その29 進路を考えてみる
■その29 進路を考えてみる■
白桜私立高等2学年科学担当、2年B組担任・笠原義人です。
一学期の期末テスト、成績もつけ終わり、夏休み前の仕事と言えば・・・
進路指導
1学期の成績を見て、1回目の進路面談。
2学期の成績を見て、2回目。
3年の今頃にほぼ決定。
最終は3年の秋。
まぁ、このころに決定する生徒は、そうとう足掻いていますね。
教師としては、望む進路に進ませてやりたいもの。
その為には、生徒の意識がどの程度なのかを把握することが大切。
田中真希は、うちのクラスより上の『特進科進学コース』・『特進科留学コース』でも十分上位の成績を取れる生徒です。
「なぜ、特進科に行かなかったかですか?
大森さんが、心配してくれたからですね。
ええ、『私が彼女を』ではなくて、『彼女が私を』です。
何を心配したかって?
勉強のし過ぎ、青春を楽しんでいないコト。
大きなお世話ですよね?
でも、おかげで、勉強の楽しさを思い出したんです。
勉強以外の、楽しい事も出来ました。
勉強って、やる気になれば何処だって、何時だって出来るんですよね。
そう思ったから、大森さんと青春を楽しもうかなって。
進路ですか?
T大の文化三類・教養学部か教育学部を希望します」
まぁ、このまま頑張れば8割受かるでしょう。
大森茉里奈は、女子高生を大いに楽しんでいる。
「進学ですか?
ん~、まだハッキリとは考えてないんですよね。
一応、進学コースにしたけど、それも田中っちが『勉強は出来て損はない』って言うから~。
田中っちのおかげで、何とか赤点追試は免れてるけど、今は、皆や彼氏と遊ぶのとバイトが楽しいし。
多分、今のままだと就職かな?
アパレル関係、希望しま~す」
まぁ、妥当ですね。
松橋有紀は、このクラスの中では可もなく不可もなく・・・いい意味でも悪い意味でも普通な生徒。
けれど、手芸部の部長になってからは、クラスにも馴染んで、友人の輪も広がったようです。
「進路ですか?
あの・・・すみません、迷っています。
1年生の時は、とりあえずどこかの大学に入れればと思っていたんですが・・・
皆に手芸を教えていくうちに・・・その・・・自分の教室を持ちたいなって思い始めて・・・。
漠然となんで、まだ何も調べていないんですが、専門学校もありなのかな?とか・・・
大学で、勉強もしてみたいとか・・・
お父さんは、お金の心配はしなくていいって言ってくれてるんですけど、やっぱり心配で・・・」
やりたいことが出来たのは、とてもいい傾向。
友人との関係もいいようなので、このまま見守りですね。
まだ時間があるので、ゆっくり考えていきましょうか。
東条桃華は、友人で同僚の妹ですが、クラスメートでもある従姉妹放れが出来ていないところが心配の種。
「進路調査票にも書きましたけど、保育園の先生になりたいので、S大かE大の教育学部を希望します。
桜雨と一緒じゃなくていいのかって?
そりゃぁ、嫌ですよ。
ず~っと一緒が、いいに決まってるじゃないですか。
でも、桜雨には桜雨の、私には私の人生がありますから。
・・・悔しいですけど、メチャクチャ頭に来てますけど、多分、一生許せないと思いますけど・・・桜雨が幸せなのが一番だから。
だから、私は私で幸せにならなきゃ、桜雨が心配するし、悲しむでしょ?」
意外と、確り考えていますね。
今の成績なら、希望の大学のワンランク上でも大丈夫でしょう。
白川桜雨は、成績は上の中。
家業の事もあるので、大学、専門学校ともに進学希望が出てもおかしくはなかったんですがねぇ・・・
「『探偵』になって、探したい人がいるんです。
その後に・・・お嫁さんになりたいです」
うん、みなまで言わなくても、分かりますよ~。
分かるだけに、どう指導していいものか・・・
この子に関しては、少し時間を置いて様子を見ますかね。
周りの流れで、変わっていくでしょうから。
「皆より幼いって、分かっているんです。
もっと、将来の事を考えなきゃって。
ただ、弟たちの面倒や、家の事、友達、家族・・・今が楽しくて、その先の事や、やりたい事を考えたら・・・あの人に会いたいなって。
卒業したら、きっとハッキリすると思うんですけど、今は、それだけしか考えられなくて」
ああ、これは、三鷹が悪い。
・・・そう、言い切ってしまえば簡単ですが、立場上、そうもいきませんからね。
「探偵はともかく、お嫁さんは、白川さんらしくていいんじゃないですか?」
そう言うと、三鷹や東条兄妹が大切に、ずっと守りたいと思っている笑顔を向けてくれました。
とても柔らかく、とても愛らしい・・・天使の笑顔。
ああ、確かに、これは守りたくなるのも頷けますね。




