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その274 雪と温泉・ワンコは見た

■その274 雪と温泉・ワンコは見た■


 皆さん、こんにちは。

ボク、ワンコの秋君です。

 ボクのご主人様はミタカさんなんですけど、今はサカモトさんの言う事をちゃんと聞いて、おりこうさんにしています。


え?どこに居るのって?


ここです、ここ。

お昼寝中のナオちゃんに抱っこされて、ウトウトしていました。

 ナオちゃんの右と左には、同じお顔があります。

ナオちゃんにそっくりの、従兄弟のトウリュウ君とカコ君です。

3人は、お昼の後に戦争みたいな雪合戦に参加して、力尽きてお昼寝しています。


 ボクも誘われたんですけど、死ににいくような事はしたくないですもんね。

モモカちゃんに抱っこしてもらって、見学していました。

オウメちゃんの抱っこが一番好きなんですけれど、オウメちゃんは一生懸命、絵を描いていたんで。


その時、サカモトさんに言われたんです。


「秋君、(りゅう)()君(・双子)と和桜(なお)ちゃんから放れないでね。

出来るだけ、祠の主様から放れていなさい」て。


 祠のヌシ様は、ここら辺を守っている神様なんですって。

お家の祠を壊されて、宝物をとられちゃって、いっぱい泣いたら雪がたっくさん降って・・・

その宝物を返しに行ったのが、ご主人様達です。

ボクも付いて行こうとしたんですよ。

でも、その時も、サカモトさんに止られちゃいました。


 その祠のヌシ様は、今、オオモリさん達と爪をキラキラさせたり、マツハシさんに髪の毛を編み込んでもらっています。

サカモトさんやタカハシさんが、ヌシ様のお肌にペタペタ塗ってます。


 それを、出入り口の近くに座ったオウメちゃんがジーっと見てます。

さっきまで、絵を描いていたんですけどね?

ちなみに、ご主人様は、とっても大切なテストを受けるモモカちゃんやサエキ君達のお勉強を見ています。


 オウメちゃん、瞬きしてます?

息、してます?

置物みたいで・・・


 あ、祠のヌシ様の頭が何だか変ですよ?

白と黒の粒?なんだかザラザラしてそうなものがヌシ様の頭を隠しちゃいました。

オオモリさんもマツハシさんも、気が付かないのかな?

オウメちゃんは、気がついてるの?


 そのザラザラはゆっくりと広がって・・・あ、タカハシさんが避けましたよ。


「オウメちゃ~ん」


 オウメちゃんの名前を呼びながら、サカモトさんが勢いよく立ち上がって、ボクにシィーって、口元に人差し指をたててみせました。


・・・もしかして、ヌシ様を見ちゃいけないのかな?


サカモトさんが、オウメちゃんの側に向かったら・・・


ヌシ様と目が合っちゃった


 あの白と黒のザラザラしたようなものでお顔も頭も隠されちゃったのに、真っ赤な2つの目だけは確りとボクを見てます。

その下に、赤い線がピーって入って、ゆっくり広がって・・・


 ハッキリ言って、怖いです!

怖くて、尻尾もお耳も垂れてます。

お耳は元からですけれど!

ボク、男の子ですもん、お漏らしはしませんよ!

ボクが逃げたら、ナオちゃん達は誰が守るんですか!!


パン!!


「キャン!!」


 急に、大きな音がして、思わず声が出ちゃいましたよ。


「あ、ごめんな、秋君。

コレコレ」


 音の正体は、タカハシさんが袋を開けた音でした。


「ほら、ヌシ様、いい匂いだろ?

このパックは、ザクロエキスが使われてるんだ」

「あら、ホントだわ~」


 袋は、パックなんですね。

たまに、ミヨさんやミワさんだお顔に貼ってる奴ですよね?

ここまで、甘酸っぱい匂いがします。


 ヌシ様のお顔が、元に戻っています。

サカモトさんも、オウメちゃんを連れてヌシ様の隣に戻って、またペタペタ始めました。


 アレは、何だったんですか?

ボク、まだ震えてますよ?


「秋君、怖い夢見たの?」


 そんなボクを、ちょっとだけ目を開けたナオちゃんが、良い子良い子してくれました。

ナオちゃんのいい子良い子も、気持ちがいいです。

落ち着いてウトウトしてきました。

でも、ボクより先に、ナオちゃんが寝てしまいましたよ。


「母さんと、連絡取れました~」


 ナオちゃんの、ズレちゃった毛布をくわえて直していたら・・・

バタバタって、コグレ先生がお部屋に入ってきました。

何だか、お疲れみたいです。


「とりあえず、新しい祠は『東条』で作るから、加賀谷さんと澤切さんにはお金を出せとの事ですよ。

今は手付金として、所有金額の8割貰ってこいと言われました」


 コグレ先生、ミワさんとミヨさんとカガヤさんとサワキリさんが、お喋りしながらお茶を飲んでるテーブルに突っ込んで行きました。


 ボクは、ナオちゃんの所でいいです。


「え~、堪忍して~。

この旅館に泊まるので、今月赤字なんや」


 カガヤさん、今月って、昨日始まったんですよ?

それぐらい、ボクでも分かるんですからね。


「うちの関連病院で、内臓摘出できますよ?」


 コグレ先生、スマートフォンを触って、画面をカガヤさんに見せました。

無表情って、ああいうお顔ですかね?


「・・・和良君、子ども達も居るから」


 ミヨさんがそっとスマートフォンを伏せました。


「お疲れなのね」


 ミワさんは、困ったようなお顔で、コグレ先生にお茶を煎れてあげました。


「すみません。

正直、正月2日から問題発生で、母さんには頭ごなしに怒られて、スマホごしなだけマシなんですけれどね・・・

メンタル(精神)、疲れました」


 コグレ先生のお母さんって、ユウイチさんの妹でシュウジさんのお姉さんなんですよね。

えっと・・・オウメちゃんとモモカちゃんのオバサンなんですよね。

ボクも何回か会った事ありますけど、強い人!てイメージです。


「あ、それと・・・今朝、桜雨ちゃん達が祠に行ってくれた件なんですけれど、修理代行の一部として、手数料をお支払いしますって言っていました」


 ミワさんが煎れてくれたお茶を飲んで、ちょっと落ち着きました?


「あら、お金なんて・・・」

「名目が付いたお金が動けば、外部から見ても『外』に頼んだとハッキリわかりますから」


 ミヨさんのお話が終わる前に、コグレ先生が苦笑いしながら言いました。


「あら、小暮先生ってば、意外と出来る子なのね。

私、見直したわ」


 サカモトさんが乱入です。

コグレ先生、サカモトさんに後ろからギュッとされて、体が固まってお顔が青くなりました。


「新しいお家、作ってくれるの?」


 ヌシ様が、ヒョコっとコグレ先生の前に来ました。

お顔に赤いパックを貼ったままですよ。


「は・・・はい。

きちんと『東条家』で、新しい物を・・・グエッ」


 サカモトさん、ちょっと力が強いみたいですよ。


「嬉しいわ~。

でも私、見たいものがあるのよね。

きっと、皆も興奮するわよ~」


 そう言って、ヌシ様はお勉強を教えているご主人様を見て、ニッコリ笑いました。



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