水槽です。

それぞれの水槽では上に下にと、クラゲがふんわりふんわり…


青白く輝くミズクラゲ

傘に放射状に赤の縞模様が入っているアカクラゲ

傘に水玉模様のあるタコクラゲ

お椀を逆さまにしたような、白く透明で細く長い触手のオワンクラゲ

丸みがかった形で、カラーバリエーションが豊富な、カラージュェリーフィッシュ…


 10種類以上のクラゲがふんわりふんわり…


「ふぁぁぁぁ…」


 主が感嘆の溜息をつきます。

クラゲが映る瞳はウットリとしていて、小さなお口はちょっと開いています。

そんな主の横で、三鷹さんはちょっと複雑な気分でした。


「桜雨…」


 主の名前を口にしましたけれど、その次に続ける言葉が見当たらず、喜んでいるのは嬉しいけれど、自分の存在を忘れられているようで…

三鷹さんはそんなモヤモヤした気持ちでいっぱいになって、手を繋ぎなおしました。

指を絡めずに握っていたのを、しっかりと5本の指を絡めてギュッと握りました。

三鷹さん、クラゲに焼きもちですね。


「クラゲ、飼いたいなぁ…」

「飼うか?」


 三鷹さん、甘いです。


「ずっと見てて、家の事何もしなくなっちゃいそう」

「俺の部屋で飼う。

桜雨は見に来ればいい」

「本当?」


 ビックリした主は、三鷹さんを見ました。


「本当」


 ようやく見てくれた主に、三鷹さんはオデコにチュッと唇を落としました。


「帰り、商店街のペットショップに寄ろう」

「本当に、本当?」


 チュッとされたオデコを恥ずかしそうに触りながら、主は三鷹さんをじーっと見ながらまだ聞きます。


「本当に、本当」


 少し口元を緩ませて、三鷹さんがゆっくりと歩き出しました。

主も歩き出すと、手のつなぎ方が変わっている事に気が付きました。


「好きな時に見に来ていいし…」


 ゆっくり歩きながら、水槽の灯りに照らされた主のお顔を見ながら、三鷹さんは続けます。


「なんなら、クラゲと一緒に俺の部屋に来るか?」


 三鷹さん、それって・・・


「じゃぁ、4月から飼い始める?

新年度はお仕事が忙しいから、私もお世話するね」


 確かに、三鷹さんの『お部屋に入るのは高校を卒業してから』って約束ですけれど…

違います、違いますよ主。

ほら、三鷹さんも少しガッカリしています。

主、今の言葉は、プロポー…


「その時は、お部屋の鍵、使ってもいいでしょう?」


 そうでした。

主も主なりに我慢して、楽しみにしているんですよね。

1回だけフライングで、鍵を使っちゃいましたけれど。


「もちろんだ」


 主が心配そうに聞くと、三鷹さんは優しく答えてくれました。


「少し、欲張った」


 そして、主に聞こえない程小さな声で呟きます。

まぁ、主からあんな可愛い『お返し』をされたら、気持ちがどんどん走っちゃいますよね。

今までずーっと、我慢していたんですもんね。

いつもなら邪魔をしてくる梅吉さん達も居ないから、気持ちも行動も暴走しちゃいますよね。


 クラゲのスペースが終わると、最初の大きな水槽がある広い空間に出ました。


「少し前は春が来るのが、不安と楽しみで気持ちが落ち着かなかったの。

だけど、今はすごく楽しみ。

不安が全然ないわけじゃないけれど、ワクワクしてるの」


 そう言いながら、主は三鷹さんに笑いかけます。


「桃ちゃんとは学校が別々になっちゃうけれど、今まで以上に三鷹さんとは一緒に居られるし、絵も描けるし…

三鷹さん、ありがとう。

芳賀先生に、私があの美術室で絵を描き続けられるよう、相談してくれて」


 美術部の顧問の芳賀先生が、主に教えてくれたんです。


『桜雨がこのまま、この学校で絵を描く方法が何かないですか?

あの子のスキルをこの学校で生かすことはできませんか?』


と、三鷹さんは芳賀先生に相談してくれていたそうです。

去年の夏前から。


「私、頑張るね」

「頑張り過ぎないようにな。

俺も梅吉も、笠原もいる」


 うん! と大きく頷いた主は、ニコニコしながら三鷹さんと繋いでいる手の腕を、キュッと抱きしめて、最後に大きな水槽を暫く眺めていました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ