その285 好き+5(前)
■その285 好き+5(前)■
一日の疲れを温かなお湯に溶かして、心も体もホコホコになった主はタオル1枚巻いただけの格好で、週末の習慣になっている体重計に乗りました。
ピピピピ・・・
「・・・あらららぁ~」
測量が終わった事を知らせる電子音。
液晶パネルに表示された数字・・・
「この体重計、壊れちゃった?
あ、髪の毛、乾かしてないからかな?
肺の中の空気、全部吐き出さなかったから?」
僕の主はお年頃の女子高校生です。
目の前に表示された数字に、一瞬、現実逃避しちゃうのも無理はありません。
「えー・・・やっぱり、原因はあれだよね」
主、一度体重計から下りて、そ~っともう一度乗っても、表示される数字はさっきと変わりませんてば。
その数字を覗き込む様に座り込んで、主は大きなため息をつきました。
■
2月も中旬・・・
大学受験組は共通テストも終わって、後は各自志望校の入学試験です。
専門学校進学希望者や就職希望者は、その殆どの進路が確定しています。
この時期、白桜私立高等学校の3年生の授業は、ほとんどありません。
学校に来ている3年生は、受験日まで特別講習で頑張っていたり、単位を取らせるための追試等がほとんどで、3年生のクラスの階はとても静かです。
そんな今日この頃ですが、主達は体育の授業だけはしっかり受けています。
体育の単位を落としそうな生徒は、本当に数少ないんですけれど、居なくはないので、体育の授業もあります。
そんな生徒達と一緒に、今日はグラウンドで持久走です。
指導している梅吉さんは、とっても嬉しそうですね。
暦の上では春に入っています。
けれど、今日は『寒風吹きすさぶ』の言葉がピッタリのお天気で、参加者の体は一回り程縮まっている感じです。
お日様は、出ているんですけれどね。
「やぁ~寒い寒い寒い!
なんでこんなに寒い日に、持久走なのよ~」
大森さんは、両腕を組ながら小走りです。
ブルブルと震えています。
「ランニングの効果について教えてあげるわ」
そんな大森さんの隣では、絵に描いた様なフォームを崩さず、一定のペースで走る田中さんです。
「ランニングは全身運動で、体のコリをほぐしたり、血流が良くなるのよ。
走ることによって体内に取り込む酸素量が増えれば、血液や栄養分の循環がスムーズになるわ。
その結果、代謝が上がる。
代謝が上がると、ダイエット効果が上がったり、冷えや浮腫みの緩和にもなるわ。
また、呼吸数も上がるから、肺を機能させるために腹部周りの筋肉を刺激するから、便秘の解消にもつながるのよ」
「運動不足になりやすい3学期には、もってこいの運動ね」
桃華ちゃんも、呼吸を整えながらマイペースに走っています。
「お、お正月太りも・・・か、解消ですね・・・ふぅ」
3人に遅れまいと、松橋さんは頑張っているみたいです。
呼吸が少し荒いですね。
「ふ~ん。
ダイエットにランニングって、結構、理にかなっているんだ。
お金かからないから、始めやすいだけかと思ってた」
まぁ、大森さんの言う通り、お手軽ですもんね。
「それも、一理」
「でも私、しばらくダイエットは必要なさそう」
田中さんからランニングの効果を聞いたせいでしょうか?
大森さんは手をブラブラさせて、田中さんの様にちゃんとしたフォームをとりました。
「大森さん、い、忙しいですもんね」
松橋さん、顎が上がってきましたよ。
「専門学校合格した次の日から、午後は坂本さんのお店で働きながら美容やブライダルのバイトだもんね。
坂本さん、喜んでいたわよ。
「高橋は仕事ができるようになってきたけれど、相変わらず華が全く無いのよね。
でも、大森さんは美容に関心が高いし、華があっていいわ~」
って、この前、小躍りしていたわ」
そうなんです。
大森さんは希望の専門学校に無事合格しました。
入学するまでの今は、午前中は学校で残りの学校生活を楽しんで、午後は坂本さんのお店でアルバイトをしています。
お店は床屋さんですけれど、坂本さんが新しく立ち上げた『ブライダル部門』は女性が主なターゲットです。
「坂本さん、運動は美容と健康の基本だから、体育は確り受けなさいって」
「間違っていないわ。
だから私達も、こうして出ているんじゃない」
そうです。
主達が単位は取れているのに体育の授業を受けているのは、健康維持の為なんです。
「でも、白川っチは、なんであんなに気合入っちゃってるの?」
4人仲良く走っている50メートルほど前を、主が一心不乱に走っています。
スタートした時から、この距離の差は縮まっていません。
主は皆とお話をすることなく、ずーっと真面目に走っています。
「んー・・・乙女心よね」
大森さんに聞かれて、桃華ちゃんは心当たりがありました。
「あ、もしかしてダイエット?
白川っチ、太ってないじゃんかー」
「田中さん、こういう事だけ、察しがいいわね」
桃華ちゃんに呆れられて、田中さんは・・・
「私、乙女だもの」
フフフン~と、得意気に笑いました。




