その279 ストーカー少年の看病方法1
■その279 ストーカー少年の看病方法1■
そりゃあね、去年からここ最近までイベント続きでバタバタしてましたよ。
骨休めのはずの『正月温泉旅行』も、骨休めには絶対なってないし、桃華や佐伯の共通テストのために生活のバックアップ・・・まだ17歳のうら若き乙女が自分の勉学もあるのに、そこまでやれば、そりゃあ疲れて熱も出るよ。
まぁ、そこまでやらせちゃった、甘えちゃった大人達の責任なんだけれどさ。
反省の意味も込めて、今日の昼飯は俺が作りました。
仕事の親4人と双子には、お兄ちゃん特製高菜チャーハン。
弁当組5人には、高菜チャーハンにおかずも詰めて。
・・・でも、こうして食べると、桃華と桜雨が作ってくれるお弁当の方が美味しいのが、良くわかる。
三鷹なんか、しかめっ面のまんま食べてるし。
悪かったよ、出汁巻き玉子作れなくてさ。
桃華と佐伯は、ちゃんと食べてるかな?
「あら、東条先生のお弁当、今日は少し感じが違いますね?
まさか、白川さんや東条さん以外の女性が?!」
今日は、大学受験する3年生が共通テストを受ける日なので、3学年の先生方は何かあった時のために、休日出勤して職員室にいるんだけれど・・・
「三島先生、うちには母も叔母も居ますし、俺も食える程度には料理できますよ。
今日は、自分で作りました。
でも、なんで、三島先生来てるんです?
お休みでしょう?」
三島先生は、笠原や三鷹の弁当を覗いて、俺と同じなのを確認して納得したらしい。
「授業の資料作りです。
家だと、お正月気分が抜けなくて・・・」
チラッと笠原を見て、バツが悪そうに苦笑いした三島先生は、ツツツツ・・・って俺のところに戻って来た。
「白川さん、具合でも悪くなっちゃいました?」
「熱です。
疲れが出たんだと思いますよ」
「可愛そうに・・・。
家事、大変じゃないですか?
私、お手伝い行きます!」
「あ、大丈夫ですよ~。
三鷹がしっかりやってくれましたから」
「えっ?!水島先生がですか?」
まぁ、驚くよね。
家事の『か』の字もやれなさそうだもんな。
そう言えば、三鷹がうちの家の事をやり始めたのって、いつからだっけ?
確か、中学3年の今ぐらいだったか?
■
チャイムがなって、放課後のホ-ムル-ムが終わると、今日はそのまま帰宅。
急いでいる時に限って、プリントだの何だの多いな。
『高等部制服の購入期間について』
『高等部への部活見学について』
『中等部卒業式と高等部入学式について』
・・・さすがに、高等部関連の手紙が多いな。
部活の手紙はいいかな?どうせ、引き続き剣道部だし・・・
いや、まて、ス-パーで買い物を頼まれていたはずだから、もっと急がないと駄目じゃん俺。
「お、東条、今日は部活行かないの?」
「休む。
妹達が熱だしたから、家の手伝い」
帰りの支度を急いでいる俺に、友達が声をかけてきた。
中3の1月だけれど、うちの学校は高等部があって、そこに上がることが決まっているから、受験も無い。
部活も変えるもりがなければ、今の時期から高等部で練習が出来る。
なので俺と数人の部活仲間は、3学期が始まってすぐに、高等部の練習に参加させてもらっている。
「部活大好きのお前が?
妹、いくつだっけ?
親に任せとけばいいんじゃね?」
「2か月の双子が居て、小3の妹2人が発熱。
母さん達だけじゃ、無理だって」
美和さん、昨日寝れてなさそうだったしな。
「だけどさ、何もお前が・・・」
「遅い」
友達がまだ何か言おうとした時、俺の襟首をつかんで思いっきり引っ張ったバカが居た。
学ランの首元が閉まって、苦しいってば!
「み、みた・・・三鷹、苦しいってば」
三鷹に引きずられて、俺は友達の顔を向いたまま、後ろに一生懸命足を動かした。
いや、これ、マジで危ないって。
「水島、どこに行った?!
うちのクラスはまだホームルーム終わってないぞー!!」
隣のクラスの担任、三鷹の担任が教室で吠えているのを聞きながら、周囲の注目をあびながら、とりあえず昇降口に急いだ。
三鷹、せめて担任に「さようなら」ぐらい、言って来いよなぁ。
靴を履き替えて、バス停からバスに乗って・・・
「メール」
「誰の?」
「買い物リスト」
帰りのバスは、うちの生徒で8割埋まっている。
三鷹と並んで釣り輪に捕まって、窓の外を眺めていたら、三鷹が手を出してきた。
「ああ、察しがいいね。
いいよ、俺行くし」
「2人で手分けすれば、その分多く片付けられる」
この場合の2人とは、俺と三鷹の事だよな?
片付けって?
「桜雨と東条妹がいつもやっている家事」
「ああ、そう言う事。
でも、悪いから良いよ。
母さんや美和さんも、気が引けると思うよ。
有難いけどな」
そう言っても、三鷹の手は引っ込まない。
それどころか、さらにこっちに出してきた。
「分かったよ。
とりあえず、買い物リストを転送するよ」
こいつ、本当に頑固なんだよね。
ズボンのポケットから携帯を取り出して、母さんから来た買い物リストのメールを、三鷹に転送・・・っと。
三鷹は自分の携帯を確認して、頷いた。
「桜雨達、食欲は?」
「あー・・・2人とも、一応は朝、食べていたかな。
でも、お粥の減り、イマイチだったな」
2人とも熱高いからか、半べそかきながら食べてたな。
「東条妹の好きな果物は?」
「果物は、何でも好きかな」
「分かった」
調書でも取られてるのか、俺は?
「買い物、なるべく早く終わらせる。
東条は、妹がいつも掃除している場所を掃除しておけよ」
そう偉そうに言い残して、三鷹はバスが止った瞬間に居なくなった。
いや、走ってスーパーに向かった。
早過ぎじゃないか?
アイツ、忍者か?




